結果
ゴーレムが土を操れるというのは、誰にとっても朗報だった。
ハクトが思うよりも需要が高く、様々な活躍の場があり、研究価値まであるとなってちょっとした騒ぎまで起きた程だ。
特に食いついたのは役場の幻獣課の課長で、役場的には尽きない程の仕事があるとかでそれから苗場とゴーレムは八面六臂の活躍をすることになった。
ハクトが言っていた災害対応もそうだが、土木の現場での需要が高く、トンネル工事などなど大規模な工事で大活躍することになる。
土の除去、あるいは土壁の構築、天井の補強、土の中にある水の排出口の作成……などなど。
人の手や機械、他の幻獣などでも行える作業ではあったが、ゴーレム程完璧に手早く、手軽に仕上げることは不可能で、あらゆる面においてゴーレムに任せた方が良いというのは、誰にとっても喜ばしいことだった。
手軽ではあるものの希少な力で、他に替えが効かないということで課長がかなりの報酬を確約してくれて、それにより苗場と苗場が所属する孤児院はかなりの収入を得ることになった。
工場で働くハクトとグリ子さんがそうであるように、苗場とゴーレムの働きは孤児院からの出向という形で行われていて、その対価としての補助金や様々な優遇制度が適用されて、更には孤児院にも報酬が支払われるので、苗場としても万々歳……少々の予算不足で悩まされていた孤児院の暮らしは一気に安定することになった。
またユウカの両親を始めとした幻獣研究者達によるゴーレム研究が活発化、土木でこんなにも役に立つのならゴーレムを作る価値があるのだろうと、様々な研究所で研究が進むことになった。
「……まぁ、あれは苗場さんの魔力あっての活躍なんだろうけどね」
それから迎えた休日、なんだかよく分からないうちに一段落を迎えたと言うことで、ハクトはユウカを家に呼んでのお疲れ様会を開いていた。
教育をしようと決めて、行動をして、結果は苗場が勝手に才能を発揮しての大活躍。
大したことをした覚えは全くないが、結果としてはとにかく大成功と言えて……またこれ以上はハクト達に出来ることもないのでお疲れ様会だ。
後は苗場が自らテキストから学び、道場で己を鍛えていけば良い話で……そういう訳でハクトは、出前を山程頼んでの食事会の開催を決めたという訳だ。
頼んだのは出前寿司と出前オードブル、出前ピザというラインナップで……飛梅の加護を受けてのことだからと、オードブルのサラダには梅肉ソース、出前ピザの具にもカリッとした梅干しという梅を意識してのラインナップとなっている。
参加メンバーはハクト、グリ子さん、フォス、ユウカ、フェー、そして様子を見に来たブキャナン。
普段から愛用している店に注文をして皆で届くのを待って、届いたなら皆で楽しんで……と、普段よりは少し風変わりな梅風味の食事を皆で楽しむ。
ハクト達はもちろん、幻獣達も梅風味を気に入り、梅の強い香りと酸味で食欲を増させながら楽しんでいく。
そうしていると誰が落としたか、リビングの床にコロリと何かが転がる。
「うん?」
固い何かが転がる音、声を上げたハクトだけでなく全員がそれに気付いていて、視線が一箇所に集まる。
ハクトは一瞬、また魔石が生まれたのかと思ったが、見てみるとどうやら魔石ではないようだ。
赤くシワシワのそれはどう見ても梅干しで……カリカリに乾燥して固くなった梅干しが、どこからか落ちてきて床に転がったらしい。
「いや、何処からだよ。
我が家には梅干しなんてないぞ? 今日の料理に使われている梅干しはあんな風に乾燥はしていないし……」
思わずそんな声を上げたハクトが椅子から立ち上がり、それを拾い上げようとすると……立体映像のように梅干しの上に、ボヤけた映像というか姿というか、以前出会った飛梅の姿が映し出される。
『よくやりました。
様々な点で未熟であり褒めそやす訳にはいきませんが、その働きは認めます』
そして少しくぐもった声、どうやらなんらかの通信技術のようなものでその言葉を伝えてきているようだ。
こんな魔法あったかな? と、ハクトが疑問を浮かべる中、飛梅は言葉を続ける。
『アナタがこれからも頑張ってくれたなら、我らの目標にまた一歩近付くことが出来ます。
学問を司る者達の望みはただ一つ、人類種の発展……そのためにも勉学を、子供達に教育と夢ある未来を。
それこそが人類種の発展への近道なのです、この調子でいけば500年後には人類種が新たな舞台へと躍り出ることになるでしょう』
これはまたぶっ飛んだことを言い出したなと、冷や汗をかくハクト。
学問の神様の使いにしては随分とやんちゃな望みを抱いているようで、しかしその手法はなんとも穏当な手段で反応に困る。
非常識な望みを常識的な手法でもって、これまた非常識な時間をかけて達成するつもりらしい。
……500年後は一体どんな未来になっているのだろうか?
どうあっても絶対に見ることの出来ないその光景に、ハクトはあれこれと想像を膨らませる。
「キュン?」
そんなハクトの側にやってきて見上げて、どうしたの? と、問いかけてくる。
「……いや、なんでもないよ。突然凄いことを言われて驚いただけさ。
……えぇっと、飛梅様、お褒めの言葉ありがたく。
これからもそう思っていただけるよう、励まさせていただきます」
グリ子さんの声で我に返ったハクトは、そう言葉を飛梅に返し……それを受けて飛梅は、満足げな表情をしてすっと消え去る。
以前来た時のように唐突に現れ、唐突に去っていく飛梅。
その思想も含めてとんでもない存在だが、神様に近い存在なのだから、そういうこともあるだろうと受け入れて、ハクトは食事を再開させる。
ユウカは食事に夢中過ぎて今の出来事に気付いていないらしい、フェーもまた気付いていないらしい。
ソファでピザを楽しんでいた人間姿のブキャナンは気付いてはいるようだが、特に関わる気はないようだ。
これが何か邪悪な企みなどであればブキャナンも黙ってはいなかったが、子供達に勉強をさせるというだけでは反応する方が馬鹿らしいように思えて、何も反応をせずにピザを食べ続ける。
それに気付いていながらも半目だけを送って終わりにしたハクトは、椅子に座り直して目の前の寿司に意識を向け直し、ゆっくりと食事を楽しんでいくのだった。
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