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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第二章

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囲炉裏


 炉端焼きを食べようと決めて、ハクトが備え付けの電話で注文をしていると、すぐ側でその小さな耳をピンと立てていたグリ子さんが声を上げる。


「クキュ! クキュ!」


「え? タコかい? 炉端焼きでタコは……どうだろうなぁ」


 グリ子さんの声に込められた意味を受け取ったハクトがそう声を上げると……電話の向こうの職員から声が返ってくる。


『タコですか? ありますよ、甘酢漬けのタコ足を串に刺して焼いて食べる形になりますが……』


 グリ子さんの耳は受話器から漏れるその声をしっかりと聞き取っていて、グリ子さんの目が輝き、その体全体でコクコクコクと頷いたのを見てハクトは「それもお願いします」と注文を済ませる。


 すると職員は『準備が出来次第にお伺いしますね』とそう言ってくれて……それを受けて頷いたハクトは受話器を置いて、そうしてからグリ子さんに声をかける。


「甘酢漬けのタコとなると、タコの味よりも酢の味が強いんだろうし、好みが分かれる味になると思うから、そのつもりでね」


「クッキューン!」


 ハクトその言葉に、問題ないとばかりに元気に返したグリ子さんは、またも大きく体全体で頷く。


 それからハクトとユウカとグリ子さんは囲炉裏の部屋へと移動して席について、ゆったりとした時間を過ごそうとする……が、すぐに部屋の外にある呼び鈴の音がして、まさかもう来たのかと驚きながらハクトが、出迎えのために入り口へと向かう。


 するとバケツを持ったエプロン姿の女性職員が立っていて……そのバケツには備長炭と炭掴みなどの道具があり、それを見て納得したハクトは「どうぞ」とそう言って囲炉裏の部屋まで案内する。


「え、あ、そっか! 炭火いりますもんね! 炭火焼きですもんね!」


 そうやって部屋に入ってきた職員を見るなりユウカがそんな歓喜の声を上げて、グリ子さんが首を傾げる中、慣れた手付きの職員による炭の火付けが始まる。


 まず囲炉裏の中央に備長炭を山のような形に組み上げて……その下部分に着火剤を入れて火を付けて、竹筒を取り出し、それを使って息を吹きかけ炭の中で唸る火を大きくしていく。


 ある程度火が強くなり、いわゆる熾火おきびと言われる状態になったなら今度はその炭を囲炉裏の灰の中に埋め込んで……炭の山をもう一つ作り、そちらにも火を付けていく。


 するとそんな様子を見てグリ子さんと同時に首を傾げたユウカが、


「え? なんで灰の中に埋めちゃったんですか? 失敗だったんですか?」


 と、そう声を上げて……職員は作業を進めながら言葉を返してくる。


「ご安心ください、灰を軽く被せただけでは火は消えないんですよ。

 こうやっておきますと、灰の中でゆっくりと燃焼して、灰……と言いますか、囲炉裏全体を温めてくれるんです。

 そうしておいて野菜とかをですね、アルミホイルに包んで灰の中に入れますと、じんわりと火が通って、程よく味を引き出された野菜の蒸し焼きのようなものが出来上がるんです。

 秋にサツマイモをこうやって焼くと、それはもう甘くなって甘くなって、驚くくらいなんですよ」


「へぇーー、そうなんですねー!

 ……秋かぁ、秋まではまだまだ遠いなぁ……。

 先輩、秋になったらまた来ましょうよ!」


 職員の言葉を受けてすぐさまにユウカがそう声を上げて、ハクトがいやいや、囲炉裏で焼き芋をするだけならわざわざここまで来なくても……と、そんな声を上げようとしていると、それよりも早く笑みを浮かべた職員が声を上げる。


「旬では無いですけど、サツマイモなら冷蔵のがいくらかありますよ、お持ちしましょうか?」


「はい!」


「クキュン!」


 女性陣の返事は速かった。


 そうして追加注文を受けると、職員は笑顔で頷き……しっかりと炭の山を熾火の状態にしてから、部屋を後にする。


 するとユウカとグリ子さんは炭火を見ながら楽しげに鼻歌を口ずさみ始め、そのリズムに乗って体を左右に揺らし始め……そうしながらお互いの距離を縮め、体を寄せ合ってじゃれあって、その勢いのまま横になって畳間を同時に転がる。


「あ……先輩、寝転がるとすっごく温かいですよ。

 なんかこう……熱が畳を伝わって来る感じで……」


 ゴロゴロと寝転がりそう言って、目をつむりかけて……そんなユウカを寝かすまいとハクトは、少し大きめの声で言葉を返す。


「昔から囲炉裏の間では、熱に負けた子供が寝るものとされているね。

 畳との相性は言うまでもなく良いもので……今の風切君のように座布団を枕にするのが定番中の定番だったのだろう」


「そーなんですねぇ……あー……これなら家に欲しくなるくらいですねぇ。

 なんで私の家には囲炉裏がないんだろうなぁ……毎晩美味しいご飯も食べられるのに」


「何故かと言われれば手間がかかるから、だよ。

 火を起こすということは当然、そこから煤などが上がる訳で、灰が囲炉裏の外に溢れることもある。

 炭も良いものとなるとそれ相応に高い値段がするものだし……温かさにも限界がある。

 ……と、そんな感じで電気やガスの暖房にはあらゆる面で負けてしまうだろうね。

 畳に茶がらを撒いて掃除をする、なんてことを聞いたことはないかな? あれは主に囲炉裏の煤を掃除するためのテクニックだったりするんだよ。

 そういった囲炉裏の不便さから脱却するために人は、最新家電を作り出したんだね」


「あー……なるほどぉ。

 そうですねぇ、今くらいの季節だとほんのり温かくて良い感じだけど、冬にこれだけだと、ちょっと頼りないかもですねぇ」


「それと、焚き火や囲炉裏は火を前にするせいか、乾燥するという欠点もあってね。

 毎日囲炉裏を前にしていると……肌の手入れとかで結構苦労するそうだよ」


 ハクトがそう言うとユウカは飛び起きて、近くに置いてあったハンドバックに手を伸ばし……そこから乳液を取り出し、ぱたぱたと肌に塗り始める。


 更にハクトの側に置かれていたバックからグリ子さん用ブラッシングオイルも取り出し、グリ子さんの毛のケアまで始めて……そうこうしていると、職員達が大きなお盆を手に、部屋へとやってくる。


 串に刺した魚に野菜、肉にタコに、サツマイモに……様々な品々が次々と運ばれて、トドメとばかりに炊きたての匂いを発する大きなおひつが運ばれてくる。


 そして炭からも独特の良い香りが漂ってきて……そうしてハクト達のたまらない晩餐が開始となるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 前話でユウカちゃんが電話してたのにいつの間にかハクトくんが注文している所。 [一言] 挿し絵があると一段と世界に入り込めますね。
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