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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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ひとまずの一段落



「……あんなこと言ってましたけど、甘くする訳ではないんですね」


「そりゃまぁ指導は指導だからね。

 それと大僧正の指導は前時代的と言うか、数百年前の価値観が基準になっている部分もあるから油断は出来ないよ」


 ブキャナンによる指導が始まって、今度は見る側になったユウカがそんな声を上げ、ハクトがそれに続く。


「……ま、まぁ怪我をする心配がないのは良いと思いますよ……」


 と、監督官。


 しかしその表情は硬く、目の前の光景全てを受け入れられている訳ではないようだ。


 ブキャナンが最初はこれだと始めた指導は、幻影を作り出しての戦闘訓練だった。


 幻影が相手ならば怪我をする心配はないし、幻影を上手く動かすことで色々な戦い方を学ぶことが出来る。


 安全かつ効率的で、またブキャナン程の使い手が作り出す幻影なので真に迫っていて、生徒達も必死になって本気で挑むことが出来ている。


「……ところであれは、その、幻獣、ですよね? それともああいう生物が実在しているのですか?」


 指導の様子をじっと見つめながら監督官がそう言うとハクトが驚きを表情で表しながら言葉を返す。


「御冗談ですよね? あんな生物が実在していたら知られていない訳がないでしょう。

 ……と、同時に大僧正にとっては実在とも言える存在です。

 そもそもの大僧正が幻獣であり異世界の生まれですから、大僧正にとってあれは実在の生物となるのでしょう」


 そんなハクトの言葉を受けて監督官は、ブキャナンの顔を二度三度と見る。

 

 どう見ても人間の姿、幻獣には見えない姿……それでも魔力を込めれば真の姿がうっすらと見えてくるはずなのだが、そこまでの技量はないようだ。


 そんなブキャナンが作り出している幻影はブキャナン曰く「クマ」。


 腕が四本あって体毛が刃のように尖っていて、爪は射出が出来て口からはカエルのように伸びる舌が放たれるクマ。


 かつてブキャナンはこのクマの幻影でもって自らが管理している寺に預けられた稚児を鍛えてやったことがあるという。


 その稚児はこのクマと相対した当初は驚いていたようだが、初日からまぁまぁの戦い方を演じて見せて、数日もするとすっかりと慣れて十日もしないうちに打ち倒すことが出来たそうだ。


「……あの御稚児様は四本の腕の連撃も、体毛を活かしての体当たりも連射される爪も、長く伸びる舌も見事に避けてみせてくださいやした。

 圧巻の一言、森の中を軽々飛び回るあの姿には魅せられたものですなぁ」


 なんてことを言いながらブキャナンは幻影クマを操って生徒達を追い詰めていく。


 あくまで幻影、匂いもしないし声もしない、気配らしい気配もなくただ姿がそこにあるだけ。


 だけども不気味で恐ろしくて、その攻撃は真に迫っていてまるで本物。


 それが凄まじい殺気とともに放たれたなら生徒達はもうパニックで、そのほとんどが対応しきれていない。


「……うぅん、殺気を放つタイミングが完璧ですね」


「まぁ、数百年そうやってきた訳だからね」


 それを見てのユウカとハクト。


 殺気の主はクマの幻影ではなくブキャナンだった。


 幻影を動かしながら僅かな殺気を放つことで、それがまるで幻影が放ってるように思わせて、生徒達の本気と必死さを引き出している。


 あれが幻影であることは生徒達に知らせてある。

 

 だから本気で避けないということも可能で、ただぼーっと見ているだけ、なんてことも出来てしまう。


 しかしブキャナンの殺気がそうはさせまいと生徒達に襲いかかる。


 幻影がまるで本物かのように思わせ、必死さを無理矢理に引き出す。


 幻影と分かっていても体が動いてしまう、恐怖してしまう。


 元々相手を化かすことが得意な天狗の本領発揮といった所で、ブキャナンは生徒達を振り回しに振り回し、見事に鍛え上げていく。


「……ちなみに大僧正、彼らの攻撃の威力などもしっかりと考慮に入れているのですよね?」


「えぇ、勿論、しっかりとした攻撃を的確に当てたなら幻影の動きを鈍らせるつもりでございやす。

 倒せるような一撃が入ればそれで終了、倒せたことを褒めてやって褒美をやっても良いと思っておりやす。

 なーにしろ、この幻影を倒せた子は数える程しかいやせんからねぇ……。

 鍋之助くんなんかは、初見で倒しておりやしたから、この子達にだって出来るはずでございやすよ。

 彼は魔力を一切持たず、その身体能力だけでこのクマを討伐してみせた唯一の子、あの後どうなったのか……きっと大成したに違いありやせん」


 ハクトが問いかけるとブキャナンはご機嫌でそんな言葉を返す。


「はぁ、そうですか……」


 と、そう言ってハクトは、頭の中で誰のことだ? と唸って思考を巡らせるが……思い当たる人物はいない。


 ハクトがただ知らないだけか大成しなかったのか……悩んでも答えは出せないようで、ハクトは諦めて目の前の光景へと意識を戻す。


「私も今度挑戦したいですね!」


「いや、ユウカさんは普通に倒せちゃうのでご遠慮くだせぇ」


 拳を軽く振るって空気を引き裂きながら言うユウカに、返すブキャナン。


 そんな中、生徒達はどうにか精神を立て直し始めて幻影への反撃を強めていく。


「ふむ……このくらい動けるのであれば、やはり良い才能を持っているようでございやすねぇ。

 ハクトさん達が厳しかっただけで上等上等。

 これならば数ヶ月も仕込めば良い具合になりましょう、幸いにしてアタクシの寺は今ほぼがら空きでございやすから、彼らを受け入れてもなんとかなりやしょう。

 監督サン、どうでございやしょうか? 数カ月預けてくだされば召喚者としての技量だけでなく、礼儀作法と僧侶としての基礎も教え込んでおきやすよ。

 それを終えれば一角の人物になっていることは請け合いましょう」


 しかし結局ブキャナンも、どこかズレてはいた。


 ハクト達の側であり常人の側ではなく、その提案を受けて監督官は今日一番の声を張り上げる。


「お気持ちはありがとうございます!

 ですが本日十分な程に鍛えていただきましたので、あとのことはこちらで、こちらでなんとかさせていただきます!!」


 そう言って監督官は深々と頭を下げて……そうして吉龍先生の依頼は誰にとっても予想外の形で終了となるのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
本多忠勝と同レベルを求められてもw
まさかの鬼柴田… 戦国武将クラスを求められてるのか
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