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ワラスボ


 件の大怪獣もどきが仮封印されているのは、パッと見はマンションのようにも見える建物の地下だった。


 その建物の周囲には規制線が貼られ、かなりの数の警察官の姿があり……駐車場の入口は複数の警察車両でしっかりと封鎖されていて、不法に侵入することはまず不可能だろう。


 そんな物々しい光景に釣られてなのか、何人かのマスコミ関係者の姿もあるが、無理に中に入ろうとか中の様子を盗撮しようとか、役所の幻獣用バスで中へと進むハクト達の邪魔をしようという気配は一切なく、邪魔してはいけない状況だと察しているらしいことが分かる。


 バスが駐車場入口に到着すると、すぐに警察官が駆け寄ってきて、運転手である課長さんが対応するとすぐに許可が下り……封鎖が一時解除され、地下に進むよう促され、スロープのようになっている地下への道を進み、先ほどよりも物々しい警備となっている地下駐車場に入ったなら、バスを降りて待ってくれていたらしいサクラ先生の下に向かう。


 先頭は戸田、続いてブキャナン、グリ子さんとフォスを連れたハクト、フェーを連れたユウカ、更には戸田が用意した人員3名が後に続く。


 戸田が先頭を進んでいるのはハクトの意向だった。


 責任は一番年上の偉い人が取るべきということで、戸田に押し付ける形となり、戸田がそれをノリノリで受け入れたことでこの形となった。


「責任は上に押し付けるもの、個人が背負うものではなく組織で負担するものです。

 矢縫君が立派な社会人として成長していること、とても嬉しく思います」


 という戸田の発言にユウカは目を丸くしたが、ハクトは特に驚いた様子もなく、後に合流したブキャナンも何も言わずに受け入れていたので、ユウカもまた何も言わずに、その言葉を受け入れることにしていた。


(一番年上で一番偉いのは、ブキャナンさんじゃ?)


 なんて疑問がユウカの中で渦巻いていたのだが、それでもユウカは何も言わず、これで私も社会人なのかな? と、そう考えることで納得することにしていた。


「お久しぶりです、まさか貴方がいらっしゃるとは……ハクトちゃんの成長には驚かされるばかりです」


 胸を張り堂々と、旧時代の貴族を思わせる足取りで歩く戸田に、サクラ先生がそんな声をかける。


「こちらとしても意外ではありましたが、これも貴女の教育のおかげなのでしょうねぇ。

 ……お久しぶりです」


 それに戸田は満面の笑みで応える。


 それからユウカが挨拶をし、ハクトとブキャナンが続き……グリ子さん達も元気な挨拶をし、簡単な書類での手続きを経てから、一行は駐車場の奥にある、大きな両開きの鉄扉の先……滅菌室を通った先にある厳重なセキュリティの施された大扉の前に立つ。


 そこには軍隊を思わせる重武装の男女が数名待機していて、更には何が入っているのか、軍用のコンテナなどが並んでいて……扉の側には、素人目に見ても爆弾だと分かる、コードにまみれた機械までが置かれている。


 そういった現代的な兵器の他にも、呪具と思われるようなものがあったり、いかにも祈祷師でございますといった人物の姿もあったりして、それらが封印を担当しているだろうことは、封印などに疎いユウカにもすぐに分かった。


「……準備はよろしいですか?」


 扉の前に立つ軍人と思わしき男性がそう言って、それぞれしっかりと頷く。


 ハクトは狩衣姿で、ユウカは戦闘用スーツ、ブキャナンはいつもの格好で、幻獣達はいつもと変わりなく……戸田達は機動隊員が使っている装備で全身を覆っている。


 更に戸田達は警棒や盾、恐らく銃なども持っているようで不自然に懐を膨らませていて……その手は特殊な篭手で覆われていた。


 肉弾戦闘用に開発されたというそれは、凄まじい強度と対魔力抵抗でもって防具としても使えるのだが、武器として使うことも出来る代物で……ユウカもそれを一組借りて両手に装備している。


 果たしてユウカの攻撃力についていけるのか、内側からの……ユウカの拳から放たれる衝撃に耐えられるかは、なんとも言えなかったが、無いよりはマシだろうということでの採用だった。


 スーツ姿に黒色金属で作られた篭手というのはなかなか不釣り合いだったが、ユウカとしてはその頼もしさを気に入っていて……一時封印が解かれ、大扉が開けられる間、その篭手をガシガシとぶつけ合って気持ちを高めていく。


 大扉が開けられるとその向こうには何重かの結界があり、それらが解除されるとようやく大扉の向こうの光景が視界に入り込み……どうやらそこは何らかのパーティ会場であったらしい。


 幕のある大きなステージが最奥にあり、天井にはシャンデリアを思わせる照明、壁のそこかしこには大きなスピーカーが備え付けられていて……床には絨毯。


 一体全体、件の実験をしていた団体は何を考えていたのか? 地下にこんなものを作って何をするつもりだったのか? そんな疑問が一同の頭の中に浮かんでくるが、パーティ会場の中央で蠢く何かを見た瞬間、疑問はすぐに雲散霧消する。


 人型ではある、黒く蠢きながらも人に近い形をしていて……ニュース映像などで見た大怪獣とは似ても似つかない姿をしている。


「……ワラスボ宇宙人だ!」


 そして上がるユウカの声、それを受けてブキャナンを含めた一同が苦い顔をする。


 それは数年前に公開された映画のタイトルであり、映画に登場する宇宙人の名前でもあった。


 宇宙から地球へと飛来したそれは、次々に人を食べて殺害していくが、ワラスボと似た生態から弱点を看破され、最終的に食用家畜となって唐揚げになってしまうという悲しきモンスターで……確かに目の前のそれは、CMなどで見かけた姿に良く似ていた。


 大怪獣が一体どうしてあんな姿になってしまったのか……攻撃や封印を受けた影響なのか、それとも生み出された時からああなのか……。


「アレを唐揚げは嫌でございますねぇ」


 ユウカの言葉に乗ってしまったブキャナンがそう声を上げ……大きなため息を吐き出したハクトが糸を展開し始め、グリ子さん達は毛を逆立たせながら臨戦態勢となり……戸田達がそんな一同の前に出る。


 装備はしっかりしていると言え、戦闘力で言えばそこまでではないのだが、それでも責任者だからと戸田が先陣を切る形となり……そうやってハクト達がパーティ会場に入ると、結界が再構築され大扉が閉められ、再びの封印処理が行われる。


 するとそれを合図にして黒い何か……暫定名ワラスボ宇宙人が動きだし、そうして強敵? との戦いが開始となるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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ワラスボはやだなぁ(^_^;
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