会合
結局会談の場は相手のお屋敷ということになった。
ブキャナンなりに色々な店を提案したのだが不都合があるそうで……そういう訳でハクト達向かった場所は、なんでもない民家だった。
塀があって一階建て、少しだけ広い庭のあるなんでもない民家。
「いや、それは先輩の価値観での話で、これは民家ではないです。
都内の平屋庭付きは全然民家じゃないです、しかもここ何部屋あるんですか」
都内までブキャナンの方陣術で移動をし、目の前にあったのはユウカがそう評する家だった。
転移した先は門の内側で、門を通りはしていないが……その門も立派な柱二本を構えて、鬼瓦を構えた立派な門で、その門を通るための道も車でなければ相当な時間がかかるだろう長さで……ユウカはすっかりと呆れ果てていた。
ここが民家であるものか、高級旅館かホテルかのどちらかだろうとしか言い様がなく、グリ子さんを始めとした幻獣達も厳かな空気に困惑している。
「部屋の数もそこまでではないと思うがなぁ。
まぁしかしここまでの結界が張ってあるというのは、確かに普通ではないかもしれないな」
と、ハクト。
「えっと、結界があるんですか? 結構な規模ですか?」
「そうだね、規模も枚数も尋常ではないかな、恐らく先程の転移方陣も事前に申請して許可を得て、特別に通させてもらったものなのだろう。
逆に普通に入口から入ろうと思ったら……結界を通るだけで一時間はかかるんじゃないかな」
「え? えっと、入るだけで一時間ってことですか? それって日常生活に支障出ません?」
「出るだろうが、一日に何度も出入りをする訳ではないだろうし、大体のことは家の中で済ませるようにしているのだろう。
逆に半端な結界で防犯能力を低下させる方が問題と、そう考えるお家なのだろうね」
「はぁ……なるほど。
それでその、ブキャナンさんはどこ行ったんですか?」
「先にお屋敷に入って挨拶をしているんだろう。
手土産を持って挨拶をし、俺達が入っても良いように場を整えているんだろうね」
「はぁー……なるほど。
おかしなお家なんですね」
と、そんな会話をしていると人間スーツ姿のブキャナンがやってきて、中に入るようにと手で促してくる。
それを受けてハクト達が前に進むと、黒い着物を来た和髪の女性達が玄関でハクト達を出迎える。
膝を畳んで座り丁寧な仕草で頭を下げて、仕草でもって中に入るよう促し……案内をされて廊下を奥へ奥へと進んでいく。
廊下の左右には何枚もの障子戸があるが、そこには触れずただ進み……途中あった大部屋も無視して進み、最奥と言って良いのか、屋敷の隅に位置するなんとも狭い部屋へと足を運ぶ。
茶室を改装したのかと思うような狭さで、この屋敷には全く似合わない。
そんな部屋には人数分……幻獣達を含めた分の大小様々な座布団があり、女性達の案内のままに腰を下ろす。
そうして待っていると、誰かの足音がし……ハクト達の背後から誰かが入室をしてきて、背後かすっと前に出て、対面の位置に置かれた座布団に腰を下ろす。
筋肉質高身長な男性、丁寧で綺麗な正座でもって、服装は真っ黒なスーツ姿、しっかりネクタイもしていて……黒い長髪を首後ろで縛り、綺麗にまとめ上げている。
歳は40かそれ以上か……ヒゲはなく角ばった顔をしていて、眉毛がゲジゲジとしながら力強くつり上がっている。
「炎御門久光である、此度はよう参った。
かの矢縫に頭を下げるとは業腹ではあるが、かの家を見限り袂を分かち、一から自活する気骨ある青年であると聞いておる。
その後の活躍は言うまでもなく立派の一言、多大な報酬を提示されても我欲を出さず自重しているも良し。
……しかし飛梅の言いなりになっているのは見過ごせん」
そして第一声がそれだった。
それを受けてハクトは首を傾げそうになるが、自重してぐっとこらえ、ただ相手を見つめる。
そんな中ユウカは首を傾げて……グリ子さん達もそれを真似し体を傾げる。
そんなユウカ達に構わず炎御門は言葉を続ける。
「これ以上の人類の発展など誰が望むのか。
魔法と幻獣があればあらゆる困難に対抗出来ると言うのに、一体どうして科学などという如何わしい技に頼ろうとするのか。
あの飛梅は平に固執する一種の亡霊よ、過去の遺物よ、それが今に関わろうなど傲慢に過ぎるとは思わぬか」
その言葉でハクトは、ようやく目の前の男の意図を察する。
つまり目の前の男は飛梅と敵対し、真逆の思想を抱いているようだ。
立場としては恐らく公家の流れ、苗字に聞き覚えはないが屋敷と結界の規模、またハクトの実家のことを知っていたことからかなりの立場であるようだ。
先程からずっとブキャナンが静かにしているのもそれを証明している。
目の前にいる男は恐らくただの人間、かなり体を鍛えて魔力を練り上げ、立派な人柄であることは分かるが、同時にそれ以上の存在ではないということも分かる。
それが長い時を生きて多くの事を成し、国防の切り札でもある大僧正よりも上の立場というだけでただ事ではない。
……もしかしたら国の中枢かそれ以上の存在なのだろうと予測することが出来る。
まず間違いなく四聖獣よりも上、投票で選ばれる総理大臣よりも上かもしれない。
そう考えてハクトはまっすぐに視線を返したまま口を開く。
「炎御門様のご懸念はよく理解出来ました。
しかし同時に神々の加護を頂戴した身としては、そのご厚意を無下にすることは出来ません。
もし飛梅様のご意向に思う所ありますのであれば、直接飛梅様にお伝えするのが一番かと。
所詮は下っ端、ただの使い走りにこれ以上のことを期待されましても、どうにも出来ないのが現状です」
ハクトの本音としては知ったことかだった。
飛梅にせよ炎御門にせよ、勝手な理屈をこねてこちらに何かを要求してくるんじゃないと、そんな気分だった。
しかし相手は圧倒的上にいる人物、またその立場に見合った重責も担っているのだろう。
ならばとハクトなりの敬意をこめた言葉を投げかけ……そしてそれを受けた炎御門は口をへの字に結び、目を細めて……そしてそのまま何も言わず、しばしの間、沈黙してしまうのだった。
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