見学
八咫烏がやってきた目的は、つまみ食いも目的の一つだったようだがもう一つ、ハクト達に割の良い仕事を紹介するというものがあったようだ。
押し付けるのではなく紹介、受けるも受けないも自由。
ただし受けておけばハクト達にとっても八咫烏にとっても都合が良いもので……今回は対幻獣研究所の見学という仕事となっていた。
幻獣や魔法以外の力で、幻獣災害に対抗出来るようにと日夜様々な研究をしているらしいそこの目的は幻獣排斥ではなくあくまで共存……お互いに平和に暮らしていくための研究を是としている。
その上で、過去にあった幻獣消失などの事案を考えると幻獣ばかりに頼る訳にはいかず、独自の道を模索しているという研究所だ。
ハクト達や八咫烏は明確に幻獣派で、全く違う考え方となっているが、だからといって共存しようという者達と敵対したいとは全く思っておらず……普段からコニュニケーションを取っておくことが重要であり、今回はそのための良い機会、ということだった。
ハクト達は見学という社会経験とコネ作りが出来て、研究所は幻獣召喚者側の意見などの吸い上げが出来るというどちらにとっても利のある話で……その上で、結構な報酬が出るということでもあるので、断る理由は特になかった。
様々な派閥があること、過激な思想があることも知ったハクト達にとっては、良い機会でもあり……そういう訳で話を快諾したハクト達は週末、遠方にある研究所へと足を向けたのだった。
そこは大きな門と立派な塀に守られた、広大な土地を有する研究所だった。
入ってすぐに大きな地図があり、10に近い建物が敷地内にあることを示していて……更には研究用の設備もかなりの数があるようだ。
地図の真横には受付用の事務所があり、そこに入ると手続きがあり……それからまずは一般用の見学コースへと案内される。
全く無知の状態で奥まで来られても困るということで、ハクトとグリ子さん、フォス、ユウカとフェー、そして保護者ということで人間姿のブキャナンという一行で見学コースに向かう。
そこで説明されたことは、この研究所が普段どんな研究をしているかという内容で……幻獣や魔法という存在がどういったものかを明らかにし、科学的に解明した上で対策出来ないかと、日夜様々な研究や実験を行っているらしかった。
ハクトの認識では幻獣や魔法は科学の範疇にない存在なのだが、それでも諦めることなく努力し、何かがあるはずだと模索し、そうして作り上げた科学の力でもってその範疇にして解決しようと、そうしているらしかった。
またこの研究所では歴史研究も盛んに行われているらしい。
幻獣や魔法には古代の頃に失われてしまったものが多くあり、それが何故失われたのか、どうにか復元出来ないのかを模索するための研究なんだとか。
そんな簡単な話を受けた後は、施設の奥……機密などが関わる研究をしているエリアの見学が始まる。
その途中にはゲートや危険物を探知する装置などがあり、そこを通った上で足を奥へ奥へと進めていると、どこからか破裂音が連続して響いてくる。
それを聞いてグリ子さん達が耳を立てる中、首を傾げたユウカが声を上げる。
「これって銃声ですか? え? 銃の研究とかもしてるんですか?」
「まぁ、対幻獣の科学の武器としては最有力だからね、研究は欠かせないだろう。
……個人的にはコスパの面で問題があるとは思っているが、だからこそコスパなどの問題を解決するための研究が必要になってくるのさ」
「コスパ、ですか? えっと、コストパフォーマンスのことですよね。
……銃ってコスパ悪いんですか?」
「言い方は悪いけども魔法なら魔力以外のコストがかからないからねぇ。
……ただ予算を食うとかそういう問題の話ではなく、魔法や幻獣を相手する際にはコスパという点がとても重要な視点なのだよ。
たとえば銃で幻獣を攻撃するとして、幻獣側はその毛皮や鱗、あるいは魔力で銃弾を防ぐことになる。
毛皮や鱗も結局魔力で強化や再生をする訳だから、結果としては銃弾VS魔力になる訳だね。
大人数でマシンガンなどを用いた場合、勝利するのはマシンガン側だろう。
魔力はいつか尽きるものだからね、攻撃を繰り返し続けていればいつかはダメージを与えることが出来る。
そのまま討伐も容易だろう……で、討伐したとして何万発の弾丸を使ったのか? これが重要だ。
マシンガンだってずっと撃ち続けられるものではないからね、途中で持ち変えることになるだろうし、暴発などで破損するものも出てくるだろう。
……魔法や幻獣を扱えば報酬、たとえばとして100万円とするが、100万円で済んだ幻獣討伐が、マシンガンでは人件費、弾薬費、マシンガンの修理整備費などで3000万かかったとかになってしまうと大問題だ。
予算の無駄、資源の無駄……場合によっては社会そのものにダメージを与えるような損害になりかねない。
魔力はどんなに消費しても時間経過で回復してくれるからねぇ……コスパという意味では圧倒的だ。
……そういったいくつかの理由で銃側はコスパという視点を常に持つ必要があるんだよ」
「あぁー……なるほど、確かにその通りですねぇ。
何なら魔力なしでも己を鍛えたって良いですもんねぇ、師匠の道場全員で頑張ったらちょっとした幻獣くらい倒せる気がします」
「ま、まぁ、うん……拳銃などの武器が発達する前の時代にはそうやって己の体を鍛えてどうにかしようとした人達が多かったのも事実だね。
魔石刀で海を割ったとされる集団サムライ、己の体を鍛えに鍛え抜いた結果、列島縦断を三日で可能だったらしい集団ニンジャなどなど……まぁ、彼らも魔力や幻獣のなんらかの影響を受けていたとする説が濃厚だけど、そういう手があるのも事実だ」
「……映画とかで見たことはありましたけど、実在してたんですか?
えぇー……」
「ああ、アタクシも何度かやり合ったことがございやすが、彼らには苦戦したものですねぇ」
と、ずっと黙っていたブキャナンが声を上げ、その胡乱げな表情にユウカがなんとも言えない表情を浮かべる中、ようやく目的地に到着したらしく、案内の職員の足が止まる。
それを見てハクト達も足を止めて……そうして目の前に現れた建物へと視線を向ける。
白く大きく、横に広く……相当な規模らしいそこを見てハクト達は、これからが本番かと気を引き締めて居住まいを正すのだった。
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