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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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八咫烏


「よい、楽にせよ」


 そう言葉があってようやくユウカも動き、膝を突く。


 楽にしろと言われてそれでは真逆の行動だったが、ハクトとブキャナンがそうしているのにしない訳にはいなかったからだ。


「……えっと、先輩? どなたなんです?」


 膝を突いてから隣のハクトに問いかけて……ハクトは冷や汗をかきながら言葉を返す。


「八咫烏様、太陽の化身とも呼ばれる高位の神霊だ。

 幻獣と言えば幻獣なのだけども、この場合は神獣と言うべきかな……特にこの国においては古代より、我々を守ってくださった存在でもある。

 幻獣だらけだった古代世界、その際にこの八咫烏様は未熟だった人間を辛抱強く見守り、導いてくださったんだ。

 ……そして今は四聖獣の指導役であり監督役であり、国防におけるトップだと言って良いお方だろう」


「……えーっと、なるほど。凄い方なんですね。

 ……えっと、そんなに凄い方を私が知らないっていうのは、なんでですか??」


 それは当然の疑問ではあった、国防のトップが国民に知られていないというのもおかしな話だ。


 最近のユウカはテレビや新聞などで積極的にニュースに目を通してもいて、しかしそれでも八咫烏のことは見かけたことはなく、その答えは……、


「最近は政教分離だって騒がしいからね、神霊は大人しくしているのだよ」


 という八咫烏の返事に詰まっていた。


 政教分離だからといって実在し、実務に当たっている神霊が姿を隠す必要はないとハクト達は思うのだが、八咫烏としては名誉にも褒美にも興味がなく、国民に知られずとも全く問題がなかった。


 ハクトのような庶民からすると偉い存在なのだから、偉そうにしてもらっていた方がありがたいと言うか、余計な気を使わないで済むのだが……当の本人がそういったことに無頓着なので困ってしまう。


 これに困っているのはハクトだけではなかった、政府はもちろん神社組織も頭を抱えていて……そういった問題をクリアにするために四聖獣がその橋渡し、あるいは緩衝材のような存在として八咫烏の下についていた。


 またハクトにとっても八咫烏は色々と縁ある存在であった。


 八咫烏にも直属の部下が存在している、その部下達の役目は国家の安寧……そのための裏仕事も行う、警察における公安部のような存在となっていた。


 そんな八咫烏とハクトの実家はまさに天敵と言える間柄で、あれこれとやり合ってきたらしい。


 ハクトは直接関わった訳でもないし、卒業後の様々な手続きの中で警察組織からは問題なしとの判断も下されている。


 後ろめたいことは一切ないのだが……それでも多少は思う所がある。


「散々言われていることだろうからね、気にする必要はない。

 そもそも問題があるのなら、四聖獣の候補に挙がったりはしないからな。

 ……さて、今日お邪魔したのは詫びのためだ、くだらない争いに巻き込んでしまったね。

 余はこれでも寛大でね、自由に生きたいという人物に重責を押し付けるつもりはないのさ。

 それをよってたかって……全く嘆かわしい。

 しかしまぁ、それぞれの想いも理解せんでもない、将来のため未来のため、不安を拭うため行動するのが人間だからね。

 という訳で一つの解決策を持ってきた、君達、余の部下になり給えよ」


 そう言われてまず反応したのはブキャナンだった。


 バッと顔を上げて目を丸くし、口をパクパクとさせて言葉に詰まる。


 ハクトもユウカも反応に困っていたが、段々と言葉の意味を理解して顔を上げ……それを受けて八咫烏が言葉を続ける。


「義務を追わせたりはしない、命令したりもしない。

 今の立場のままで構わないよ、仕事も続けてくれて良い。

 たまに役場を手伝って……その際は名義上、八咫烏の部下として働くという形になるかな。

 少しの賃金も出そう、収入も安定するし、悪い話ではあるまい。

 ……そして何故こんな話をという理由も話そう、これは単純だ、君達もまた守るべき存在だからね……国家国民のために献身的に働く者を保護しないでは八咫烏の名が泣くというものだ」


 その言葉に言葉を返したのはブキャナンだった。


「それは大変ありがたい話でございやすが、よろしいのですか?

 八咫烏様が動かれたとなれば政府はもちろん神社庁にも衝撃が走るでしょう。

 更には八咫烏の他の方々だって黙ってはいないはず……」


「ああ、全く問題ない。

 余はその辺りを軽視したりはしない、既に政府、神社庁、部下達、四聖獣にも話はしてある。

 もちろん飛梅、炎御門、吉龍にも話を通してある。

 いずれも納得済みだ、納得させたとも、無理矢理にでも。

 更には矢縫、風切のための役職も用意してある。

 八咫烏の足拭き係……悪くないだろう? この三本脚を拭く存在となれば、誰であっても軽視はできまいよ」


「……尻拭いではないことに安心したくなりやすね」


「ははは、言うね。

 しかし君には言う権利があるのだろう、大僧正……よくぞ若人を導いた。

 彼らが各所を守ったのには君の尽力も影響しているのだろう。

 ……今後は政府や役所も、君の声にもっと耳を貸すはずだよ。

 ……さて、矢縫、風切、この話を受けるかな?」


 と、そう言って八咫烏の真っ赤な目がハクトとユウカを見る。


「はい、お受けします」

「お受けします」


 ハクトとユウカがそう返すと八咫烏はこくりと頷き、翼を振るう。


 その直後、周囲一帯に人の気配が現れる。


 十や二十では済まされない、百かそれ以上か……剣だったり槍だったり、あるいは手甲だったり盾だったり、様々な武器防具を身につけた黒スーツの集団がハクト達とブキャナンの庵を囲うように現れる。


 今現れたのか、それとも今まで潜んでいたのか……いずれも尋常ならざる霊力に満ちていて、只者ではないことが分かる。


「皆、君達の先輩だよ。

 とりあえずの顔見せということで連れてきた。

 今後見かけることがあったら頼ると良い……彼らが姿を見せるということは、必要あって姿を見せているということだからね。

 ……さて、今日はこれで失礼するよ。

 また何かあれば顔を出すから、その時はよろしく」


 と、そういった瞬間、黒い羽根が周囲に舞い飛び……八咫烏とスーツ姿の集団の気配も姿も一瞬で消える。


 そうして呆然とすることになったハクト達は……いつの間にか手元にあった手帳、なんらかの身分証と思われそれをしばらくの間、呆然と見つめることになるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
なんと背筋の伸びる物語だろうか。
足拭き係(≧▽≦) 草履取りみたいなもんでしょうかね。
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