癒やしの後は
入浴やマッサージを終えたらお互いを待つことなく、それぞれ部屋に戻るなりしてゆっくりと体を休めようと、ハクト達はそんな約束を事前にしていた。
そういう訳でたっぷりと、これでもかと美容マッサージを堪能したユウカとグリ子さんは、ハクトを待つことなくそこを後にする。
マッサージ効果なのかユウカの頬はぷにっと揺れていて、その髪は艷やかに揺れていて、内面もリフレッシュ出来たのだろう、瞳はキラキラと輝いている。
そしてその隣を行くグリ子さんの羽毛は、ふっくらと膨らんでいて、艷やかに煌めいていて、あえて擬音を付けるのであればシャランラといったような様子で……それだけでなくクチバシも爪も、光を反射する程に磨き上げられており、くりんと上向くまつ毛も、いつも以上に力強く上向いている。
当然グリ子さんの瞳もキラキラと輝いていて……いつもハクトにしてもらっていたマッサージやブラッシングも気持ちの良いものだったが、それ以上に気持ち良いものがあったのかとの驚きをその目を見開くことで表現していたりもする。
満足、なんて言葉では表せないそれ以上の至福の時間を堪能し、そうしてユウカ達はゆっくりと、今の自分を皆に見て欲しい! なんて気分でもって施設の中を歩いていく。
そうやって部屋に戻ると……既にハクトは部屋に戻っていて、入り口とは反対側の窓の方へと向けられた座椅子に背中を預けながらホクホクとした湯気を体から立ち上らせている。
「あ、そっか、お風呂もあるんだっけ……グリ子さん、後でお風呂もいっておこーね!」
そんなハクトの後ろ姿を見てかユウカがそう声を上げて、グリ子さんがそれに「クキュン!」と元気よく返すと、ユウカ達の帰還に気付いたハクトが立ち上がり振り返る。
「……ああ、ふたりとも、おかえり」
そんな言葉をかけてくるハクトの顔は……どうしようもなく緩んでいた。
サウナの効果なのか、いつも目はきりりと引き締められ、口はしっかりと閉じ、表情でさえその真面目さを表現していたハクトの顔が緩んでいた。
「えぇっと先輩……それは温泉ですか? サウナですか?」
そんなハクトの顔を見ながらユウカが問いかけると、ハクトは一瞬の間を置いてから緩んだ声を返してくる。
「それ……というのが何のことを指しているのかは分からないが、温泉もサウナも両方楽しんできたよ。
温泉に入って体を綺麗にして……それからサウナを3セット。
サウナで気持ちよくなることを何と言うのだったか……えぇっと、整う、だったかな。
……まぁ、そんな気分に浸れる良い体験だったよ」
「へぇー……サウナってそんなに良いものなんですねぇ。
私達も入ってこようかなぁ」
「うむ……そうしてみると良い。
女性の方のサウナは、やや温度が低めのミストサウナと、ハーブサウナ、果実水を使ったフルーツサウナなんてものもあるそうだ。
だがまぁ……マッサージでもいくらか汗をかいたのだろうし、体力も使ったのだろうし、まずはお茶でも飲んでゆっくりと腰を下ろすと良い。
先に夕食から行っても良い訳だしな」
「あ、そっか、もうそろそろご飯の時間でしたね。
えぇっとここのご飯はー……」
なんて会話をハクトとしたユウカは、部屋の隅の棚に立てかけてあるパンフレットを確認し始め……そうしてグリ子さんは、その羽毛の輝きをハクトに見て欲しいとばかりに、ハクトの元へとテテテっと駆けていく。
するとハクトはグリ子さんに向けてにっこりと微笑み……これ以上なく綺麗に仕上げられた羽毛を、そっと乱さないようにと撫でる。
するとグリ子さんは目を細めてそれを喜び……ハクト達がそうする間、ユウカはパンフレットをガン見し続ける。
「んんー……お硬い施設の割にマッサージが充実していて驚いたんですけど、ご飯はやっぱそれなりですねぇ。
いえ、値段とか素材とかを見るに豪華は豪華なんですけど、遊びが無いっていうかなんていうか……。
……ん? 先輩、この炉端焼きってなんですか?」
そう言ってユウカがパンフレット片手に近付いてくると、ハクトは首を傾げながら……グリ子さんをそっと撫でながら言葉を返す。
「何と言われても、炉端焼きは炉端焼きだが……ってそうか、風切君は炉端焼きを知らないのか。
えぇっと、それならば……うん、こっちに来てみると良いよ」
段々と力が戻ってきたのか、気合が入ってきたのか、ハキハキとした口調に戻ったハクトはそう言ってから……居間からその隣にある部屋へと、襖を開けて足を進める。
そんなハクトに首を傾げたユウカは、首を傾げたままハクトの後を追いかけ……そして隣の部屋でハクトが、その部屋の中央に置かれていた大きな板をひっくり返している様子を、首を傾げたまま見やる。
「ほらこれが囲炉裏だ、こういった囲炉裏や炭火で焼いた料理のことを炉端焼きといって……恐らくそれを注文すると、魚や野菜、貝や肉といった品をこの部屋まで届けてくれるのだろう。
後はそれをここで自分達で焼いて自分達で楽しめと、そういうことなのだろうな。
もし注文するのなら、ご飯と味噌汁は付くのか、別に注文する必要があるのかを確認したほうが良いだろうな。
炉端焼きだけを食べるというのは、なんとも口寂しいからな」
首を傾げたままのユウカにハクトがそう説明すると……ユウカは輝いていた瞳を、更に輝かせて、笑顔をこれでもかと弾けさせながら声を上げる。
「え! 炭火ですか! 炭火で焼けちゃうんですか!!
炭火焼きを楽しむって、それ実質バーベキューみたいなものですよね!
お部屋の中でそんなことしちゃって良いんですか!!」
「ま、まぁ、わざわざ炉端焼きなんてメニューがあるということは排煙機能もしっかりしているだろうし、問題は無いだろう。
……というか、味付け的にも雰囲気的にもバーベキューとは全く別物だぞ?
塩とか醤油とか、味噌焼きが中心で……肉があったとしてもそこまでは多くないんだろうし……」
興奮し続けるユウカに対してハクトがそう声を返すが……興奮するユウカにはほとんど聞こえていないようで、ユウカはメニュー片手にハクトに早く早くと注文を急かしてくる。
それを受けてハクトは仕方ないなといった様子で立ち上がり……電話を手にとって注文をし始めるのだった。
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