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道場へ


 天ぷらを満足行くまで食べて……料理人にお礼を言ったなら片付けが始まり、お茶が用意されての小休止。


 衝撃的な味と満足感を得られたグリ子さんは、お茶も飲まずに天井を見上げてぼーっとしていた。


 あまりにも美味しすぎた、こんなに美味しいものがあるなんて……。


 天ぷら自体は今までも食べたことがあったが、これ程の味は初めてだ。


 たまらない満足感と幸福感……それがどんどんと膨らんで魔力を生み出し、グリ子さんがふるふると震え始める。


 それを受けて大体のことを察したハクトは、ブキャナンから預かった朱色の布袋を取り出して待機し……直後、グリ子さんの目の前に魔石が生み出される。


 すぐさまハクトが手を伸ばし、魔石を受け取り袋に入れて……窓をコンコンと叩いてから開ける。


 するとずっと待機していたのか、叩いた音を聞いて駆けつけたのか、ブキャナンそっくりの仮面をした小僧天狗がヒョコッと顔を出し、その袋を受け取ってどこかへと飛び去る。


 そのままブキャナンの下に向かい、預けてくれるのだろう……これもまた今回の旅の目的の一つであり、とりあえず目的を果たせたとハクトは小さなため息を吐き出す。


 それからゆっくりと……腹の中が落ち着くまで休憩し、支払いを済ませようとレジへ向かうと、グリ子さんがクチバシで自分の羽毛を抜き始める。


 抜いてそっとハクトに手渡し、ハクトがそれを支払い用トレイに乗せようとしながら説明のために口を開こうとすると、レジで待機していた女性店員は事情は分かっているとばかりにそっと手を出して羽毛を受け取る。


 それからすぐに後ろで待機していたらしい……店主なのだろう、着物姿の男性に手渡し、男性はハクト達に向けて軽く頭を下げてから羽毛を手に店の奥に下がる。


 そんなやり取りの後にレジスターに表示された金額は、ハクトが考えていた金額の半額以下で……訝しがって眉をひそめるが、店員は何も言わずに微笑むのみ。


 恐らくはグリ子さんのことを知っていて、羽毛のお礼なのだろうと察したハクトもまた何も言わずに支払いを済ませる。


 ……まさかこんな遠方にまで知られているなんて……もしかしたら予約の段階で、名字などからこちらのことを調べていたのかもしれないなと、ハクトは感心した様子となる。


 そんな様子を後ろから見ていたユウカは困惑し、何度もハクトと店員を交互に見やるが……誰もそれに構うことなく支払いが終了し、ハクト達は店の外へと足を向ける。


「えっと、あの先輩? あれって良かったんですか??」


 店を出てすぐユウカがそう声を上げると、ハクトはただ微笑むだけで何も言わない。


 どうやら良かったらしいとユウカはそれ以上何も言わず、ハクトに従って歩いていく。

 

 満足げなグリ子さんもフォスとフェーもごきげんな足取りで……魔力で満ちているのか、キラキラと輝きながら。


 そうやって歩いているとまた店に入る前のように、道行く人々から声がかかる。


 綺麗だとか景気が良いとか、何故だか手を合わせて祈る人までいてグリ子さん達は得意げだ。


 そんな風にしばらく歩いたなら、一行はハクトではなくユウカが行きたいと言っていた場所へと足を向ける。


 賑やかな街を通り過ぎ、住宅街に入って少し歩き……そこにあったのは古い門を構える道場だった。


 今回の旅の予定の中には、ユウカの修行目的のものも何個か組み込まれていて、ここがその一つだった。


 出稽古と言ったら良いのか、ユウカの師匠が事前に連絡をし、この辺りの有名な武芸家を集めてくれているとかで……門に近付いていくと、門の向こうで待機していたらしい女性が姿を見せる。


 道着姿のその女性は、簡単な挨拶を済ませるとユウカを更衣室へと案内し……ハクト達は見学の予定しかないので、まっすぐに道場へと向かう。


 中に入ると道着姿の老人が出迎えてくれて、ハクトは名乗った上で挨拶をする。


 ハクトが来ることを事前に知らされていたらしい老人は簡単な挨拶をしてくれて……それから見学のために用意してくれたらしい座布団の方へと足を向ける。


 そこにはグリ子さん達用のクッションも用意されていて……和風の大きなクッションとは珍しいと驚きながらハクトは腰を下ろし、グリ子さん達もそれに続く。


 そうしてから改めて道場内を見回してみると……見るからに有段者といった様子の人物が何人も道着姿で立っている。


 顔に傷がある髭男、道着がはち切れそうなくらいの筋肉男、魔力に満ち溢れた長身の女性に……とても不思議な雰囲気の男性。


 黒髪のおかっぱ頭、30か40のいかつい顔立ち……まるで軍人かと思う程の鋭い視線に、溢れ出てくる程の魔力。


 ただものではないことが一目で分かる風体だと言うのに、見たことない程に魔力が溢れ出ていて、袴姿というのもなんとも目を引く。


 そんな男性のことを見ているのはハクトだけではないようで……彼に視線を向けている誰もが、誰だコイツ? とでも言いたげな表情で訝しがっている。


 今日のここには様々な場所から人を集めたそうだから、初対面の人間が数人いてもおかしくはないが……視線を向けている全員が訝しがっているというのは、なんとも違和感がある。


 あれだけの風格、魔力で近隣の武芸者に知られていないというのは一体どういうことなのだろうか?


 あんな魔力、道ですれ違っただけでも思わず目を向けて、その印象をしっかりと記憶に刻み込むはずなのだけども……と、そんなことをハクトが考えていると、可愛らしい格好から凛々しい道着姿へと着替えたユウカがやってきて、声を張り上げる。


「風切ユウカです! よろしくお願いします!」


 すると道場内のほぼ全員から押忍!! との返事があり……道場全体を震わせるような声をしっかりとその身で受け止めたユウカは、早速手合わせをと一礼をしてから道場中央に足を進める。


 するとあの……おかっぱ頭の男性がまず自分からと前に進み出る。


 一体誰だ……? まずは師範からではないのか……? 誰か止めないのか?


 などなど、周囲がざわつく中、相手が強者であることを理解したユウカは、その目を煌めかせて……なんとも嬉しそうに道場の中央に立つ。


 それを受けてニカッと、なんともいかつい笑顔を浮かべたおかっぱ男は、堂々と……のっしのっしと擬音がつきそうな足取りでもってユウカの前に進み出て、そうしてどういうつもりなのか、まるで相撲のような構えを取ってみせるのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
巨大座布団?におっちゃんこするグリ子さんかわいい(^_^)
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