真夜中の……
その日の夕食は、施設おすすめの美容御膳なるものを……様々なオードブルや、果物野菜中心の料理と、山菜たっぷりの天ぷらを中心とした料理を食し、そうして一同は床に入り、眠りについた……のだが、施設の入り口ではその食事の間も、ハクト達が眠りについてからも、ある問題が大きな騒ぎとなってしまっていた。
それは施設を借りていた何人かの学生がどういう訳か施設に入れなくなったというもので……該当の学生とその幻獣と、その教育者と施設の職員が、施設の門前にて頭を抱えることになってしまった。
一体どうしてこんなことになったのか……この施設の日々でこれからの日々を大きく変えるはずだったのに……!
特に学生達はそんなことを考えていて……自分達に起きたその理不尽な出来事に怒って、その顔を真っ赤に染め上げている。
そもそもの話、幻獣に関わる者は幻獣を召喚することこそが学業の卒業試験であり、幻獣を召喚した時点で社会人として扱われ、幻獣に関わる仕事に就くものである。
仮に召喚した幻獣の力が弱かったり、仕事の役に立ちにくい特性を持っていたりしたとしても、それでも幻獣に関わる仕事は多岐にわたるもので……探せばいくらでも就職先はあるものである。
ハクトの工場務めは例外中の例外……ハクトの特殊な立場によって起きたもので、そう言う視点でみると、幻獣を連れた学生なんてものは存在しないはず……なのだが極稀に、彼らのような学生が存在してしまうことがある。
そうなってしまう理由はほとんどの場合、本人の内面に存在していて……就職試験を怠けただとか、面接の際に嘘をついてしまったとか、幻獣の力を過剰に申告してしまったとか、そういった心の弱さから起こしてしまった問題にあり……今施設を締め出されている彼らもまた、そういった弱さを持つ人物であった。
そんな理由で就職に失敗した場合、就職浪人という形で学生を続ける場合があり……彼らがまさにその就職浪人で、その内面の弱さをどうにかしてやろうと……幻獣の力を引き出せるようにしてやろうと、教育者は彼らをここに連れてきたのだが、ここに来て彼らがやったことと言えば……より強力な幻獣を求めて周囲を駆け回るという、ただそれだけのことだった。
その挙げ句にどういう訳か施設に入れなくなってしまって……そんな学生達の幻獣達は、一応彼らの側……と言えなくもない、かなり離れた位置に座り込んでいて……契約者であるはずの学生達に対し、酷く蔑んだ視線を向けてしまっていた。
幻獣達の立場からすれば、自分達は真っ当な契約の下で真っ当に、相応の力を持つ契約者の下へと来てやったのに、契約者達の弱さから来る失敗をなすりつけられ、無能扱いされ、別の幻獣を探すなんてことを言われ……契約があるがゆえに仕方なく、そんなどうしようもない行為に付き合わされて……もうとっくに心は離れていて、契約も切れてしまう寸前となっていて……早く元の世界に送還されたい、なんてことを考えている幻獣までいる始末だった。
幻獣もまた目的があってこちらの世界に来ている、やりたいことがあってこちらの世界に来ている。
そしてその目的は信頼の出来る、心を通わせた契約者の下でこそ果たせるもので……ここ数日の言動を見て幻獣達は、その目的が果たせないであろうことを確信してしまっていたのだった。
そんな状況に学生達は未だに気付かず……施設の職員と教育者達はそのことに気付きながらも懸命に、学生達に最後のチャンスをと思って、原因の究明に励んでいて……そんな施設の入口に、ふわりと一つの毛玉が降ってくる。
「クッキュン」
契約者達が寝ている隙に部屋を抜け出してきたそれがそう鳴くと、学生達は間抜けな幻獣が俺達を馬鹿にしに来たのかと憤り……教育者と施設の職員達は、学生達のそんな態度を見て、血の気を失い一気に顔を青くする。
こいつらは一体何に……誰の幻獣に喧嘩を売ろうとしているのか、分かっていないのか!?
