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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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昼食の時間


 座禅修行を終えて寺を後にしたハクト達は、山道を登った先にあるという飲食店を目指して歩を進めていた。


 座禅修行を完遂出来たことに感じ入ったらしい僧侶の好意で、僧侶と同じ席について精進料理をごちそうしてもらうことになり……豆腐料理や山菜の天ぷら料理や、干しトマトを旨味出汁にしての汁物などを食べることになったのだが、朝に激しい運動をしていたせいかそれだけでは足らず、むしろ精進料理によって胃と食欲がいつも以上に刺激されてしまって……精進料理を完食後にユウカとグリ子さんの腹が激しいまでの音を立ててしまい、そうして僧侶からその飲食店を紹介されたという訳だ。


 なんでもその飲食店の主人は猟師なんだそうで、冬の間に自らの手で獲った肉を様々な料理にして提供しているらしく……この辺りでは評判の店であるらしい。


 僧侶は僧侶であるがゆえに一度も行ったことはないそうだが、それでも噂は何度も耳にしていて……今のユウカ達が求めているしっかりと腹を満たしてくれる料理を食べるならそこが良いだろうとのことだった。


 そういう訳でハクトを先頭にユウカとグリ子さんが続く形で、今日もまたちょっとしたハイキングを楽しむことになった一同は、10分程の山道散策を経てログハウスといった外観の、ステーキハウスなる看板を構えた店を発見する。


「山の中のステーキハウスっていうのも珍しいですねー……こんなに山道を歩かないといけないなんて、中々お客さんが来ないんじゃ?」


 店を見つけるなりユウカがそう言って……ハクトはグリ子さんの頭を撫でながら言葉を返す。


「確かにその通りだが……こうやって山道を歩くとお腹も減るものだからね。

 さっき精進料理を食べたばかりの俺達でも中から漂ってくる良い匂いに負けかけているんだから、何も食べずにここまで来たお客さんにとっては最高のお店に見えるのではないかな」


 と、そんな会話をしながらドアを開けると、外見から想像していたよりは広く見える店内が視界に入り込み……すぐにエプロン姿の女性が奥から姿を見せて声をかけてくる。


「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」


 その声を受けてハクト達は店内へと進み、窓際の景色を楽しめるテーブルにしようと決めて……ハクトとユウカが向かい合う椅子を自分達の席と決める中、グリ子さんは幻獣用なのかそれとも荷物置きなのか、ご自由にお使いくださいとの張り紙のされた木箱をハクトにテーブル側まで運んでもらってその上にちょこんと腰を下ろす。


 そうして席についたならメニューを開き……ざっと目を通し、ハクトとユウカは同時にあるメニューにその目を奪われる。


 ハクトがグリ子さんにメニューのその部分を見せてあげるとグリ子さんもまたそれが気になったのか、瞳をキラキラと輝かせ……もうこれにするしかないなと頷きあった一同は、手を挙げて注文を済ませる。


「イノシシのステーキを3人分お願いします」

「イノシシ、食べてみたいです!」

「クッキューン!」


 するとすぐに「はーい」との返事が聞こえてきて、キッチンでの作業音が聞こえてきて……ハクト達はメニューをもう一度確認したり、窓の向こうの景色を見たりしながら時間を過ごし……そう待たされることなく、スープとサラダとライスと……大きな皿に盛り付けられたイノシシステーキが配膳される。


 細切りキャベツと玉ねぎを炒めて皿に敷き詰め、その上にハーブ塩で味をつけ、ニンニク油をしいたフライパンでもってじっくりと焼き上げたカットされたステーキがずらりと並んでいて……たまらない匂いがそこから立ち上ってくる。


 エプロン姿の女性から味付けなどの解説を受けたユウカとグリ子さんは、ステーキから目を離すことなく頷き……そうしてハクトが音頭を取る形で声を上げる。


「いただきます」


 するとユウカとグリ子さんもそれに続き、続くなり片や箸を、片やクチバシを構えて……そうして一気にステーキへと襲いかかる。


 イノシシ肉のステーキは、予想していたよりもずっと柔らかいものだった。

 柔らかく一噛みしたらそれだけで噛み切ることが出来て、噛み切った瞬間肉汁が溢れ出て……たまらない旨味が口の中にじゅわっと広がる。


 ステーキソースなどはなく、塩とハーブだけというシンプルな味付けとなっていたが、それでも十分過ぎる程に味がしっかりとあり、噛めば噛む程旨味が染み出してきて……一度食べ始めたらもう箸もクチバシも、口の動きも止まることはない。


 肉も美味いが肉と一緒に食べるライス……ご飯もまた美味しく、キャベツとタマネギも程よく炒められている上に肉汁を吸っていて最高の味となっている。


 スープはトマトベースの爽やかな酸味を感じるスープとなっていて、箸休めのような存在となっていて、そのおかげで少し多めかなと思うステーキを飽きることなく食べ続けることが出来る。


 朝激しい運動をして、座禅修行をして……そして精進料理で食欲に火を点けていたのが良かったのだろう、ユウカもグリ子さんも、ハクトまでが目の前のステーキに夢中となって言葉一つ発することがない。


 そんな中グリ子さんの心境は少し複雑だった。


 グリ子さんはこの旅で、タコという理想を越えたこれ以上ない最高の食材に出会っていたのだが、このイノシシ肉というのも負けず劣らず美味しく……タコかイノシシか、甲乙つけ難く、どちらが最高の食材なのか分からなくなってしまっていたのだ。


 昨日はあれだけタコを楽しみ、タコに恋したのに、今はイノシシ肉に心を奪われ、夢中になってしまっている。


 タコが最高じゃなかったのか? イノシシ肉が最高なのか?

 いやしかしタコはタコで美味しかったし……イノシシ肉が美味しくないという訳でもないし……。


 そんな事を考えて複雑な心境となったグリ子さんは、複雑な心境の中、そのクチバシを皿の上のイノシシステーキに向かって突き立て続ける。


 もちろん野菜もライスも、スープもハクトに手伝ってもらいながら楽しみ……そんな最高の時間はあっという間に終わりとなる。


 皿に残るイノシシステーキは残り一切れ。


 かなりの量があったはずなのに、お腹もかなり膨れているのに、それでもまだまだ食べ足り無いという気分になってしまう。


 それ程にイノシシステーキは美味しく、タコとどちらが美味しいのか決断出来ない程の味で……グリ子さんはそれ程に美味しかったステーキが、これで無くなってしまうことを惜しみながら、ぱくりと啄み……口の中にゆっくりと流し込む。


 そうしてじっくりゆっくり咀嚼したなら……ごくりと飲み下して、


「クッキュン」


 と、満足感をこれでもかと込めた一声を上げるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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