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モーニングコーヒー



 それからハクト達は食事までの時間、ゆっくりと休むことにした。


 交代で入浴し、上等な布で作られた館内着に着替え、グリ子さん達のブラッシングをし、グリ子さん達にも宿泊客であることを示すバンドを足につけてもらい……やるべきことを終えたならフロアでテレビを見ながらの何もない時間を過ごす。


 そうこうしていると夕食の時間となり……準備が終わったとの内線電話を受けたハクト達は、フロアを出てエレベーターに乗り、大食堂の指定された席へと向かう。


 そこは普通のテーブル席とかではなく、円形のソファに囲われた半個室のような形となっていた。


 大きなテーブルが二つあり、小さなテーブルが二つあり……背の高さなどを見るに、ハクトとユウカ用、グリ子さん用、フェーとフォス用ということらしく、それぞれに合わせたソファも設置されている。


「うぅむ、流石のサービスだなぁ」


 決して安くはない宿泊料金だったが、それだけの価値はあったと納得出来るサービスとなっていて、そんな声を上げながらハクトが席につくと、まさかここまでとはと驚いていたユウカやグリ子さん達もそれに続く。


 するとそれを見計らったかのように、本日の献立が書かれた丁寧に折りたたまれた和紙が届く。


 それを皆で確認していると、一目見ただけではどんな材料が使われているか分からないくらいに手間暇をかけた料理が届き……一同は初めて口にする味に驚きながらも食事を楽しんでいく。


 肉も魚も、野菜も果物も、全ての食材に洗練された調理が行われていて、ただただ美味しいとしか言えない……言えないが、グリ子さんは少しだけ不満げだった。


 美味しいは美味しい、見た目も美しい……しかしどうにも自分の好みではない。


 普段商店街の惣菜を楽しんでいるグリ子さんとしては、もう少し雑でも良いというか、大雑把な味があっても良く、手間暇をかけていない素材丸出しの味があっても良かった。


 元の素材が分からなくなるくらいの調理となると、その技術も味も認めるところではあるが、好みではなかった。


「大丈夫、明日からは存分に楽しめるよ」


 表情から読み取ったのか、ハクトがそう声をかけるとグリ子さんは嬉しそうに頷いて……それ以上は不満を表に出さずに、素直に食事を楽しみ……綺麗に食べ上げたなら小休憩をしてから部屋に戻る。


 歯やクチバシを磨いたなら今日の活動は終了、運転の疲れを取るため、明日に備えるため早めの就寝となる。


 ……そして翌朝。


 目覚めたなら顔を洗い歯を磨き、身支度を整え手荷物を用意し、しっかりと出かける準備をしてから、玄関に向かう。


 そこで連絡をしてもらいタクシーを呼び、古都へと向かって出かけていく。


 自分達の車で向かっても良かったのだが、古都の店は駐車場がない所も多く、多少のお金を払ってでもタクシーで向かった方が身軽とハクトは考えていた。


 ユウカは宿泊料金と言い、結構なお金の使い方だなと驚いていたが……あのハクトがすることなら大丈夫なのだろうと信頼し、何も言わなかった。


 そうしてタクシーが向かった先は……なんともクセの強い店名の喫茶店だった。


 前々からハクトが行きたいと考えていたらしい喫茶店、コーヒーはもちろん、食事も抜群に美味しいと話題のそこの店名は……『最高に濃いコーヒーこそが至高の朝食』。


 クセが強いと言うか、店名とは? との疑問を投げかけたくなるその店は、そんな店名が書かれた黄色いビニール看板がある以外は普通の民家……長屋のように見える建物で、  


 そんな建物を見てハクトは、一体どんな朝食を……コーヒーを楽しめるのかとソワソワとし始める。


 以前学院の教師から聞いた、面白い喫茶店……その名前に恥じないコーヒーを出してくれるらしいというその店を前にしてハクトは普段見せないような表情を見せてくる。


 そこまでコーヒー好きという訳ではないのだけど、それでもこの店名は気になってしまう。


 事前に電話をし、幻獣を連れていっても良いとの許可も得ているので遠慮なく足を進めて……鈴を下げたドアを開けて中に入ると、70歳か80歳か、割烹着姿の女性がハクト達を出迎えてくれる。


「ああ、いらっしゃいまし……まぁまぁ可愛らしい幻獣を連れておいでで。

 奥のお座敷が空いてますので、そちらにどうぞ。

 朝食セットでよろしいですか?」


「はい、願いします」


 注文はそれで完了、案内された通り奥の座敷に向かい……鉄板焼でもしているのか、大きな鉄板つきのテーブルを囲う形の席へと順番に腰を下ろしていく。


 一番奥の広く余裕のある席はグリ子さん。


 その左右にフェーとフォス、更にその左右にハクトとユウカという形で席につき、グリ子さん達が座りやすいようにとクッションの位置などの調整をしていると、早速コーヒーが届く。


「おっきい幻獣さんはこのスープ皿ね、小さな幻獣さんはカフェインレスにしておきましたからね。

 こちらのミルクは新鮮な牛乳ですから、使わなくても飲みきっちゃってくださいね、砂糖はお好きにしてくださいね」


 そう言いながらスープ皿とカップを置いてから老婆は去っていき……早速コーヒーを飲もうとしたハクト達は、それを見て驚く。


 ドロッとしている、半固体化している。


 驚きながら室内の壁に張ってあった説明を読んでみると、良い豆を信じられない量使い、じっくり……何日もかけて抽出すると、こういったコーヒーになるそうだ。


 普通の店であればなんだこれはとクレームが来そうな仕上がりとなっていたが、この店ではこれが普通なのだろう……驚くやら困惑するやら、とりあえず飲んでみるかと口をつけてみると、更に驚かされることになる。


 思っていた程苦くない、酸味もそれなり、つまり飲みやすい……しかししっかり濃い。


 エスプレッソに近い味になっているのだが、確実にエスプレッソよりは飲みやすく美味しく……飲み終えた後には、口も喉もすっきりとして爽やかなコーヒーの香りが充満する。


 美味しい、たまらなく美味しい、まさかコーヒーだけでここまで楽しませてくれるとは、誰にとっても予想外だった。


「いやぁ、これは美味しいですねぇ!」


 カウンター席だろうか、他の客の声も聞こえてくる。


 先ほど通った時には誰もいなかったから、ハクト達の後に入店してきた客なのだろう。


 どこか聞き覚えのある声と言うか、どう聞いてもブキャナンの声だったが、ハクト達は深く考えないことにし、目の前のコーヒーをじっくりと楽しんでいく。


 そうこうしているとトーストにハムエッグにサラダにフルーツヨーグルトという朝食が届き……丁寧に作られているのだろう、ハクト達はしっかりと美味しいそれらと一緒に、おかわりまでしてこの店のコーヒーを楽しむのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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