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中毒


 普段ハクトが台所で家事をしている際、グリ子さんは邪魔にならないようリビングで体を休めている。


 この家の台所は中々広く、グリ子さんがやってきても問題はないのだが、それでも狭くなるのは事実で……グリ子さんが台所にやってくるのは、タコなどの好物を扱っている時だけだ。


 そんなグリ子さんが梅干しを食べた日以来、ちょくちょく台所にやってくるようになっていて……やってきてはクンクンと鼻を鳴らし、梅干しがどこにあるのか探しているようだった。


「1日2個までだよ」


 早速やってきたグリ子さんに、洗い物をしていたハクトがそう釘を刺すとグリ子さんは、クチバシをツンと突き上げ、拗ねたような表情をする。


「……というか貰い物の梅干しなんだから、そんなペースで食べていたらあっという間になくなっちゃうよ?

 このままだと一週間もたないんじゃない?」


 更にハクトがそう続けるとグリ子さんはショックを受けた顔をし、ショックのあまりに体を縦長に伸ばし……羽毛を逆立たせながら周囲をウロウロとし始める。


 落ち着かず、ウロウロウロウロ動き回り、すっかりと梅干し中毒になってしまっているようだった。


 それを受けてハクトは小さなため息を吐き出し……洗い物を終えてから、かけてあったタオルで手の水気を拭ってからグリ子さんへと向き直り、言葉をかける。


「梅干しなら市販のものもあるけど、市販のものだと手作りには勝てない味になるね。

 どうしても手作りが良いなら自分達で作るって手もあるけど……梅干しは季節限定な上に手間がかかって、失敗するとすぐカビるから大変だよ。

 ……そうなると手作りのものを売っている特産物の直売所みたいなとこに行く必要があるかな、そこならその土地の人達の手作りが手に入ったりするね」


「キュン!?」


 まさかの言葉、まさかの救世主。


 そんな場所があったなんて……と、驚いたグリ子さんはリビングへとチャッチャカ駆けていき……そしてすぐに小さな冊子のようなものを咥えて戻ってくる。


 それはハクトがグリ子さんのためにと作ってあげた口座の通帳だった。


 そこには今回のような仕事での報酬がしっかりと山分けにされた形で入金されていて……器用に最新記録のページを開いてみせたグリ子さんは、それをハクトに見せつけ、このお金で買ってくれとせがんでくる。


「いや、まぁ、うん、確かに安いものではないけど、食費の範囲でなんとかなるし、貯金を引っ張りだすようなことじゃないよ。

 問題はちょっと遠くにあるってことで……幻獣が乗れるバスでどう行ったら良いかを調べたら、それで行こうか」


 と、ハクトがそう言うとグリ子さんは、通帳をリビングへと持っていき……そして今度はチラシを咥えて戻ってくる。

 

 そのチラシは近所のタクシー会社のもので……料金やサービスを紹介しているもので、その中の幻獣用タクシーという部分をハクトにずいっと見せつけてくる。


「ま、まさかタクシーで行けと?

 いやまぁ、それなら確かに楽だけどお金が……って、そこはグリ子さんの貯金でなんとかする気なのか。

 ……よし、分かったよ、じゃぁ明日行こうか、ちょうど祝日だし。

 ……ただし、たくさん買ったとしても1日2個までってルールは変わらないからそのつもりで。

 それとフォスにもしっかり話をしておいてね……フォスにも何か欲しいものを買ってあげないとだし」


 と、ハクトが返すとグリ子さんは、その目をキラッキラに輝かせてからフォスが待っているリビングへと物凄い勢いで駆けていく。


 そしてクッキュンクッキュンと声を上げたなら、庭へと飛び出し、庭から家の外へと駆け出し……隣家であるユウカの家にまで突撃してしまう。


 そこに住まうフェーに知らせるためだったのか、ユウカを誘おうと思ったのか……グリ子さんの意図がどちらだったのかは謎だったが、結果としてユウカとフェーに何かがあったらしいということは伝わったようで……すぐにユウカとフェーとグリ子さんが、家事を終えてエプロンを脱いで、リビングでの休憩の準備を始めたハクトの元へと駆けてくる。


「クッキュン!」


「先輩、何かあったんですか!!」


「わふ~」


 そしてグリ子さん、ユウカ、フェーの順にそんな声を上げてきて……ハクトはソファに腰かけながら言葉を返す。


「明日、山の方の特産物の売店に行こうかと考えていてね……グリ子さんは皆で行きたいみたいなんだ。

 俺達の目的は手作り梅干しだけど、風切君達も何か買いたいものがあれば一緒に来ると良いよ」


「え? 梅干し?? そのために山に??

 いやまぁ、こっちは全然OKっていうか、お買い物嬉しいですけども……えっと、山の方だとバスですか?」


「いや、幻獣用タクシーを頼むつもりだよ……チラシを見たところ、皆で一緒に乗れるみたいだから、それで売店までいって、買い物終わるまで待ってもらって、またタクシーで帰ってくるって感じかな。

 ここから山までとなれば結構な金額になるはずだから、問題なく待ってもらえるはず……だけど、これから電話でその辺りの確認をするから、詳しい時間とかはそれから決めようか」


「おっけーです! まぁ私は明日暇なんで時間は先輩にお任せしますよ」


 との言葉を受けて、ハクトは早速とばかりに電話の下に向かう。


 するとグリ子さんも後を追いかけてきて……グリ子さんが行くならとフォスとフェーも追いかけて、一人残され寂しいユウカも追いかけていく。


 そうしてハクトがタクシー会社に電話した結果は、問題なくOK……やはりかなりの距離があり、相応の金額となることが良かったようで、相手側は常時ご機嫌の対応となっていた。


「―――じゃぁ明日10時で、はい、お願いします……はい、失礼します」


 との言葉で通話が終わり、受話器が置かれるとグリ子さんの目の輝きが最高潮に達し……そして明日が楽しみ楽しみとソワソワし始める。


 それを見てハクトは、明日の10時はまだまだ先……23時間くらい後の話になるのだけどと、そんなことを思うが、グリ子さんをがっかりさせないために何も言わず静かに見守る。


 そしてハクトと同じことに気付いているはずのユウカは、そんなことよりも目を輝かせてソワソワするグリ子さんが可愛くて仕方ないみたいで……あれこれと細かいことを気にせずにグリ子さんに抱きついてのもこもこタイムを堪能するのだった。




お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
しあわせそうなグリ子さんがかわいい! こうしたほのぼの回が大好きです(^_^)
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