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グリフォン


「その顔はまだグリ子さんの力を疑っているという顔だな?」


 首を傾げるユウカにそう言ったハクトは、すり寄ってくるグリ子さんのことを撫でながら言葉を続ける。


「こう見えてグリ子さんはいくつか仕事をこなしてくれていてな、そのおかげで貯金も順調……あと少しで引っ越しができそうな程なんだ。

 ……別邸とはいえこの家も親の……いや、あの人達の所有物だからな、早い段階で引っ越しが出来るのは本当にありがたい」


 その言葉を受けてユウカは、更に首を傾げて……「仕事?」とそんな一言を口にしてしまう。

 ハクトを疑っている訳ではないが、どうにも納得できないというその言葉に、こくりと頷いたハクトは、柔らかな笑みを浮かべながら口を開く。


「たとえば幼稚園保育園といった子供の世話をする場においてグリ子さんの人気は揺るぎないものとなっている。

 子供達に好まれるこの出で立ちに優しい眼差し……勿論心根も優しく、子供達を決して傷つけることはない。

 グリ子さんが側にいるだけで子供達は笑顔になり、心底から安心し、お昼寝の時間も良い夢を見ることができるとの評判だ。

 他にも畑での害虫、害獣駆除でも活躍していてな……この眼で一睨みにした獲物の下に一瞬で飛び込んでグリ子さんは―――」


 そう熱を持って語るハクトにユウカはなんとも言えない苦笑を向ける。

 

 良い幻獣を召喚したなら、力を持つ幻獣を召喚したならもっと良い仕事に、もっと稼げる仕事に就ける訳で、そのことを思えばグリ子さんがいくらそういった仕事で活躍したとしても、まるで割に合わないと言うか……ハクトの実力であればもっともっと稼ぐことが……良い仕事が出来たはずなのだ。


 だと言うのにハクトはそのことに気付いているのかいないのか、なんとも良い笑顔をしてしまっていて……その笑顔を見やるユウカはなんとも言えない複雑な感情を抱くことになる。


 一体何がどうしてこうなってしまったのか……ハクトとグリ子さんの魂に一体どんな繋がりがあったというのか。


 その答えを出せないままユウカは、静かにハクトの言葉に耳を傾け続ける。


 ……と、その時、縁側にちょこんと座り、ハクトにすり寄っていたグリ子さんの足の爪がパキリと音を立てて欠けて、その欠片がコロンと縁側の上に転げ落ちる。


 一体なんだってまた急に欠けてしまったのだと、驚きながら音の主に視線をやったユウカは、それを見るなり目を丸くして驚き硬直してしまう。


 先程まで爪だったはずのそれは、金色に輝く小さな小石のようなものに変貌していて……どう見ても何度見てもそれはユウカが知る所の純金であり……金色に輝くそれを指差したユウカは口をパクパクと動かすも声が出てこず……尚も喋り続けているハクトに「それは一体何ですか!?」と、言葉ではなく仕草と態度で訴えかける。


「ん? どうかしたのかね?

 ……ああ、また産み出したのか。

 何、そう驚くようなことではない、幻獣とは時折こういった不可思議な現象を起こすものなのだ。

 ……君は知らないかもしれないがグリフォンは古来より黄金の守り手として知られる存在だ。

 そんなグリフォンの中でも特異で、特別な力を有したグリ子さんであればこういった芸当をこなすなど、なんでもないことなのだろう」


 さらりとした態度でそう言って、グリ子さんが産み出した純金を拾い上げたハクトは、それを興味なさげな視線で眺めて……そうしてから居間の方に置かれているお菓子が入っていただろう、四角いスチール缶の方へと放り投げる。


 すると缶からはそれなりに派手な音が……いくつもの黄金がぶつかり合うような音が聞こえてきて、慌てて立ち上がったユウカはその箱の方へと駆け出し、箱の中を確認した上で、ハクトの方を見やり、更に口をパクパクと動かし声なき声を上げる。


「そう驚くことでもないだろう。

 幻獣に限らず、生き物の爪というものは伸び続けるものだ。

 当然グリ子さんの爪も伸び続けている訳で……伸びる度にぽろりと欠けてしまい、それら金を産み出していると、ただそれだけのことだ」


「……え、い、いや、え!?

 引っ越しのお金が欲しいなら、売れば良いじゃないですか、この金を!? 

 っていうか金をこんな所に無造作におかないでくださいよ!?」


 ようやく声を取り戻したユウカがそう声を上げると、ハクトはやれやれと言わんばかりに肩をすくめて顔を左右に振って言葉を返す。


「金というものは売ろうと思ってすぐに売れるような、そういう代物ではないのだよ。

 君もテレビなどで見たことがあると思うが、金の延べ棒には刻印とシリアルナンバーが刻み込まれていてだね、それによってどこの銘柄の金なのか、どれだけの品質の金なのかという保証、管理がなされていて……そうして初めて『金』として売買出来るものなのだ

 ……確かに刻印とシリアルナンバーがなくとも売れなくはないが、途端に価値は低いものとなり……出どころの分からない金の売買は、犯罪に手を染めているのではないかという、いらぬ詮索を受けることにもなりかねない。

 幻獣が産み出す金を大量に市場に流してしまえば、市場の混乱を招きかねないという問題もあるし、税務上の問題もあってことはそう簡単な話ではないのだ。

 一応国の方には報告書を出してあるから、追々国からの認可があれば、幻獣産の金として何処かのインゴットメーカーに卸すことにもなるだろうが……それは当分先の、数ヶ月は先の話になるだろうな」


 その言葉を受けてユウカは息を深く吸い込む、吸い込んだ上でハクトの側へと足を進めて……、


「仮にそうだとしても、今すぐに売れないのだとしても管理はしっかりしてくださいよ!?

 これじゃぁ盗んでくださいって言っているようなものでしょ!!

 防犯上問題がありまくりですよ!?」


 と、そんな大声を上げてしまう。


 その大声を受けてハクトは……その大声の方が、近所中に貴重品がここにありますとアピールしてしまっていることの方が問題あるのではという疑問を懐きつつも、ユウカの勢いに負けてしまい、素直な態度でこくりと頷くのだった。



挿絵(By みてみん)

お読み頂きありがとうございました。

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