特に何もない日常の一幕
トラブルに巻き込まれてしまった休日から一夜明け、翌日の夕刻。
仕事を終えたハクトが帰宅すると、ハクトの家の玄関前に満面の笑みのユウカの姿がある。
その笑みは嬉しさも含んでいるようだが何よりも自信に満ちたものとなっていて……それを見たハクトは「なるほど」と呟いて小さく頷く。
「クキュン?」
そんなハクト達の様子を見て、事情をよく理解できていないグリ子さんが疑問の声を上げると、玄関の前に立っていたユウカが駆け出し、グリ子さんの体へと飛びつく。
「グリ子さーん、おかげで試験、良い結果になったよー!
満点とはいかなかったけど、それでも上位に入れちゃったよー!
グリ子さんと先輩のおかげだよー! ありがとーう!!」
ユウカがそう言うとグリ子さんは目を細めながら「クキュン!」と返し、ユウカの抱擁を受け止める。
受け止めて小さな羽をパタパタとさせ、自らも抱擁し返しているようなポーズを取り……そんな光景をハクトが微笑ましく思っていると、ユウカはハクトに向けて「ありがとうございます!」と、そう言って微笑む。
「なに、全ては風切君が努力をした結果だろう。俺はその手伝いをしたに過ぎないよ。
……今日はその報告だけかな? それとも少し寄っていくかい?」
そんな微笑みに対しハクトがそう返すと……ユウカは少しだけ悩んでからグリ子さんの柔らかい体毛の感触を全身で味わい……もう少しだけこの柔らかさと温かさを味わいたいからと「お邪魔します!」とそう言って大きく頷く。
それからハクトは玄関から帰宅し、手洗いうがい着替えやスーパーで買ってきたものの片付けなどを始め……グリ子さんは庭へと向かい、足をそれ用のマットで綺麗に拭いたり、羽毛についたちょっとしたゴミをふるい落としたりしてから、窓からの帰宅をする。
そうやってハクトとグリ子さんがいつもの日常を送る中、ユウカはリビングのソファに座ってニコニコとその様子をただ見守る。
そうしていると大方の片付けを終えたハクトがお茶を淹れてリビングへと持ってきてくれて……あつあつの緑茶が入った湯のみ茶碗を受け取ったユウカはお礼をいってからそれに口をつける。
もちろんグリ子さんの分のお茶も用意されていて……大きな茶碗、抹茶碗がことりと床に置いたおぼんの上に用意され……グリ子さんは笑顔でそこにクチバシをつけてこくこくと吸い飲んでいく。
「……ところで風切君、普段ならこの時間は道場に行っていなかったか?」
ユウカとグリ子さんにお茶を出し……自らはリビングのテーブルの席へとついたハクトが、お茶を飲みながらそう声をかけると、ユウカはこくりと口の中のお茶を飲み干してから言葉を返す。
「今日はまだテスト期間ということで、道場はお休みっていうか……やってはいるんですけど、行くと帰れって言われちゃうんですよ。
今までならここまで点数良くなくて、図書館でどこがどう間違ってたのかっていう答案の見直しをしてましたから……。
今回は間違いも少なかったですし、既にどうして間違えちゃったかも分かっているので、そうする必要が無い感じで……時間が余っちゃったんですよね」
「ああ、なるほど、そういうことか。
……まぁ、たまにはそういった暇な時間があっても良いのかもしれないな」
「はい!
……というか、先輩のほうこそその後はどうなんですか? ほら、あの変質者の件……」
「ああ、あれか。あれについては問題ないよ。
然るべき所には連絡したし……その後これといってアクションもない。
……数日は様子を見る必要があるかもしれないが……まぁ、問題は無いだろう」
と、ハクトとユウカがそんな会話をしている中……お茶を綺麗に飲み干したグリ子さんがふいに顔を上げ、何処かへと視線をやる。
視線をやり何かを感じ取ったような表情をし……やれやれと、小さなため息を吐く。
この時はまだハクトの父親がハクトのことを諦め切れていない頃で、グリ子さんの力の因果関係に気付いていないころで……何かをしようとし、グリ子さんの力が発動し、そうして父親が何らかの罰を受けることになっていたのだが……ハクトもユウカもまさかそんなことになっているとは思いもよらず、ただただ楽しく平和な時を過ごしていく。
そうしてころころと話題が転換し、言葉が尽きることなく会話が続き……グリ子さんが微笑ましい思いでそんな二人のことを見守っていると、話題が幻獣について……グリ子さんについてになっていく。
「そう言えば以前、グリ子さんのことを調べたが、結局は結論が出ないというか、体の構造もよく分からないままだったな。
まぁ、バロメッツの件もあるから幻獣のことを科学的、あるいは理屈的に考えても仕方ないのかもしれないが……なんとも不思議な話だ」
「へぇー……調べたって、どう調べたんですか?」
「ん? ベッドに横になってもらって、グリ子さんの体……というか、羽毛の中を触らせてもらったんだよ」
ユウカの質問にハクトがそう返すと、ユウカはキラリとその目を輝かせる。
そうして目を輝かせたまま……グリ子さんのことを撫で回したいという欲望をみなぎらせたまま、グリ子さんの方へと視線を移動させる。
するとグリ子さんは、ユウカの視線を受け止めながらいつも抱きついているのに? と、そんなことを考えながら首、というか体全体を傾げ……そうしてから、まぁユウカなら構わないかと、そんな表情をしてからグリ子さん用のベッドの上にころんと寝転がる。
そうして肉球のついた前足を投げ出して、ゆったりとグリ子さんが寛いでいると……その姿に魅了されてしまったユウカが、もの凄い勢いでグリ子さんへと飛びつき……わしわしとその体を撫で始める。
「おお……もふもふだ、改めて撫でるととってももふもふだ。
特に奥の、皮膚? に近い辺りがもふもふ度が高いんですねー……温かいし柔らかいし、干したての高級羽毛布団みたいな感じー」
なんてことを言いながらユウカはグリ子さんの体を撫でていって……その体を、幻獣のことを調べるという名目を忘れて、その毛の柔らかさを堪能し続ける。
ユウカがそうする中、ハクトは邪魔をしないようにと無言で立ち上がり……台所へと向かい、夕食の準備をし始める。
買ってきた野菜を洗い、切り分け、鍋の中に放り込み……大雑把な味付けをして、切り分けた肉を放り込んで。
ハクトがそうする中ユウカは、ただ撫でるだけでは飽き足らず、ベッドの上に上がり、グリ子さんの横に寝転がり、寝転がったまま抱きつき始めてしまって……そうしてグリ子さんが、小さく困惑する中、すーすーと寝息を立て始めてしまうのだった。
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