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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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しっかりと



 ユウカが放った一撃は、悠々と結界を貫いた。


 貫いて上空まで突き上がり……雲が衝撃で吹き飛び、円を作り出す。


 ハクトに散々やられてユウカのそんな一撃を見せられて、心が折れたのか生徒達はそれぞれその場に座り込む。


 監督官もまた唖然としていて……平然としているのはハクト達くらいのものだった。


「……あっちゃぁ、結界あるんだった」


 と、ユウカ。


 完全なうっかりでの一撃だったらしい。


 そんな声を聞いて呆れ半分の表情となったハクトは、グリ子さんに向かって声を上げる。


「グリ子さん、修復出来るかな?」


「クッキュン!」


 任せてと、返事をするグリ子さん。


 守護の幻獣、結界のプロ……グリ子さんならば問題なく修復できるようで、すぐさまグリ子さんが魔力を放って、貫かれた結界を修復していく。


 グリ子さんにとってはなんでもないことで、ハクト達にとっても見慣れた光景、ユウカもフェーもフォスも大してそれを気にしていない。


 しかし監督官や生徒にとっては衝撃的な光景だった。


 ハクトの暴れっぷりやユウカの一撃よりも衝撃的で、呆気にとられてしまう。


 これだけの結界を張った施設は少ない、それだけ労力と魔力が必要なものだからだ。


 それをグリ子さんはあっさりと張ってしまっていて……まだまだ余力を残した様子だ。


 場合によっては数人でかかる仕事だというのに、単独であっさりと……。


「……さて、まだ続けるか、監督官が来たのだから、相応の成果を出すように。

 このまま何も出来ないでは話にならないし、将来の四聖獣たらんとするならば相応のものを見せるように」


 そんな中、ハクトがそう声を上げる。


 すると生徒達はこれで終わりと思い込んでいたのか、目を丸くして動揺し始める。


「……いや、まだ大したことはしていないだろうに。

 そんな風に動揺されてもこちらが困ると言うか……一体今日はどんな覚悟でここに来たんだ?

 とりあえず時間いっぱいまではやる、こちらも何の成果も上げませんでしたでは今後の仕事に関わるからな。

 足りないようなら明日もやる俺からの合格が出るまでは何日でもやる覚悟だ。

 言っておくが俺や風切君だって四聖獣に届かない程度の実力だ、この程度で躓くようでは困るよ」


 そうハクトが声を上げると生徒達は動揺を越えて脱力し、がっくりと項垂れる。


 するとハクトはそれを咎めるように糸を展開し……そこに魔力を通していく。


 そして……相手が対応しようがすまいが、構わず糸を振るう。


 防御なり回避なり、対応出来た生徒も出来ない生徒もいて……しかし両者共々、弾かれたように吹き飛ぶ。


「ちょぉぉ!?」


 監督官の悲鳴、生徒達もそれぞれ声を上げて吹き飛び……グリ子さんが張ったやわらかな結界が吹っ飛んだ生徒達を包み込む。


 ハクトの糸の直撃でも怪我を負った者はいないが、それなりに心が折れてしまっているようで、結界に包まれたまま動かない。


 それを見てやれやれとハクトがため息を吐き出した時だった。


 生徒のうち2人がそれに腹を立てたのか悔しかったのか、魔力を吹き上げながら立ち上がり、拳を構えての攻撃姿勢を取る。


 それを見てハクトとユウカは「おっ」という顔になり、グリ子さん達も期待を込めた顔となる。


 一人は少年、魔力で黒い髪を逆立たせて両拳を燃やしている。


 一人は少女、魔力で全身を包みこんで長い茶髪をうねらせて、片拳を前に突き出している。


 それを見てハクトはあえて隙を作る。


 糸を展開しながらも左右に広げて道を作ってやり……構えもあえてダラッとしたものにする。


 すると二人は鋭く地面を蹴ってハクト目掛けて突進をし、それぞれ構えた拳を突き出す。


 ハクトにとってそれは回避可能なものだったが、あえて手の平でもって攻撃を受ける。


 威力を確かめるため、込められた魔力を確かめるため。


 ハクトが手の平に込めた魔力と、彼らが拳に込めた魔力がぶつかって光が弾ける……が、ハクトにダメージはない。


 横から見ていたユウカ達には分かったことだが、ハクトの手の平から放たれた光の方が大きく揺らいでもおらず、分厚く力強く……生徒達が放った光は揺らいでいて薄く光も弱かった。


 力の差は歴然……それでも生徒達は諦めずに拳を何度も何度も叩き込む。

 

 そしてそれをハクトは余裕を持って受ける。


 ハクトはそこまで体術を得意としていない、魔力も特別多い訳ではない。


 しかし普段からユウカという一流の体術を見ているので、その余裕が崩れることはない。


 それでも生徒は何度も何度も拳を叩き込み続け……そうする度に魔力を失っていく。


 ついには拳が魔力をまとわないようになり……そして体力も尽き果てて、


「くそっ」

「なんなのよ……」


 と、そんな声を上げてその場に崩れる。


「よし、今のは悪くなかった。

 最初からそれくらい頑張ってくれていたら良かったのになぁ。

 ……どうやったら本気になってくれるのやら、何らかの罰則を与えたら皆これくらいの動きをしてくれるのか?」


 そしてハクトはそんな感想を口にしながら、頭を悩ませ始める。


「……しょ、正気ですか?」


 と、監督官。


「ちゃんと正気ですよ、まぁやりすぎだとも思いますけど、でも学院の生徒ならもっと頑張れますよね?

 私達はもっと厳しい鍛錬だってしてましたよ?」


 と、ユウカ。


「クッキュン」


 甘やかしてばかりじゃダメよ、とグリ子さん。


 グリ子さんの言葉は監督官に通じていなかったのだが、それでも態度などから何を言っているかは大体伝わったのだろう、監督官の顔に冷や汗が浮かぶ。


「……ち、ちなみに、貴女であればどんな鍛錬を?

 今日はまずどんな鍛錬からするつもりでしたか?」


 そう監督官に問われてユウカは、


「え? まずそれぞれの腕を見て、それから走り込み、柔軟、筋トレ、あとは倒れるまで拳を振るってもらうつもりでした。

 3日も続けたらまぁまぁ動けるようになると思いますよ」

 

 と、返す。


 そんな答えを受けて監督官は頭を抱えてしゃがみ込み……それから、


「すいません! 一旦休憩お願いします! 方針を話し合いましょう!!」


 と、そんな声を上げるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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