大怪獣
ユウカとフェーの鍛錬は、油断せず手加減しないユウカの勝利で終わった。
……が、フェーも十分過ぎる程に奮戦し、意外な才能を見せてくれたこともあって、罰はなしという形に落ち着いた。
そうして皆でリビングへと移動し、ハクトが茶と菓子を用意しての休憩をすることになり……なんとなしにテレビの電源を入れて流れる番組を見やっていると、幻獣特集が始まり、最強の幻獣はどの幻獣か? という話題の中で、かつてこちらの世界に突然現れ破壊の限りを尽くした幻獣……大怪獣と呼ばれるそれの特集が始まる。
「あ、また出ましたね。
こういう話題になると絶対出てきますけど……いや、本当に大変だったんですねぇ」
それを見てソファに腰掛け、膝の上でぐったりとしているフェーを撫でていたユウカが声を上げる。
ビルの並ぶ街のど真ん中に突如召喚されたそれは、ビルに負けない程の体躯をしていて、そして凄まじいまでの魔力を内包していた。
召喚された直後の一声……大怪獣の咆哮は、ビルというビルの窓を割り、多くの人や幻獣を恐慌状態に陥らせ、そして……、
「いきなりの破壊魔法。
この一発で周囲のビルが破壊され、多くの被害が出て……でもたまたま居合わせた方々が防いだから、なんとかその程度で済んだんですよね。
防いでいなかったらどれだけの被害が出ていたか分からないって学院で習いました」
続くユウカの声にハクトは頷き、言葉を返す。
「四聖獣の方々がたまたま居合わせた……とのことだけど、本当のところはどうだろうね。
これだけの事故だ、それ相応の原因があるはずで……その原因に対処するため集まっていたというのも有り得そうだ。
そして玄武がその全ての力を使い切っても尚、これだけの被害が出たという訳だね」
大怪獣の出現はなんらかの召喚事故が原因とされている。
……が、その事故が起こった現場は、大怪獣に踏み潰された上に破壊魔法の直撃を受けていて、一体何が起こったのかを示す証拠どころか、そこに存在した物の全てが消し飛んでいた。
当然事故に関わったであろう人物達も消し飛んでしまっていて……調査のしようがなく、何があったのか推測することすら不可能で、何もかもが謎というのが後に結成された、数百人規模の調査委員会が出した結論だった。
「それでえっと……結局四聖獣の方々が倒したんですか? これ?
なんかいつも倒すシーンだけはテレビでやらないんですよねぇ」
そうユウカが問いかけると椅子に腰掛けていたハクトは、足元にすり寄ってきたグリ子さんを撫でながら言葉を返す。
「四聖獣が奮戦したが敵わず、大僧正を始めとした神話級の幻獣が駆けつけてどうにか大怪獣を押さえつけ、最後には神々が現れ駆逐した……らしい。
その後神々が原因の調査をしたらしいとか、その結果呪殺が関わっていたらしいとか、色々と噂は聞こえてきたけども、真実は謎のままだねぇ。
まぁ、神々でなければ倒せない相手だったろうし、規模からして呪殺でもなければ起きない事故だろうし、答えは明らかだけども……何しろ神々が関わっていることだからね、迂闊なことを大っぴらに口にする訳にもいかないのさ。
下手をすれば神々の怒りを買っての天罰なんてことになるかもしれないからね」
「ああ~~……テレビもうちの両親も、あの怪獣について詳しく言わないのは神様が関わってるからですか。
そーなるとたしかに迂闊なことはできませんねぇ……。
でもそんな風に情報伏せたままだと、同じような事故が起きた際に困りません?
しっかり情報共有しておかないと対策が上手くいかないっていうかー……次も神様が助けてくれるとは限らない訳ですし」
「流石に四聖獣や政府の中では情報共有や研究がされているとは思うけどね……。
それに次回の事故に備えての対策だって進めているはずで……あの時助けてくれただろう神様への感謝の気持ちも、毎年お祭りって形で示しているからね。
次があっても問題はないはずさ」
「あ、あ~~~! そう言えばお祭りってそういう意味もあったんでしたね。
なんかいつも深く考えずに楽しんじゃってました。
そっかー……特に大きな神社ではすっごい変なことしたり、山程のお供えしてたりしてるけど、あの大怪獣やっつけてくれたお礼なら当然ですよね。
私も次からはちゃんと神様に感謝するようにしないとなぁ」
「それが良い。
大僧正もきっと活躍したはずだから、感謝の気持ちを伝えておくと良いよ。
もしまたそういった事態が起きたなら、グリ子さんやフォス、フェーにだって頼ることになるんだから、そのことも忘れないように。
ああいった大災害は人間だけの力で解決出来るようなものではないからね」
「はーい!」
と、そう言ってユウカは撫でてやっていたフェーを抱きかかえ、その羽毛の中に顔を突っ込み、もふもふもふとその柔らかさと香りを堪能する。
それは幻獣によっては嫌がられる行為であったが、フェーの顔を見るにまんざらではないようで……グリ子さんとついでに近寄ってきていたフォスは、ハクトにもそれを期待するかのような目でもってハクトを見上げる。
するとハクトは怯み、冷や汗をかいて首を左右に振り、あれはいくらなんでも……と、表情でもって抗議するが、グリ子さん達はふんすふんすと鼻息荒く受け入れない。
それを受けて仕方なくハクトは、ため息交じりに立ち上がり……そうしてグリ子さんとフォスを両手で抱えるようにして抱きしめ、顔を埋める。
するとグリ子さんはご満悦な表情となり、フォスは嬉しそうにはしゃいで足をじたばたとさせ……それからしばらくの間、幻獣との交流タイムが続くことになる。
ハクトもユウカもしっかりと幻獣と触れ合い、絆を確かめ合い、そして感謝の想いをたっぷりと伝える
そうやってハクト達がもふもふな時間を過ごしていると庭に何者かの気配が降り立ち……そうしてその気配の主がリビングへとやってくる。
「ハクトさん、こんにち……!?」
その声はブキャナンのもので、全く予想もしていなかった光景を目にしたブキャナンは、しばらくそのまま硬直することになるのだった。
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