帰路
お知らせです
前話の57話『タコ尽くし』に挿絵が追加されました!
まだ見ていない方はぜひぜひチェックしてください!
ワサビの刺激に参ってしまってダウンしていたグリ子さんだったが、ハクト達の食事が終わる頃には復活することができ……そうして心地よい満腹感を堪能できたからか、いつになく幸せそうな、柔らかな微笑みを浮かべ始める。
食事を終えてゆっくりとそば茶を飲んでいたハクト達もまた、その微笑みに引っ張られる形で微笑みを浮かべることになり、そんなハクト達を見てグリ子さんもまた微笑みを深くして……そうして一同はしばらくの間、静かで温かで幸せなひとときを過ごすことになる。
そうやって十分に体を休めたハクト達は、テーブルの上を軽く整えてから立ち上がり……会計を済ませるべく、レジのある店舗入り口へと足を進める。
するとすぐに店員がそれに気付いてくれて、明細とともに駆けてきてくれて……ハクトが手早く会計を済ませると、レジの側に置いてあった会計用の、小銭などを置くためのトレーに、精一杯に背伸びをしたグリ子さんがそっと自らの羽根を乗せる。
「グリ子さん、これは……?」
「クッキュン!」
それを見てハクトが尋ねるとグリ子さんは間髪入れずに『美味しいご飯のお礼!』との答えを返し……ハクトがそれをそのまま店員さんに伝えると、店員さんは笑顔でそれを受け取ってくれて……レジ奥にある壁の、有名人などのサイン色紙が飾られている一画に、そっとそれを貼り付けてくれる。
セロファンテープで根本をしっかりと押さえる形で、有名人達のサインの中央という特別目立つ場所に。
それを受けて満足そうに頷いたグリ子さんは「クキュン! クキュン!」と鳴き声を上げて『美味しかった、また来ます!』との気持ちを店員さんに伝えながらハクトが開いてくれた戸を通り過ぎて店の外へと出ていく。
それにハクトとユウカも「ごちそうさまでした」との言葉と共に続き……そうして一同はゆったりと、宿泊施設へ向かっての道のりを歩いていく。
右を見れば山があり、左を見れば海があり、自然豊かな光景と、それによく合う家々の姿がなんとも言えず、ほっとした気持ちにしてくれて……波の音と木々の揺れる音を堪能しながら歩いていると、道の向こうから何人かの人達が……ジャージ姿で、犬型や鳥型の幻獣を連れた何人かの人達が駆けてくる。
その姿を見てハクトはランニングでもしているのだろうか? と、そんなことを思うが、それにしては駆ける速さが異常で、急ぎどこかに駆けつけようとしているようであり……そんな人々に興味を抱いたハクトがじぃっと見やっていると、駆ける人々は一瞬だけハクト達に視線を向けてくる。
ハクトを見てユウカを見てそしてグリ子さんを見て……何を思ったか嘲笑するような表情を浮かべて。
すぐに興味を失ったのかハクト達から視線を外し、目の前へと視線を戻し、そちらに向かって懸命に駆けていって……その面々の後ろ姿が見えなくなるのを待ってか、黙って足を進めていたユウカが声を上げる。
「なんかあの人達、失礼な感じでしたねー、態度も表情も良くなかったっていうか……」
その言葉を受けて一瞬悩むような素振りを見せたハクトは……これも勉強かとそんなことを思って頷いて、そうしてから口を開く。
「幻獣召喚者というのはそれだけで成功者と見なすこともできるからね、たまにではあるが他人に対してああいった態度を取る者がいるのだよ。
自分達は成功者であり、それ以外は成功者ではないと、そんな風に他人を見下したがるという訳だ。
そしてそんな行いに慣れてしまっているというか、染まりきってしまっていると、相手が幻獣召喚者であってもお構いなしにああいった態度を取ってしまう、という訳だ。
だがまぁ……あの程度の連中であれば気にする必要は無いだろう」
「……それはまたどうしてですか?」
教育モードに入り始めたハクトの言葉に少しだけ怯みながらユウカがそう返すと、ハクトはグリ子さんの頭をそっと撫でながら言葉を返す。
「今のこの状態のグリ子さんや風切君をその見た目だけで格下だと判断し、侮ったからさ。
ある程度の実力者であれば、見た目だけでなくその保有魔力などの情報をしっかりと見抜き、踏まえて判断を下すはずだが……彼らはそれを怠った。
もしかしたら相手の保有魔力を見抜けない程のアレな人物という可能性もあるが……流石に幻獣召喚者であればそのくらいは出来るはずだろう」
と、そんなことを言われてユウカは、今ひとつハクトの言わんとしていることが理解出来ていないのか、小さく首を傾げながらグリ子さんのことを……普通の目ではなく、魔力を宿した目でもって見やる。
魔力でもって相手の魔力を見ることはユウカにとって苦手なことであったが、ハクトに様々なことを教わり始めた、ハクトと出会ったばかりの頃にこれが出来なければ話にならないと厳しく指導されていたことでもあり……それ相応の集中力と時間と魔力を必要としてしまうが、それらさえあれば問題なく行えるようになっていた。
そんな目でもってグリ子さんを見た結果は……グリ子さん本体も、その羽根一本一本までもが魔力に満ちていて……魔力が満ち溢れてしまっている程で、溢れてしまっている魔力がキラキラと煌めき、グリ子さん全体を輝かせてしまっている程だった。
「え、あれ!? グリ子さんったらいつの間にこんな状態に……!?」
その光景はそんな風にユウカが驚いてしまうのも当然のもので……そしてそんなユウカの驚愕の声に対してハクトは、事も無げに落ち着き払った声を返す。
「空を飛んで鷹達との交流を楽しんで、大好物になったと言って良い美味しいタコ料理を楽しんで……いつになく幸せな気持ちと満腹感に包まれた結果、という訳だね。
理屈はよくわからないが、とにかくグリ子さんはそんな風に幸せな気分になると魔力に満ち溢れるようでね、普通の幻獣召喚者であれば今のグリ子さんを見て侮るようなことはしないはずなのだけどね……」
「お、おおう……グリ子さん、恐るべし……ってあれ!?
そういうことならついさっきお店に渡した羽根にも魔力がたくさん詰まっているってことになりません?
あれって問題ないんですか? 突然ミニグリ子さんに変身して厨房の食材食い荒らしちゃったりしません?」
「いや、風切君……グリ子さんを何だと思っているんだい?
先程渡した羽根は見た感じミニグリ子さんに変化するものとはまた別のものだったようだし……変身することも、あのお店になんらかの害を与えることもないはずだよ。
最近ようやく分かってきたことなのだが、グリ子さんは守護や魔除けの力を持っているようだからね……あの羽根もそういった形で働いてくれるというか、お守りみたいなものとしてあのお店を守ってくれるはずだよ」
ハクトの言葉にユウカが返し、それに更にハクトが返し……そうしてあれこれと会話を始める二人と、その様子を微笑ましげに眺めるグリ子さんは、そうする間も変わらずに足を進め続ける。
施設に向かって一歩一歩ゆっくりと。
外で十分に遊び、美味しい食事も楽しんだ……であれば後は施設内の、温泉をはじめとしたリラクゼーション施設を堪能するだけだと足を進め続けたハクト達は、施設に到着するなりまっすぐに部屋へと向かい、部屋で準備を整えたならこれまたまっすぐにリラクゼーション施設が集中する一帯へと足を進める。
まずは温泉か、それともマッサージか、あるいはサウナにでも入るか。
足を進めながらハクト達はそんな会話を交わし、期待に胸を弾ませるのだった。
お読み頂きありがとうございました。




