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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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決着


 それからしばらくの間、ユウカの攻勢が続いたのだが、駆けて跳ねて回転して、必要以上の動作でもって攻撃していたためか、ユウカの体力だけが消耗する結果となり……段々とその動きから勢いが失われていく。


 ユウカの体力は普段から鍛えているだけあってハクトよりも多かったのだが、流石に無駄な動きが多すぎたのか、汗がどっと流れ出し、息が激しく乱れ、体全体が重くなり……そうして生まれた隙を狙ってハクトがまっすぐに、十分に手加減した正拳突きを放つ。


 それをそのまま受けてしまえば一本となってしまい、体を大きく動かしての回避行動を取れば更に体力を消費してしまう。


 そういう訳でユウカは重い両腕を上げての防御姿勢を取り……ハクトはそんなユウカに向けて右左と交互に、リズム良く、正拳突きを放っていく。


 軽く速く、力を込めず。

 それは先程までのユウカの攻撃に比べればとてもシンプルなもので、シンプルなだけに体力を消耗せず、速いテンポで攻撃を放つことが出来……結果、隙が中々生まれず、ユウカは防御をするだけで精一杯となり、反撃の機会を掴むことが出来ない。

 

 これでハクトが油断をするような性格ならば、そこに付け込めたのかもしれないが、ハクトはそういう性格ではなく、油断を全くしない性格なのでここでユウカが何らかの奇策に打って出たとしても冷静に対応するに違いなく……ユウカは心中で、


(しまったなぁ、考えなしに動きすぎた)


 と、そんなことを呟く。


 体力を無闇に消費しすぎた、万全の状態であれば真っ向から打ち合うことで、反撃の機会を得られたはずなのに……。


 そんなことを考えて、どうにか出来ないかと考えて考えて……そうしてユウカはダメで元々の奇策に打って出ることを決意する。


 予想外で常識外で、ハクトが修めている逮捕術で対応出来ないような奇策。


 そうなるともうこれしかないと考えたユウカは、ハクトの攻撃を受け止めながら力を込めて、魔力を込めて、そして受けたハクトの拳を受けた腕でもって強く打ち払い、無理矢理に作った隙でもって、床を強く蹴って大きく跳躍する。


 大きく跳躍し、見上げる程の高さに至ったなら、そこで空中で魔力を放出し、それを推進剤にして空中で加速するというとんでもないことをしでかして……そこから斜め前方、ハクトの方に向かって急落下しての、飛び蹴りを放つ。


 まさかこんな人外の動きは想定していないだろう、想定した格闘技など存在しないだろう。


 そう考えてのユウカの奇策に対しハクトは、至って冷静に歩いて前進するという手に出る。


 前進して先程までユウカが立っていた場所に至って……流石のユウカでも重力による落下に逆らうことは出来ず、誰もいなくなった床に虚しく落下し……慌てて体勢を整えようとするが、そうするよりも早くハクトが動き、立ち上がろうとしているユウカの脳天に軽いチョップを打ち下ろす。


「はい、これで一本」


 ぽふんとユウカの脳天に触れてそう言って……そんなハクトの一言にユウカは無言のままガクリと項垂れる。


「何が悪かったかはもう分かっているだろうから、反省会は無しで良いかな。

 ……それよりも、朝食の時間が来る前に汗を流した方が良いかもしれないね」


 続けてハクトがそう言うとユウカは無言でこくりと頷き……そこにチャッチャカと爪音を立てながらグリ子さんがやってきて、クチバシでつまんでいたタオルをハクトとユウカに渡してくれる。


「クッキュンクッキュンクキュン!」


 渡しながらそう声を上げて……ユウカのことを励まして。


 まだまだ完璧にはグリ子さんの言葉を理解出来ていないユウカだが、その響きと態度からそこに込められた意味を察し……顔を上げて笑顔を見せて、受け取ったタオルで汗まみれの顔をごしごしと拭う。


「……うん! 先輩もグリ子さんもありがとう!

 いやぁ……朝からこんなに汗かくのは久しぶりですねー。

 お家ならちょっと面倒なんだけど、ここなら良いお風呂たくさんあるから、全然おっけーですねー。

 先輩もちゃんとお風呂入らないと駄目ですよ?」


 拭ったならそう言って立ち上がり……ハクトもまたタオルで顔を拭いながら言葉を返す。


「もちろん入るとも。

 昨日入ったサウナは中々良かったからな……あれをもう一度やって、30分少しか。

 うん、それでちょうど朝食の時間となるだろう」


「え、サウナ入るんですか?

 こんなに汗流したのに更に流すんですか? 先輩、大丈夫なんですか? それ?」


「うむ、もちろん入る前にはしっかりと水分補給をしておくから大丈夫だ。

 ちなみにだがサウナ室の前にはクーラーボックスが置いてあってだね、そこに入っている氷を口に含みながら入るというのも中々悪くなかったぞ。

 噛まずにじっくり口の中で溶かしながらサウナを楽しむ訳だ」


「なんか熟練者っぽいこと言ってる!? 先輩がサウナ入ったのって、昨日が初めてですよね!?」


「うむ、学院の施設にはサウナは無かったからね……しかし今にして思うと、学院でも汗を流す機会は多いのだから、シャワールームだけでなくサウナもあって良かったのではないかなぁ」


「い、いやいやいや、学生の、子供の体でサウナとかは、多分危ないんじゃないですか? 大人ほど熱に強くないっていうか、水分も体力も保てないんでしょうし……」


「ああ、そうか、そう言う問題もあったか。

 確かにサウナは気持ちいい反面気をつけなければならないこともあるからなぁ……遊び半分で入りかねない学生に使わせるのは危険か」


「クッキューン」


 なんて会話をしたならハクト達は歩き始め……運動場から会話を続けながら賑やかに立ち去っていく。


 そんなハクト達のことを運動場を利用していた……すっかり見学者と化してしまっていた人々は黙ってじっと見つめ……かの名高い学院の生徒はあんなレベルの子ばかりなのかと戦慄し、顔を青くする。


 そうしたならそれぞれに声を上げるなり、自らの頬を平手で張るなりして気合を入れ直し……今すぐそこで行われていた組み手のレベルに追いつけるようにと、改めて自らの体を鍛え直し始めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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