神々
それからしばらくの間、ハクト達はサクラ先生の下へと通う日々を送ることになった。
仕事を終えたら、暇な時間を見つけては、ちょくちょく足を運び、タケル達の様子を見ながら自分達を鍛え直す。
あのブキャナンがわざわざ神妙に協力を願い出てくる程のことだ、これから起きるのは尋常ではない事件のはずで、それに備えてのことだった。
そうやって時が流れて……数日後。
ブキャナンに呼び出され、ハクト達がブキャナンのお堂へと向かうと、人化を解き、完全なる天狗の姿となったブキャナンが出迎えてくれて……中に案内し、茶と茶菓子を出してから座布団の上に座り、ついでに神妙な態度と空気も出してきてから、声を上げる。
「色々と調べた結果、やらかそうとしている連中の狙いがはっきりしやした。
連中は神々を召喚しようとしていやす」
「……神々ですか? 神話級の幻獣ではなく?」
するとハクトが問いを返し、ブキャナンは力強く頷き、話を続ける。
「神々がいた時代、神話の時代の幻獣のような強さを持つ幻獣を、神話級と呼ぶことがありやす。
神話時代からいたならどんな幻獣でも神話級……という訳ではなく、それくらいに強力な力を持った幻獣であるという意味でございやす。
神話の時代から存在してはいるものの、そこまで力を持っていない幻獣は神話時代幻獣と呼ばれ、神話級とは区別されておりやす。
そんな神話級は幻獣の強さを示す言葉としては最高位の言葉となっておりやすが……神話級と神々の強さにどれくらいの差があるかと言うと……まるで別次元、比較にならなねぇ程の大きな差がございやす。
最弱の神であっても神話級を圧倒するに違いなく、一切の戦闘能力、攻撃手段のない神相手でも神話級が勝つことはほぼありえやせん。
そんな言葉でここにいる幻獣を評するなら、グリ子さんは神話級、あたくしも神話級、フェー君やフォスちゃんは……ギリギリ準神話級というところでごさいやしょう」
「……いや、大僧正は既に神のレベルに達しているのでは……」
そんなハクトの言葉にブキャナンは首を左右に振って更に力を込めて言葉を続ける。
「まさかまさか、あたくし如き神の足元にも及びやせん。
神話級の幻獣であるという自負はございやすが、その中でも高位とは言い難いでしょう。
そんなあたくしを上回る神話級最高位でさえ神の足元にも及ばず……それほど神々というのはとんでもない存在なのでやす。
そも現存する神々は召喚されたというよりは自力でこちらにやってきたような存在ばかり……あたくしなんぞと比較するのも烏滸がましいのでございやす。
……そして、連中はそんな神々を召喚し、契約で縛り……緊急事態への備えとしようとしているよう……なんでやすが、神々を契約で縛ろうなど不敬、と言いやすか不信心極まる愚行、神々の怒りを買うに違いなく止めねばとんでもないことになってしまうことでしょうなぁ」
「それは……そうでしょう。
というか既に現存する神々が最近の状況を受けて動いておられるのですよね?
なのにあえて召喚をする意味とは……? ただただ危険性が増すばかりに思えますが……」
「ハクトさんの仰る通りで……。
連中の真意は謎のままでやすが、愚察するのであれば神々の力を得ようと……自分達の好きなように使ってやろうと考えているのかもしれやせん。
あるいは自分達の名前を神話として歴史に刻みたいのか……何にしてもまともな考えではねぇでしょうねぇ」
と、そんな会話をハクトとブキャナンがする中、ユウカはフェーとフォスのことを撫で回し続けていて……十分に撫でて飽きたのか、そっと二頭を放して口を開く。
「まー、よくわかんないですけど、とにかくそいつらをぶっ飛ばせば良いんですよね。
何かやらかす前にぶっ飛ばしちゃえばそれで問題解決です!
……それに神様はそんなことくらいじゃ怒らないと思いますよ? 契約で縛ろうとしても笑って跳ね返して……そのままお家に帰るんじゃないですかねー」
「いや、それは……」
ユウカの言葉にそう返したハクトは、なんと言葉を紡いだものかと悩んでしまう。
確かにそういう神もいるだろう、寛大で寛容な……優しい神も。
しかしほとんどの神はそうではなく……こちらが精一杯の敬意を示したとしても理不尽に怒り暴れる神も多く、召喚だけならまだしも契約までしようとしたなら、ほとんどの神が怒り狂うに違いない。
神々の中には暴神、悪神も存在し、そういった神々を召喚しようとしてしまったならどんな災害が巻き起こる……想像も出来ないことになるだろう。
その辺りのことを考え、しかしそれをそのまま伝えて良いものかと悩み……変にユウカを怖がらせてしまわないかとまで考えてしまっていると、ブキャナンがその辺りのことを察し、ハクトの代わりに言葉を紡ぐ。
「確かに、ユウカさんの言葉は正しいかもしれやせんねぇ。
神々は怒らず、優しく接してくれる……でしょうが、だからといって無礼を働いて良いということにはなりやせん。
神々を敬うのであればこそ、連中の召喚は未然に防ぐべきでございやしょう。
……という訳で明後日、連中の拠点へと急襲をかけやすので、よろしくお願いいたしやす」
と、そう言ってブキャナンは畳に手をつき頭を下げる。
深く深く下げるその姿を見てハクトもユウカも……グリ子さんもフェーもフォスも頷き、その願いを聞き入れる。
そしてそれぞれブキャナンに「頭を上げてください」とか「よろしくお願いします」とか「クッキュン」とか色々、声をかけ……それを受け頭を上げたブキャナンは、明後日の詳細を話していく。
場所、時間、敵のおおよその数、協力者について、行政への連絡や、法的な問題をどう解決したかについても話をし、今回は事態が事態なため、かなりの暴力も許されるとの話までが出てくる。
相手を殺さない限りはセーフで……出来るだけ殺して欲しくはないが、殺してしまったとしても役所がなんとかするとまで言ってくれているらしい。
「……あの、大僧正? そこまで役所が協力的ならそれこそ公的機関が対処したら良い話なのでは……?」
その途中、ハクトがそう声を上げるとブキャナンは、両手をばっと広げて見せる。
公的機関はお手上げと言いたいのか、両手の指を使う程に数が多いと示したいのか……あるいはその両方なのか。
どうやら公的機関も既に動いてはいるが、それだけでは事態を収拾出来ないようだ。
そんなブキャナンの態度を受けてハクト達は、それならば仕方ないかと覚悟を決めて……その日に備えるため立ち上がり、軽い挨拶を交わしてからお堂を後にするのだった。
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