食後の時間
ヤマメやタコ足を食べあげると、今度は野菜のホイル焼きが出され、サツマイモを始めとした様々な野菜の、本来の味をこれでもかと引き出した、甘く柔らかく、独特の旨味があるそれらの野菜を食べたなら、最後の締めとして、炭火でじっくりと温めて旨味を引き出した煎茶が出される。
甘く旨く、本当にお茶かと思うその味にハクト達が夢中になっていると……職員達はさっさと片付けを始めて、最後の最後に熱を持った炭のほとんどをバケツで回収し、一部だけを灰の中に埋める。
「囲炉裏の熱を感じたいだけならこの量で十分ですので……ほかは回収させていただきます。
あとは朝までこのままで問題ありませんので……もし追加の料理などが欲しい場合はまたご連絡いただければと思います」
そうした作業を終えてからそう言って職員達は静かに去っていって……ハクトとユウカは湯呑で、グリ子さんはグリ子さん用の器で煎茶をゆっくりと飲んでいく。
そうしながら窓から庭を見てみればすっかりと日は暮れていて、ライトアップされた庭が普段の生活ではまず見ることのない、不思議でありながらとても落ち着く独特の空間となっていて……囲炉裏の熱を感じながら一同は、そんな光景をしばらくの間、じっくりと楽しむ。
「そろそろ良い時間かな」
じっくりと楽しんだならハクトがそう声を上げて立ち上がり……湯呑などを玄関に置かれた、食器回収用トレーに置き、グリ子さんの湯呑を台所で洗って乾燥棚に置き、そうしてから洗面所に向かって歯磨きを始める。
ユウカもそれにならって歯磨きや、寝る前のスキンケアなどを始め、グリ子さんはハクトにクチバシを磨いて貰ってから毛繕いを始め……全員で寝るための準備を整えていく。
(あれ? そう言えば寝室とかはどうするのかな?)
準備をする中でユウカがそんなことを考えていると……さっさと準備を整えたハクトが「おやすみ」との一言を口にしたと思ったら、職員に用意してもらっていたらしい自分用の布団を抱えてきびきびとした動きで貴賓室の最奥、恐らくは茶室なのだろう、特別狭く落ち着いた雰囲気となっている小部屋に向かい……ユウカ達の返事を待つことなくパタンと扉を閉めて、ガチャンと鍵の音であるとはっきりと分かる音を立てる。
(まぁ、そうですよね! 先輩のことだからそうするんだろうなぁとは思ってましたけどね!)
その音を耳にしてそんなことを思ったユウカは……自分の隣にちょこんと立って、期待をしているような、ワクワクとしているような、そんな視線を送ってきているグリ子さんを見やる。
ハクトが籠もった茶室は、狭いとは言え数人でお茶を飲む場……グリ子さんと一緒に寝るくらいのことは普通に可能だろう。
それでもグリ子さんをユウカの側に残したのは、ユウカが寂しくないようにと気遣ったからに違いなく……事前にハクトから話を聞いていたのか、最初からそのつもりだったらしいグリ子さんは、早くユウカと一緒に寝たい……というか、布団の上でのごろごろとしながら、一緒の時間を過ごしたいと言わんばかりの表情だ。
「……うん、じゃぁグリ子さん、一緒に寝ようか!
まだまだ言葉はよく分かんないけど……おしゃべりしたり、テレビ見たり、一緒に遊んだりしよ!
えぇっと確か寝室は……」
大きく広い貴賓室は、部屋の数も相応にあり……少し迷ってからユウカは、入り口近くにある案内図を確認し、そうしてから寝室へと向かう。
襖を開けるとほのかな電灯が既に点灯していて、それを頼りに電灯から垂れ下がる紐を見つけてそれを引っ張って……そうやって寝室を明るくする。
するとそこにはユウカ用のふかふかとした大きな布団と……それ以上に大きい丸いクッションのような、グリ子さん用の布団があり、それを見るなりグリ子さんはタタタッと駆け出し、クッションの上にちょこんと座る。
そうしてからもじもじと足を動かし、お尻を動かし、クッションを座りやすいように整えて……しっかりと整え終わったなら満足そうな表情でほっとため息を吐き出す。
「あはは、グリ子さんも気に入ったみたいで良かったよ!
私もこんな良い寝室とお布団初めてで、とっても気に入っちゃったなー……」
なんてことを言いながらユウカはぐるりと寝室の中を見回す。
大きなテレビが置かれた台があり、その側に電話や金庫や冷蔵庫などがあり……奥にはふかふかのソファが置かれた、外の光景を見るためだけの、大きな窓を構えた空間があり……そして大きな本棚と、どう見ても勉強机にしか見えない机が置かれた空間がある。
机の上にはいくつかの小冊子とノートと鉛筆と鉛筆削りと……いかにも勉強しなさいと言いたげなセットが置いてあって、ユウカはすかさずそこから目を逸らす。
ハクトから勉強をしなさいとは言われていない。
あれはあくまでしたいならしても良いよという……したければいつでも出来るよという、善意での準備であり、ユウカはそんなつもりは全く無いとばかりに、徹底的にそちらを見ないようにしての無視を決め込む。
「クルッキューン」
するとそんなユウカの様子を見てか、小さな翼を軽く振り上げたグリ子さんがそう声をかけてくる。
「ん? どしたのグリ子さん?」
まだまだグリ子さんとの付き合いは深くなく、その言葉の意味をしっかりと受け取れないユウカが首を傾げながらそう言葉を返すと、机の方を一瞬だけ見やったグリ子さんは振り上げた翼を振り回し……そうしていつのまにか周囲に漂わせていた魔力を光らせる。
本来魔力とは目に見えないものだ。
目に見える状態……可視状態にするには余計なエネルギーを使ってしまうもので、わざわざそうする理由は全くといって良い程に無い。
それでもグリ子さんはあえて魔力を見えるように……今日山で見てきたような、新緑のような緑色に光らせて部屋の中を漂わせる。
「え、何これ……オーロラみたいできれいー」
それを見るなりユウカはそんな声を上げて……無我夢中で部屋の中を漂う魔力を見やる。
するとグリ子さんは更に翼を振って、魔力を自由自在に操って……そうすることであるものをユウカに見せようとし始める。
魔力がどういう存在なのか、自然界の中で魔力がどう存在しているのか、漂っているのか。
その魔力を人や幻獣が操ろうとした場合どういう流れに変化するのか……どういう流れにするのが効率的なのか。
それはそのまま机の上の小冊子に書かれていた内容で、ハクトがこの機会に学んで欲しいと思っていた内容で……そうしてまんまとユウカは、オーロラのような魔力の流れに見惚れながらの勉強をすることになってしまうのだった。
お読みいただきありがとうございました。




