消化機能
「クッキューン!」
まずそんな声を上げたグリ子さんが仕掛ける。
魔力を練り上げ、練り上げた魔力で羽毛を膨らませ……羽毛を追いかけるように体が膨らみ、巨大化していく。
「あ、あんなこと出来たんだ……」
誰あろう召喚主であるハクトが、そんな声を上げて驚く中、グリ子さんはぐんぐんと大きくなり、パーティ会場の天井を押し上げる程の大きさとなり……そしてワラスボ宇宙人をパクリとクチバシで食み、ヒョイッと持ち上げて、モグモグと咀嚼し始める。
「食べた!?」
観戦モードとなったユウカがそんな悲鳴を上げる中、グリ子さんはモグモグと咀嚼し続け……そんなグリ子さんの足元でフェーとフォスは、魔力を練り上げながら何かを待っているようだ。
いつでもその時が来ても良いように、いつでも仕掛けられるように、左右にステップを刻んだりしながら魔力を練り上げ続け……そして咀嚼し続けていたグリ子さんが、ペッとワラスボ宇宙人を吐き出す。
咀嚼され、唾液まみれにされて、床に倒れ伏して心なしかぐったりしているように見える宇宙人は、未だにその体にブキャナンの羽をまとわりつかせていて、そのためか動きが鈍く、立ち上がって動き出そうとするも時間がかかってしまう。
そしてそんな隙を逃すまいとフェーとフォスが同時に、丸まってまんまるの状態となり、魔力で全身を覆った上での体当たりを放ち……ワラスボ宇宙人はその直撃を受けることになる。
が、やはり効いていない、攻撃されたことを意に介さず立ち上がろうとしている。
そんなワラスボ宇宙人に体当たりを決めたフェーとフォスは、反動で吹き飛ぶことになり……パーティ会場の壁に当たって反射されたかのように吹き飛び、またもワラスボ宇宙人に体当たりを直撃させる。
そしてまた吹き飛ばされ……まるでピンボールのように会場内を飛び回るフェーとフォス。
そうやって次々に体当たりを仕掛ける中、ワラスボ宇宙人の体表といったら良いのか、元来のぬめりとグリ子さんの唾液で湿っていたそれが、ゆっくりと溶け始める。
まさかグリ子さんの唾液にそんな力が!? と、驚くユウカと戸田だったが、ハクトとブキャナンはすぐに何が起きているのか、その真相に気付き……ハクトが代表する形で声を上げる。
「どうやらアレは相手の体表を直接溶かしている訳ではないようだ。
体表ではなくアレが持つ魔力……その全身を覆い、構築している魔力を溶かす、というか無力化しているらしい。
おそらくは胃液に近い何かを塗布したのだろう……魔力を有する魔物なんかを捕食する幻獣には、そういった力も必要になるのだろうな。
でなければ胃袋の中で魔法を使われたり魔力で消化妨害をされたりと、厄介なことになりかねない。
どんな方法で攻撃を防いでいるかは分からないが、とにかく魔力を消してしまえばなんとかなると考えているのだろう……そしてフェーとフォスがその謎液を拭う暇もなく連続攻撃を仕掛ける、と。
絶え間ない連続攻撃のおかげで効果が現れた瞬間にそれが分かるというのもありがたい……これでチャンスを見逃さずに済む」
「はぁー……なるほど。
幻獣特有の消化機能でなんとかしようとしている訳ですか……。
うぅん……アレをやられたら私でも打つ手なしって感じだなぁ……魔力を溶かされちゃうのは困っちゃいますね」
ハクトの説明にそう返したユウカは、とにもかくにもグリ子さん達がチャンスを作り出そうとしているんだからと、拳を腰だめに構えていつでも正拳突きを放てるようにと準備をする。
それに続く形で戸田もブキャナンも構えて……ハクトは魔力を温存するため、あえて何もせずにゆるりと構える。
そんな中もフェーとフォスはピンボール攻撃を繰り出し続け……そして巨大化したままのグリ子さんはまたいつでもワラスボ宇宙人を咥えられるように構え続け……そしてワラスボ宇宙人は、そんな中でもゆっくりと着実に立ち上がっていて……そしてまたも棒立ちになり、そして巨大グリ子さんの方へと鋭い歯がびっしりと生えた口を向ける。
ワラスボ宇宙人の顔に目はない、鼻もなく耳もなく、のっぺりとした肌? 甲殻? があるだけだ。
口を向けるというその行為にどんな意図があるのかは分からないが……恐らくは睨みつけるだとか、狙いをつけるだとか、そんな意味があるのだろうとハクトは察する。
宣戦布告に近い行為、威嚇行動なのかもしれない。
しかしグリ子さんも負けておらず、大きくクチバシを開いての威嚇をし、クッキュェクッキュェと声を上げ、また咀嚼されたいかとの脅しをかける。
ブキャナンによる鈍重化、グリ子さんによる魔力消化、そして溶けていった甲殻が黒さを失い、灰色となった所で、
「わふーー!!」
との声を上げたフェーの体当たりが灰色となった部分にぶつかり、ゴゥンという今までとは全く違った轟音が周囲に響き渡る。
そしてよろけるワラスボ宇宙人、よく見てみると甲殻にヒビが入っていて……ついに謎の無敵化が解除されたようだ。
「せぇい!!」
「はっ!!」
直後、ユウカと戸田がそう声を上げて攻撃を放つ。
「プッキュン!」
フォスも負けておらず体当たりを直撃させる。
ハクトは様子見、ブキャナンは羽の拘束を維持、そしてワラスボ宇宙人はただ良いように攻撃され続けて……いたかと思った直後、ヒビ割れの奥から体液を噴出させる。
それは一見した限りではただのダメージの結果、ワラスボ宇宙人の悲鳴のようにも見えたが、妙に嫌な予感が走ったハクトが糸を操り、簡単な布を作って体液を受け止める。
ブキャナンも同様に羽を操り、グリ子さんもまた羽毛を放って体液を受け止め……直後、ハクトの布、ブキャナンの羽、グリ子さんの羽毛がジュゥゥゥッと音を立てて溶けてしまう。
「ろくでもないな!!」
すかさずハクトが糸を操り、溶け始めたそれらを一箇所に集める。
集めて放り投げて、それから改めて糸を展開して次の噴出に備え……そしてグリ子さんが、
「クッキュン!」
と、指示を出したことでフェーとフォスが体当たりを止める。
酸なのかあるいはグリ子さんのものに似た魔力消化液なのか、何かは分からないがとにかく触れるのは良くないと、そう判断してのことで、それを受けてユウカが距離を取る中、戸田はあえて距離を取らずにまたも攻撃を仕掛ける。
「クッキュン!?」
それを咎めるグリ子さん、だけども戸田は体液まみれの篭手を見せてきて、全く溶けていないことを示してくる。
ハクトの糸は金羊毛羊の糸で、ブキャナンもグリ子さんも幻獣で、そこからワラスボ宇宙人の体液は幻獣関連のものを溶かすのだろうということが察せられる。
「風切君!」
ならばとハクトがそう声を上げた瞬間、距離を取っていたユウカが一気に踏み込み、全力での拳をワラスボ宇宙人に叩き込み……そうして渾身の一撃がワラスボ宇宙人の胴体に炸裂するのだった。
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