幻想弾道学
「いやぁ、まさか今話題の方々に来ていただけるとは思っていませんでしたよ。
幻獣召喚者の方々の中にはこういった技術を嫌う方もおりますからねぇ。
いや、分かるんですよ、愛する相棒を殺せるかもしれない技術ですから、好きになれという方が難しいでしょう。
しかしですね、こういった技術が完成したなら、可愛い相棒に危険のある任務をやらせないで済むという面もある訳ですから、せめていくらかの理解はしていただきたいと、そう思う訳です」
ハクト達が施設に入ると案内のためにと待っていた男性が声をかけてきて、眼鏡にボサボサ頭、白衣姿の細高い体という、いかにもな姿をした中年男性がそんな説明を始める。
「自分個人としては技術に思う所はありませんね。
危険かもしれないからこそ、しっかりと研究し確立し、安全性を高めて置く必要があるのでしょう。
幻獣の喪失に備えることも大事なことだと考えています」
そうハクトが返すと男性は、更に笑みを深くして案内する足は止めずに振り返り、後ろ歩きの状態のまま言葉を返してくる。
「そう言っていただけると嬉しいですねぇ!
我々もね、幻獣は欠かせないものだと理解しているんですよ、召喚についても共存についても反対なんてしませんとも。
むしろだからこそ、幻獣が当たり前にいる社会を目指しているからこそ、緊急時の対策というものを作り上げたいと思っているのですよ。
……特に個人的に銃器にその可能性を感じていましてね、ワタクシの専門は幻想弾道学。
幻獣や魔法の支配する物や空間に対して弾丸がどう動くのか、どんな弾丸を撃ち込むべきなのかといった研究をしているんですよ」
と、そう言って男性は後ろ向きのまま、なんらかの研究室の入口と思われる場所に到着し、ドアに背を当ててから首から下げていた大きな鍵を手に持ち、ドア横に鍵穴に差し込んで押し込み……そうすることでドアを開き、更に奥へと進んでいく。
基本的には研究室と聞いて想像する部屋だった、白を基調とし大きな窓があり、白い机が整然と並び、様々な棚や実験器具を入れるロッカー……実験道具などが所狭しと並んでいる。
そんな中に不釣り合いな姿もあって、それが銃器や幻獣産と思われる品々で……様々な幻獣の脱皮後の皮や鱗などが並べられている。
恐らくはそれで銃器の効果を確認しているのだろう。
まさか本物の幻獣で行う訳にはいかないからと、脱皮後のものや脱落した鱗などを集めているのだろう。
そして銃器の数々……映画などで見たものもあれば、見たこともないものもあり、見たことのない銃のいくつかは、塗装などがされていない、金属のツギハギといった見た目となっている。
恐らくは試作品なのだろうが、銃器でその見た目は不安になってしまうなと、ハクトがそんなことを考えていると、案内役の男性がその一つを手にとって、銃口を天井に向ける形で軽く構えて見せる。
「こちらは自信作でして、対幻獣でも悪くない効果を上げると思っているんですよ。
コスパの問題がある以上、一発一発を確実に当てた上で更に威力を発揮する設計ではないといけない訳でして、この銃はそれらに特化したものとなります。
後は弾丸さえ改良出来たなら、実戦配備も可能になるはずです!」
明るく力強く、余程に自信があるのだろう、胸を張ってそう言う男性に、ハクトがどんな仕組みか気になるなという顔をし、グリ子さんとフォスは幻獣素材の方が気になるのかそちらに視線を向けて、感心したという顔をするブキャナンの隣で、ユウカとユウカに抱きかかえられたフェーは興味津々、ぜひともその銃の威力を見てみたいと、そんな顔をする。
「お? その表情、興味津々ですね?
どうです? 試射を見学していきますか? 目の前で威力を見て、場合によっては撃って頂いても良いですよ!」
それを見て案内係の男性がそう言って、ハクトはそれはまずいと苦い顔をするが、男性はそれに気付かずに前のめりとなる。
「え? 良いんですか? じゃぁぜひ見て受けてみたいです!」
と、ユウカ。
その言葉にはかなり問題のある意味が込められているのだが、男性はそれに気付かないまま頷き……そしてその勢いのまま試射場へと足を向ける。
映画などで見る射撃場のようなそこには、ゴルフの練習場で見るようなネットが配置されていて、どうやらそれで流れ弾などを防いでいるようだ。
ただのネットに見えるが、恐らくは幻獣素材で強化されたもので……銃よりもそちらの方が、防弾などで需要がありそうだなと、ハクトがそんなことを考える中、案内係の男性が試作品の中から選び取った一つ、ツギハギスナイパーライフルといったそれを地面に置いて、その側に寝そべることで射撃体勢となる。
「では見ていてください!!」
ハクトはてっきり射撃の前に様々な注意を受けたり、防音装備を渡されたりすると思っていたのだが、そういうこともなく、安全対策は大丈夫なのかと不安に思っている間に早速発射が行われ、200m先にあるらしい的がバァンッと激しい音を上げる。
「うん?」
思わずハクトがそんな声を上げる。
発射音が聞こえてこなかった。
銃弾というものは通常、薬莢内部の薬品が弾けることで発射されるもので、その際に強烈な破裂音がするはずなのだが……それが一切なかった。
「どうです? 奇襲能力を重んじた無音弾丸です。
サイレンサーとは全く違った仕組みとなっていまして、その結果がこれです。
もちろん威力も射程も十分……これならばかなりの確率で命中させることが出来るはずです」
と、自信満々な様子の男性。
「うーん? でも威力いまいちじゃないですか? あれなら多分私耐えられますよ」
そこに空気を読まないユウカ。
まさかの発言にハクトが呆れて、ブキャナンが笑い、そして男性が何の冗談だと驚く中……ユウカはそれを証明するためか駆け出し、射撃場の中に入って的の横に並ぶ。
そして自分を撃って見せよと態度で示してくるが、まさか男性も人を撃つことなど出来ずに混乱状態となる。
それをどう思ったか……恐らく不満だったのだろう、ユウカは魔力を練り上げてみせて、先程弾丸を受けた的に向かって正拳突きを叩き込む。
すると的はもちろん、的の周囲の地面も大きくえぐれて吹き飛び……なんとも言えない惨撃が周囲に広がる。
「どーです! このくらいじゃないと幻獣用には威力が足りませんよ!!」
と、ユウカ。
そんな声を受けて男性は驚き、困惑し……そして目を細めて銃を構える。
多分気付いてしまったのだろう、極まった使い手の実力というものに。
そしてこの銃では傷つけることが出来ないと分かっていながらも、科学者として実際の所を試したくなってしまったのだろう。
ハクトもブキャナンも止めるべき立場ではあったのだが、ユウカならば防ぐも避けるも余裕だろうという確信があって何も言わず……そして弾丸がユウカ目掛けて放たれる。
次の瞬間ユウカは振り上げた拳を振り下ろし、恐らく空中にあった弾丸を叩きつけることに成功し、チュインッという音と共に何かが地面に当たって煙を上げる。
殴って弾道を変えたらしい。
その結果を見てハクトが呆れる中……ツギハギライフルを抱えた男性はなんとも分かりやすい程に落胆し……しかしその直後、やる気が出てきたと、目指すものが見えてきたとそんな表情をし、その目をこれでもかと輝かせてみせるのだった。
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