激闘グリフォン
吠えて飛び上がって、魔力を込めた攻撃を放って。
急激に動きを変えたグリフォンがテレビの向こうで暴れまわる。
まさに獅子奮迅、先程までとは打って変わっての奮闘にユウカは盛り上がり、グリ子さんは満足そうな顔をし……そんな中ハクトだけが渋い顔をする。
「……何を焦っているかは知らないが、あまり良くない流れだな」
更にはそんなことを言い始めて、盛り上がっていたユウカとグリ子さんはハクトの方へと視線をやって、何故またそんなことを? あんなに頑張っているのに? とでも言いたげな表情をする。
するとハクトは小さく頷いて、テレビをじぃっと見つめながら言葉を続ける。
「グリフォンは守護の幻獣だ。
財宝を守ったりその時代の権力者を守ったり、貴族の血統……その家を守ったりと何を守るかはその状況によりけりではあるが、城や巣にて待ち構え、守勢でもって相手を弱らせて、弱らせてからの一撃でトドメを刺すという戦いを得意としている。
それがあんな風に攻勢に回ってしまうというのは、どうにもな……。
召喚者が未熟なのか、グリフォンに焦る理由があるのかは分からないが、あまり良い状況とは言えないだろう」
「そういうものですかねー?
私としてはああいう戦い方は勢いがあって好きですけどね……攻撃して攻撃して、その勢いを使って更に攻撃して、相手が倒れるまで攻撃するんですよ」
首を傾げながらユウカがそう言葉を返すと、ハクトはその光景を想像し、少しだけ怯みながら「風切君ならばそれで良いのだろうけどね」と返し……テレビへと意識を集中させる。
そしてそんなやり取りを静かに見ていたグリ子さんは……一体誰に向けての声なのか「クキュンクキュン」と一鳴きする。
するとテレビの向こうのグリフォンは唐突過ぎる程唐突に動きを変えて、攻勢をパタリと止めて……激戦の結果、すっかりと幻獣の数が減り、広々とした会場の一画へと降り立ち、四足を地面に突き刺すかのようにどっしりと構えて、まるでハクトの言葉が聞こえていたかのように守勢に転じる。
「んん? 突然動きを変えたな?
……まぁ、確かにその方がグリフォンに合っているだろうな」
ハクトがそんな感想を述べると……構えた拳をシュッシュッと空を切る音をさせながら空中に放っていたユウカが言葉を返す。
「でも先輩、せっかく空を飛べるのにあんな風に地面に構えちゃうなんて、強みを失ってるようにも見えるんですけど、それって良いことなんですか?」
「確かに傍目にはそう見えるかもしれないが、グリフォンは鳥ではないからね。
自由自在に空を飛ぶこと自体は可能だが、常に空を飛んでいられるような体をしていないというか……空を飛んでいる間グリフォンはそのための体力と魔力を失い続けることになるんだ。
ああやって地面に構えて敵が攻撃をしてきたならその時にこそ空を舞い飛んで、後はその鋭いクチバシと爪でもって迎撃をしたら良い。
無駄に飛ばないことで魔力を結界や陣地の構築に使う事もできるだろうし、攻撃力に転化することも出来るだろうし……覚束ない様子でふわふわと空を飛んでいる状態よりも、ああして構えていられる方が攻める側としては攻めにくいものなのさ」
「ふーん……そういうものなんですね。
私がもし空を飛べたなら……一気に空に飛び上がって、落ちながらその勢いを使っての乱撃を放ちますかねー」
「……風切君ならそんな状況であっても全く問題なく動けるのだろうけども、もし仮にそうなった場合は攻撃どうこうよりも着地のことを第一に考えるんだぞ?」
ハクトとユウカがそんな会話をしている間もグリ子さんは、クキュンクキュンと声を上げ続けていて……そうやって声が上がる度にテレビの向こうのグリフォンは魔力をたぎらせ、その瞳に強い意思を感じさせる光を灯らせ……そうして他の幻獣達を見事にいなし、躱し、要所要所で空を飛んでの一撃を放つ。
あるいはその場にいる全ての幻獣達がグリフォンを一斉に狙ったのなら、そんな作戦はあっさりと破綻したのかもしれないが、その場にいる全員が敵同士でありライバル同士であり……打ち合わせもなしにそんな真似、出来ようはずが無い。
にわか仕込みでそんなことをやろうとしても失敗をするか、裏切られるかのどちらかで……結局他の幻獣達は完全な守勢に入ったグリフォンは厄介過ぎる、後回しにしようとグリフォンから距離を取る。
そうした幻獣達の動きを受けてグリフォンは一瞬だが安堵したような表情になる。
守勢に入る前の攻勢でかなりの消耗をしてしまっていたグリフォンは、守勢に入ったことでいくらか息を整えることが出来たものの、まだまだ回復しきれていない状態にある。
あのまま攻められていたならば、何体かの幻獣が一斉に攻めてきたならば、そのまま押し切られてしまったに違いない。
このまま息を整えよう、この戦場に散った魔力を吸収して回復に努めよう。
そうしたグリフォンの思惑に誰も気付かないまま、戦闘は激化していき……戦況が煮詰まっていく。
「クキュン」
そこでグリ子さんがもう一声上げる。
よく意地を見せた、後は好きになさいと、そう言っているかのようで……グリフォンはそれを受けて、あえてそのまま戦法を変えないままでの守勢の体勢を取り続ける。
それからテレビの向こうの幻獣達は、己が得意とする戦法を駆使し魔力を炸裂させ、思わず目を見張るような戦いを繰り広げていく。
そうして勝負が決したのは一時間後のことだった。
グリフォンは惜しくも優勝は逃したが、最後の最後、優勝した幻獣との一騎打ちにてかなりの良い勝負を繰り広げて見せて……それ相応の賞金を獲得することに成功し、その名を広く知らしめることにも成功したのだった。
「クッキューン」
そんなグリフォンの様子を見て、グリ子さんは我がことのように喜び、一声を上げる。
すると戦闘を終えて、競技場から撤収しようとしていたグリフォンが、まるでカメラの向こうの誰かに挨拶をしているかのように、カメラ目線となった後にこくりとその頭を下げる。
「ふーむ、グリフォンがここまで活躍するというのは全くの予想外だったな。
競技会はこれで終わりではなくて、まだまだこれから、様々なルールや会場で行われるんだけども……ここまでの戦いを見せたとなると今年はあのグリフォンが話題をかっさらうかもしれないね」
そうしたグリフォンの様子を見たハクトがそんなことを口にして……それからしばらくの間、グリ子さん達はリビングにて、テレビの向こうで行われる競技会の様子を見続けるのだった。
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