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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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すれ違ったのは……


 イノシシが運ばれていき……店に戻って注文書へ住所などを書いて、そうして正式に注文を終えたハクトが、どれくらいの量の肉が届くのか……冷蔵庫をどれくらい空けておいた方が良いのかとそんな会話をしていると、ハクトの側でグリ子さんが震え始める。


 ぷるぷる、ぶるぶると小刻みに小さく。

 

 ……すぐにその震えに気付いたハクトだったが、その目的が分からず意味が分からず、首を傾げはしたものの体調不良とかでは無いようだからと、店主との話を再開させる。


 そうしてすぐにイノシシの肉の話になり、かなりの量が届くことになるとかで、冷蔵庫の掃除が必要そうだとなって……ハクトがどうしたものかと悩んでいると、また震え始めたグリ子さんが、突発的に魔力を迸らせ……そうしてからなんとも良い笑顔になる。


「……あぁ、なるほど。

 たくさんイノシシ肉を食べられるのが嬉しかったのか」


 その震えと笑みに込められた意味をハクトが読み取って言葉にすると、突然のことに驚いていたユウカと店主と店員はホッとした表情になり……そしてグリ子さんはこくりと大きく頷く。


 大きく頷き「クッキュン」と鳴いて、そうしてから今度はもぞもぞと体を揺らし、クチバシでちょいちょいと自らの毛をついばみ……そうしてから羽毛を一本引き抜いたグリ子さんはそれを、店主の方へとそっと差し出す。


「こ……これは!?」


 すると店主がそんな声を上げて、


「グリ子さんはどうやら、気に入った飲食店に羽根をプレゼントするのが好きなようで……ご迷惑でなければ受け取ってください」


 と、ハクトがその行為の説明をする。


 ハクトの説明を受けて店主は目を丸くしながらも頷き、まるで跪いているかのような態度でグリ子さんの目の前にしゃがみ込み……なんとも恭しい態度でそれを受け取り、受け取るなりグリ子さんに、


「……ありがとうございます!」


 と、そう言ってから大事そうに羽根を抱えて店の奥へと向かい……ユウカがその様子を追いかけて確認すると、店主がキッチンにある神棚に納めて、柏手を打っている姿が視界に入り込む。


「えぇ……神様扱い?

 いや、この場合はお供え物扱い?」


 なんてことをユウカが口にしていると、ハクトが小声で「覗き込むものではないよ」と、そう言ってユウカの手を引いて元の場所……レジの前へと戻り、そこで店主が戻ってくるのを待つ。


 戻ってきたなら住所名前電話番号をしっかりと書いた注文書を渡し、挨拶をし……そうしてから改めて店を後にして……そうしてハクト達は山をゆっくりと下っていく。


 まさかまたイノシシに会うことは無いだろうとは思いつつも、ハクトとユウカは警戒し……ついでにもう出てくるなとそれぞれの魔力で威嚇し、グリ子さんはもっと出てこい出てこいと、目を輝かせながら足を弾ませながら歩いていく。


 すると麓の方から何人かの……若者と言って良いだろう者達が犬型や鳥型の幻獣を引き連れながらこちらへと駆けてくる。


 それは以前……蕎麦屋を後にした時にも見た顔で、そしてハクト達の側を通り抜ける形で山の上の方へと駆け上っていって……その面々は以前のようにグリ子さんのことを見下すような視線を送ってくる。


 それに対しハクトは相手にせず、ユウカは少しムッとし、グリ子さんは全く気付かないままスキップを刻み……そうしてハクト達もまたグリ子さんの後に続こうとしていると、その若者達の方から聞き逃がせない言葉が聞こえてくる。


「おい! 見逃すなよ! ここらに強力な幻獣がいるはずなんだ!

 それを捕まえて、こんな雑魚幻獣とはおさらばするんだからな!!」


 その言葉を聞いた瞬間、ユウカは眉間にシワを寄せて若者達の背中を睨み……グリ子さんは相変わらずの態度で、そしてハクトは、無表情ながら周囲を震わせる程の殺気を放つ。


 幻獣は一人につき一匹まで。


 それは複数の幻獣関連法によって厳格に定められたルールだ。


 一度召喚したならその寿命が尽きるまで……あるいは元の世界に送還するまでは他の幻獣と契約することは許されない。


 他の幻獣と契約したいからと殺すことは当然許されていないし、無許可無断、身勝手に送還することもまた許されておらず……送還に関しては前回の災害に対する緊急対応とかでなければ、何枚もの書類を提出した上でかなり厳しい審査を受け、最終的には裁判所の許可まで必要になってくる大事だ。


 より強い幻獣と契約したいから、なんてのはもってのほか……そもそもにおいて幻獣は自らを写す鏡のようなもの。


 もし強い幻獣と契約したければ自らを鍛え、その魂を相応のものにまで磨くことが重要で……そうした常識というか、幻獣に関わる者であるならば厳守すべきルールを、完全に逸脱している彼らの言葉が殺気を放つ程にハクトを怒らせてしまっていた。


 その殺気のあまりの凄まじさにユウカは震え上がって怯み……そしてグリ子さんは振り返り、


「クキュン?」


 と、声を上げながら……心配そうにハクトのことを見やり、それを受けてハクトは目を閉じ、深呼吸をし……そうした上で平静さを取り戻す。


 ここでハクトが怒ったり、あるいは若者達に注意をしたりしても、あまり意味は無いだろう。


 そんな注意でどうにかなるような分別をわきまえた者達であるなら、そもそもあんなことを言い出さないはずで……そんな思考に至らないはずで……。


 ……そう考えたハクトは、あとのことは若者達の教育者、あるいは関係者に任せようと静かに頷く。


 この辺りに居るということは宿泊施設の関係者である可能性が高く、であるならば職員に一言でも言っておけば伝わるはずで……事が事だけに一言でも相応の問題になり、対処をしてくれることだろう。


 それで十分……余計なことはすべきでないともう一度頷いたハクトは、気を取り直し表情を解し、ユウカとグリ子さんの下へと歩いていく。


(……しかしこの山に強力な幻獣だと?

 そんなものがいたなら何よりまず俺と風切君が気が付くはずなのだが……)


 歩いていく中でハクトはそんな疑問を抱くが……考えてどうなるものでもなし、連中の勘違いと考えた方が適切だろうとの判断をし……そうしてそれ以上は深く考えずに、ユウカ達と合流し……皆での散歩を素直に楽しむのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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