お叱りグリ子さん
本格的な梅雨入りとなってじめじめとした日が続く中、久々の晴れ間がタイミング良く日曜日にやってきて、ハクトは朝から庭に干し竿を立ててシーツやベッドカバーを干し、布団干しを立ててマットレスを引っ張り出して干し、ここぞとばかりに洗濯機をフル回転させての洗濯を行い、家中のありとあらゆるものをさんさんと降り注ぐ日光の下へと引っ張り出していた。
更にレジャーシートを広げて庭に敷いてやって、グリ子さんがそこで休めるようにしてやって……それを受けてグリ子さんは久しぶりの日光浴を存分に楽しんでいた。
ただ晴れ渡っているだけでなく、なんとも心地よい風が吹いていて、その風が羽毛を撫でてくれると、それがまたなんとも心地よくて……風で揺れているおかげか、満遍なく日光を受ける事ができた羽毛はふっくらと膨らみ……梅雨の間に溜め込んでいた湿気をここぞとばかりに周囲に吐き出していく。
それはグリ子さんにとってたまらなく気持ちの良いことで、その表情はなんともうっとりとした見ているだけで幸せな気分になれるものとなっていて……眠っているのか起きているのか、グリ子さん自身にも分からない曖昧な状態でぽかぽかとした日光を浴び続ける。
するとそこに遊びに来たのかユウカがやってきて、日光浴をしているグリ子さんを見かけるとやその側までやってきて、グリ子さんに寄り添いながらユウカもまた日光浴をし始める。
太陽がぐんぐんと昇り、雲ひとつないおかげかどんどんと周囲の空気が暖まっていって……そうしてお昼を過ぎた頃、一通りの洗濯や掃除を終えたらしいハクトが、庭のグリ子さん達に声をかける。
「そろそろ競技会が始まるけど、見なくて良いのかい?」
その言葉を受けて、ユウカが物凄い勢いで立ち上がり……競技会が何であるか知らないグリ子さんは、日光浴を継続しようとする……が、ユウカが物凄い勢いでリビングへと駆けていったのと、テレビから賑やかな声が聞こえてきたことがどうにも気になって、ふかふかになった羽毛を揺らしながら、まるで日光をそのまま吸い込んだかのように輝かせながらリビングへと向かう。
そうしてリビングの隅、窓際のテレビを見ることも出来るし、日光浴も継続出来るという良い位置に座ったグリ子さんは、
「クキュン?」
と、そう疑問の声を上げてハクトに競技会とは一体何なのかと問いかける。
「競技会は通称で、本当の名前は白虎杯。
幻獣同士を競わせ、友好を深め能力を高め、その名を世間に知らしめると、そんな意図で行われる大会のことだね。
賞金の高さもあって毎年この時期になると結構な盛り上がりを見せるんだ」
ハクトがそう返すとグリ子さんは、体全体を傾げて更なる疑問の声を上げる。
「クキューン?」
「何故グリ子さんがその大会に出場していないのか、その答えは参加資格が無いからだね。
白虎杯はその名の通り、白虎の役職にある幻獣とその召喚者が主催となっていて、参加者は彼らの独断によって選ばれるんだ。
独断といってもある程度の基準はあって、世間に活躍を認められているとか、人気があるとか、それ相応の事件で活躍しているかとか、そんな感じになるね」
いくら白虎の独断で選ばれるとは言え、世間の評判、人気を無視することは出来ない、大体が世間の評判通りの選出となる。
稀に長年献身的な働きをしてきたからとか、白虎杯を盛り上げるための賑やかしとか、相応の社会奉仕……献金などをしたからとかの理由で選ばれることもあるが、それは本当に稀なことだ。
「グリ子さんの実力がどうこうではなく、グリ子さんの名前が白虎と世間に知れ渡らないと参加出来ないという訳だね。
……まぁ、仮に声がかかったとしても俺の方で参加を断っていたと思うけどね。
その理由は……まぁ、うん、テレビを見ていれば分かると思うよ」
更にハクトがそう言葉を続けてきてグリ子さんは、そういうことならばと体を傾げたままテレビを見やる。
テレビの向こうでは丁度開会式が終わり、これから『競技』が始まらんとしている所で……ぐるりと周囲を満員の観客席に覆われている屋内競技場に、多種多様、何体もの幻獣達が陣取り……臨戦態勢で競技会開始の合図を待つ。
