特別な
色々と衝撃的な経験をしながらハクト達は宿へと帰り……天然温泉と豪華な食事をしっかりと楽しみ翌日朝、宿をチェックアウトし次の街へと車を走らせた。
次に向かうは今回の旅の最終目的地、古都と旧都の物流を支えてきた国内最大の港街。
そこはタコが名物でもあり……グリ子さんにとっては今回の旅のゴールに相応しい街と言えた。
大きな都が近くにある関係でその港は古来より経済活動が活発で……それだけ豊かで穏やかな街並みが広がっている。
豪華絢爛という訳ではなく、落ち着いていて外観としては質素なのだが、一つ一つの家が持つ敷地がとにかく広く……同時にユウカはある違和感を覚えることになる。
「なんか空が広いですね?」
ハクトが運転する車がゆっくりと街中を進んでいて……そんな車の助手席に座り、窓を開けて顔を出したユウカがそんな声を上げる。
空を広く感じるが、その理由が分からない……どうして空が広いなんて感想を抱いたのかが自分でも理解出来ない。
……と、そんな様子のユウカを一瞬だけチラッと見たハクトは、安全運転を継続しながら言葉を返す。
「空を広く感じる理由は、一階建ての建物が多いからだろうね。
横に広く縦には伸ばさない……土地に余裕があるのならわざわざ二階建てにはしないということだね」
「え? あー……ああ、本当ですね、一階建ての家ばかりだ。
……お金持ちって三階建ての家とか建てるものだと思ってたんですけど、そっかぁ、お金持ちになると横に広くなるんですねぇ。
ビルとかも全然ないし、それで空が広く見えるのかぁ。
……ちなみにですけど、ここらへんと先輩の実家ってどっちのがお金持ちの家が多い感じですか?」
「ん? んー……多いどうこうで言うならここだろうね。
あちらの方が地価は高いと思うけども、歴史はこちらの方が圧倒的だからね……まぁあちらとこちら両方に家を持っているお金持ちも多いだろうから、そういう意味では比較は難しいかな」
「あ、両方持っちゃってるんですね……なるほど。
……って先輩!? あそこのおうち家の屋上のヘリとまってません!?」
「……ごめん、運転中だから見られないかな。
でもまぁ、自家用機を持っていてもおかしくないんじゃないかな?」
ハクトのその返しにはただただ絶句するしかなく……ユウカはしばらくの間、その街並みへと視線を釘付けにする。
何も言えず何も出来ず……ただただ呆然としたなら立ち上がり、後部へと移動し、休憩スペースでゆったりとドライブタイムを楽しんでいたグリ子さん達の下へと飛び込み、その柔らかさと温かさに癒やされる。
顔を埋めて存分にもふもふとし……グリ子さん達もそれを受け入れてくれて、羽毛を膨らませながらユウカを包みこんでくれる。
そうやって車が進んだ先は潮の香りが漂い海沿いの街並で……そこを更に進むと、まるで軍事基地かと思うようなゲートがハクト達を出迎える。
ゲートの前に車を停車させると、ゲート脇の詰め所にいた警備員がバインダー片手にやってきて、窓を開けたハクトが挨拶をする。
「こんにちは、予約した矢縫ですが」
すると警備員はにこやかに笑い、バインダーに挟んだ書類をチェックしながら言葉を返してくる。
「ご予約ありがとうございます。
お名前が矢縫さんで……他の情報の確認もさせていただきます」
それから電話番号、住所、生年月日の確認が行われ、免許証のチェックも入り……それから警備員が車内に入ってきてまでの確認が行われる。
まさかそこまでとは思っていなかったユウカが驚く中、指差し確認での内部チェックが行われ……ハクトが幻獣召喚者としての登録証を見せたことで確認は終了。
警備員から鍵が渡されゲートが開かれ……ハクト達の車はゲートの奥へと進んでいく。
「えっと、先輩、今のは?」
そう尋ねられてハクトは目的地に向かいながら言葉を返す。
「ここから先はお客さんしか入れないプライベートゾーンなんだよ。
安全とプライバシーがしっかり保証された特別な地域と言ったら良いのかな……あのゲートから先はお客さんとスタッフしかいない。
浜辺もお客さんごとにエリアが分かれていて……自分達だけの空間でゆったり過ごすことが出来るという訳だね」
「あ、あー……そういう感じですか。
なんか海外ドラマでそういうの見たことありますね」
「ゲーテッドコミュニティだね。それに近いものと思ってくれて構わないよ。
ちなみにだけど先程の警備員も四聖獣とまではいわないけども、トップクラスの召喚者だよ。
幻獣の襲撃に備えてのことで……どこか近くに彼の幻獣が隠れていたんだろうね。
鷲波さんと同等か、それ以上の実力者じゃないかな」
「え? 本当ですか? 全然気付かなかった……」
なんて会話をしているうちに車が目的地へと到着し、ハクトは駐車場へと車を停めて……砂浜際にある今日の宿へと足を進める。
海辺の家と聞いて想像するような白い壁に白い屋根、壁の多くがガラス張りで……どのくらいの部屋数があるのかと思う程に広い。
浜辺への直通階段があるだけでなく、サーフボードなど各種マリンスポーツの道具までが用意されていて……駐車場近くの庭のようなスペースにはバーベキュー台や竈なども設置されている。
鍵を開けて中に入ると、広い空間が広がっていて……玄関側にどういう訳かガラス張りのシャワールームがあり、それがまず視界に入ってしまう。
「……先輩、これは?」
「砂浜で遊んだ後、家に入る前に砂を流すためのシャワーかな。
大きさからして海で使った道具とか、幻獣とかも洗えるんだと思うよ。
……ちなみに海側にも同じような玄関とシャワーがあるから、海で遊んだあとはそちらを使っても良いんじゃないかな。
荷物を置いたら海で遊んでおいで……砂浜で泳ぐもよし、マリンスポーツや釣りを楽しむもよし、お昼までは自由時間だよ。
昼食は……レストランに行っても良いし、デリバリーを頼んでも良い、食材配達サービスもあるから……まぁ今日はここでバーベキューにする予定だよ」
ユウカの問いにハクトがそう返すと、ユウカはこれでもかとテンションを上げて駆け出し……その勢いのまま荷物を放り投げて、グリ子さん達を引き連れて海へとカメラ片手に駆けていくのだった。
お読みいただきありがとうございました。