教育者は目の前の毛玉がかなりの高レベルの、グリフォンやユニコーン、ペガサスをゆうに超える幻獣であることに気付いていて、施設の職員はその幻獣があの矢縫家の幻獣であるということを知っていて……慌てて学生達を止めようとするが、学生達はそのことに気付くことなく、自らの心に湧き出る憤りに突き動かされるままに、幻獣達に向けての命令を発する。
「こいつを叩きのめせ!」
「殺しちまってもかまわねぇぞ!!」
「切り裂いて踏み潰せ!!」
そう声を上げ、魔力を流し、契約に基づく攻撃をせよと、そう命令するが……幻獣達はただただ震え上がるのみで、攻撃などの敵対行動を取ろうとは一切しない。
一匹は雷獣と呼ばれる、犬によく似た雷をまとう幻獣だった。
一匹は氷鳥と呼ばれる、キジによく似た冷気をまとう幻獣だった。
一匹は炎猿と呼ばれる、猿によく似た炎をまとう幻獣だった。
その全てが震え上がり、翼を大きく広げて平伏するか、腹を出して地面に転げるか、頭を抱えて縮こまるかして、目の前の毛玉に対して降参の意を示し……毛玉は「クキュン」と尊大な態度での一声を発してそれを受け入れ、教育者と職員はほっと胸を撫で下ろし……そして学生達は、なんで自分達の言うことを聞かないのかと、酷いまでに憤る。
「クッキュン、クッキューン、クキュン、クッキュン」
そんな学生達に対し毛玉がそう声を上げて……そして毛玉は教育者と職員達に何かを訴えようとする。
だが、教育者も職員もその意を受け取れず……仕方無しに毛玉は、小さな毛玉をその体から切り離し、どこかへと飛んでいかせて……そしてどこからか一枚の紙を持ってこさせる。
その紙はこの施設の職員から職員や教育者に向けた重大な連絡事項が書いてある紙で、そこには一部の学生が違法行為である幻獣の乗り換えをしようとしているとの報告が記されていて……毛玉は、教育者と職員達に向けて、こいつらがその犯人だと、その視線の動きでもって知らせてくる。
「クッキュン!」
そして、鋭い一声。
毛玉は目の前の学生達に対し、この施設に入る資格無し、幻獣の召喚者たる資格無し。
このまま家に帰れと、家に帰って反省しろ……と、そう伝えようと声を上げる。
まさかの事実に唖然とし、呆れ返る教育者と職員達はすぐにその意を察したが……拳を握り、罵声を上げ、今にも飛びかからん勢いで憤り続ける学生には通じない。
「お前達、まだ分からんのか! 馬鹿な考えは捨てろ! 諦めろ!
お前達がどうにか出来る相手では……!!」
そんな学生に対し教育者は、精一杯の教育者としての愛情と慈悲でもってそう声をかけるが、学生達はそれすらも憤るための材料とし、烈火の如く怒り狂い……そうして毛玉に向かって殴りかからんとしてしまう。
瞬間毛玉は心底から呆れるような顔をし、そんな顔をしたかと思ったらその羽毛が弾けるように周囲に散らばり……散らばった羽毛が小さな毛玉へと変貌し、学生達が拳に込めた魔力の数十倍の魔力を放ちながら、学生達の下へと突撃していく。
それを見て教育者は、
「やめてくれ!!」
と、思わず声を張り上げる。
その声には学生達の命を奪わないでくれとの、切実な想いが込められていて……それを受けて毛玉はまたも呆れるような顔をする。
「クキューン」
こんな奴らをわざわざ殺す訳ないじゃないの。
そんなことを言わんとしているのか毛玉がそう鳴いた次の瞬間、怒り狂っていた学生達はいくつもの毛玉にその身を覆われ、魔力を奪われ、動きを封じられ……そうしてあっさりと鎮圧された上で……夜中に動き出し、寝不足となってしまったことにより発生した、小さな毛玉達の、ボサボサの抜け毛まみれの姿へと変貌してしまったのだった。
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