するとかなりの巨体の鋭く長い牙と、黒いトラ模様の入った白い毛皮を持つ虎が姿を見せて……合図のつもりなのか、周囲の空気を震わせる程の大きな声を張り上げる。
それを受けて始まったのはまさしく乱闘と呼ぶに相応しい、幻獣同士の取っ組み合いだった。
純粋な力で殴り合い、その特徴を活かして立ち回り、中には魔力でもってそうしたのか、かなりの深さの水場を作り出し、その中にライバルを引っ張り込もうとしている幻獣までいて……それらの圧巻とも言える光景を目の前にしている観客達は湧き立ち、戦闘音と歓声とで、会場内は凄まじいまでの賑やかさに包まれる。
するとテレビはそうした音声を意図的に絞り、解説者の声をよく聞こえるようにし……解説者は会場内で暴れまわっている幻獣達の紹介や説明などを事細かに行っていく。
「……とまぁ、白虎杯はこんな風に、直接的なやり取りというか、バトルがメインでね……グリ子さんの肌には合わないと思うよ」
その光景を眺めながらハクトがそう言うとグリ子さんはその通りだと言わんばかりの表情になってこくりと頷き……半目になって呆れ半分という表情でテレビの向こうの光景を見やる。
野蛮とまでは言わないが優雅さがない、戦闘で競い合うにしてもやり方というものがあるだろう。
そんなことを言わんばかりの態度をグリ子さんが見せる中、ハクトはさもあらんという顔をし……ユウカは自分だったらあの中でどう戦うかと、幻獣達をどうやって倒すかということを一生懸命にシミュレートし……興奮しながらその拳を軽く振るい、風を切る音を周囲に響かせる。
あるいはユウカならばあの中に入り込んでもやり合えるかもしれないなと、ハクト達がそんな感想を抱く中……体力を失い倒れ、あるいは完全に抑え込まれ、敗北となった幻獣達が次々に会場を去っていく。
自主的に去っていく幻獣もいれば、運営スタッフにより強制的に退場させられる幻獣もいて……所狭しと幻獣で埋め尽くされていた会場に段々と余地が出来上がり、広い空間を使っての戦闘が行われるようになり……そんな中で一匹の、苦戦気味の幻獣にカメラが寄って……その姿を見るなりグリ子さんが、その耳をピンと立てて目を見開いてその幻獣を見やる。
大きな翼に鋭いクチバシ、ワシのような上半身に、獅子のような下半身、前足には立派な鉤爪があり、それが空を舞い飛ぶ度に立派な尻尾が風を受け大きく揺れる。
グリフォンと呼ぶに相応しいグリフォンらしいその姿に、果たしてグリ子さんは何を思うのか。
しばらくの間じっとテレビの画面を見つめていたグリ子さんは、ぽつりと……魔力を込めての一声を放つ。
「クキュン」
それは情けないと、私に恥をかかせるなと、そんなことを言っているようだった。少なくともハクトにはそう聞こえた。
そしてテレビの向こうのグリフォンは、まるでその一声が聞こえていたかのように耳を立てて、焦っているかのような態度で周囲を見回す。
それは明らかにそれまでとは違った態度だった。
苦戦しているからとか、他の幻獣の攻撃が迫っているからとか、そういった類の焦りではなく……何か怒らせてはいけないものを怒らせてしまったような、このままでは自分の立場が危うくなるとでも言わんばかりの焦りの色だった。
そうして焦りに焦ったグリフォンは奮起する。
このままでは拙い、情けない姿をこれ以上見せてしまう訳にはいかない、名誉挽回をしなければならない。
最後まで立派に戦ったと、一族の誇りに恥じることなく戦ったと、胸を張って言えるようにしなければ、我が身が危うくなると、グリフォンはそんな悲壮な覚悟を表情に浮かばせて、先程までとは比べ物にならない鋭さで空を飛び交い、目に見える程の魔力を迸らせ、
『グリュォォォォォン!!』
と、凄まじい声でもって吠えたける。
それを見てグリ子さんは……ようやく満足そうな笑みを浮かべて力強くこくりと頷くのだった。
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