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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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獣と幻獣と……


 店へと駆け戻り、店の奥で調理の準備をしていた、四十くらいの男性店主につい先程何が起きたかを伝えると、店主はどこかへと電話した上で、ハクト達と共に現場へと向かってくれた。


 現場では変わらずイノシシが横たわっていて……それを見るなり店主は慎重に、イノシシが生きている可能性も考慮しているのか、いつでも距離を取れるようにと警戒しながら近付き、イノシシの様子を確かめる。


 するとどうやらイノシシは、まだ絶命していなかったようで……店主は手を合わせてから腰に下げていた鞘からナイフを引き抜き、イノシシにとどめを刺し……血抜きなどの作業を始める。


「……この肉、どうするつもりだ?」


 作業をすすめる中、店主にそう問いかけられて……店主の下へとゆっくりと足を進めたハクトは、作業の様子を見やりながら言葉を返す。


「偶然の出来事とはいえ、俺達に責任が全く無かったとも言えないと思うので……出来ればちゃんと食べて供養をしてあげたいのですが」


「ふむ……まぁ、それも一つの手だろうが……食べるとなると、そうだな、少し時間がかかるかもな」


「時間、ですか?

 解体であれば俺達も手伝いますが……」


「ああいう店をやってる身としては、ただ解体だけして、はいどうぞ、食べてくださいって訳にはいかねぇんだよ。

 血抜きが終わったらこいつを知り合いの解体業者に引き取ってもらって、そこで解体と病変検査をしてもらう。

 病変検査で問題がなければ部位ごとに切り分け、冷蔵熟成と真空パックをしてもらい、アンタらの家に郵送するって感じになるだろうな

 自分で食う分にはそこまでしねぇが、客に出すとなったらそのくらいのことは必要って訳だ。

 ……ああ、そこの幻獣さん……グリフォンさんが食べるってんならまた話は違うがな」


「……幻獣が食べる場合は、検査は必要ないと?」


「ねぇな。

 何しろ幻獣さんの世界は病原菌や寄生虫までが魔力を持ったとんでも生物で、そんな連中すらあっさりと無毒化っつうか、無害化するのが幻獣さんだ。

 それがグリフォンさんともなれば人間が食えない生肉だってガンガンいけるし、少なくともこっちの世界のもんを食う分には検査なんていらねぇだろうな」


「クッキューン!!」


 ハクトと店主の会話の途中で、グリ子さんがそんな声を上げる。


 その声には料理もせずに生肉で食べるなんて、そんな野蛮なことしないよ! との意味が込められていて……それに苦笑したハクトは、グリ子さんにちょっと待ってねと、仕草で伝えてから、店主に言葉を返す。


「そういうことであれば……今声をあげたグリ子さんに食べてもらうのが主ですが、俺もいくらかは食べると思いますので、しっかり検査をしていただければと思います。

 解体、検査、郵送費用は前もってお支払いしますので……作業が落ち着いた段階で詳細の計算をお願いします。

 ……それと少し気になったのですが、幻獣にお詳しいのですか? グリ子さんをひと目見てグリフォンだと気付かれたようですが……」


 すると店主はちらりとグリ子さんの方を見てから……イノシシの方へと向き直り、包丁でイノシシの足などを叩きながらハクトの疑問に答えていく。


「最初は一体どんな幻獣なんだと戸惑いはしたがな……脚の付き方、翼の形、それと顔の形……そこら辺の肉の付き方とかでもまぁ分かるわな。

 お前さん達は猟のことをよく知らねぇんだろうが……猟をするための免許取得の際には、狩猟可能鳥獣なのか、そうでないのか、鳥獣の写真を見て答えるテストがあるんだよ。

 更には普通の獣と幻獣を見分けるテストもあって……山の中で幻獣を見かけた時に獣と間違えて撃っちまったなんて事故をなくすために、結構な勉強をさせられた上で、かなりの難度のテストをさせられるんだよ。

 肉の解体をしているのもあって、獣の体の構造にも詳しくなるしなぁ……ひと目かふた目見れば、それが獣なのか幻獣なのか……どんな幻獣なのかはだいたい分かるって訳だ」


「なるほど……猟師になるには幻獣にも詳しくないといけないのですね」


「漁師だって変わらねぇさ、海には海の幻獣がいるからな。

 パイロット連中は空の幻獣の勉強をするし……まぁ、自然と関わる連中は大体、自然の中を散歩していたりする幻獣にいつ会っても良いように勉強するって訳だ。

 でもまぁ、そこのグリフォンさんみたいに幻獣って分かりやすい姿をしている場合は楽でいい。

 ……猫又とか九尾の狐とか八咫烏とか、尻尾や足の数だけの違いで見分けろなんて言われるとなぁ、咄嗟には難しいからなぁ……」


 猫又は尻尾が二本、九尾の狐はその名の通り尻尾が九本で、八咫烏は足が三本。

 

 冷静に、じっくり見ることの出来る状況なら間違うことはないのだろうが、森の中山の中で、猟銃を手にしての緊張感の中でとなると、簡単なことではないのだろう。


 そう考えてハクトが「ご苦労さまです」と声を返すと、店主は「おう」とだけ返事をして作業を進めていく。


 すると少し離れた所でずっと話を聞いていたらしいユウカが、ぽつりと言葉を漏らす。


「九尾の狐って……昔悪さをした幻獣でしたっけ?」


 その言葉を耳にしてハクトは小さなため息を吐き出し、そうしてからユウカの方へと足を進め、人差し指をピンと立てて……お説教が始まるその合図にユウカが顔を青くする中、口を開く。


「風切君、九尾の狐が悪さをしたというのは物語の中の話で、九尾の狐は元来、瑞獣ずいじゅう……とても縁起の良いとされる、人に恵みをもたらすおめでたい幻獣なのだよ。

 麒麟や鳳凰と同格であるとされていて……古代に人々に幻獣に関する知識を与えた智慧の象徴たる幻獣、白鐸と同格だなんて話もある程だ。

 ……この辺りのことは言うまでもなく学院の授業で習うはずで、当然風切君も知っているはずの知識なのだがね?」

 そんな言葉を皮切りにハクトはくどくどと、ユウカの勉強不足を補うための臨時特別授業を開始する。


 それを受けてユウカは顔を青くしながらも、反論することが出来ず、制止をすることが出来ず……イノシシの血抜きが終わり、解体業者がやってきて、血抜きが終わったイノシシを運び去るまでの間、ハクトの授業を……店主や業者の苦笑い交じりの視線の中で、受け続けることになるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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