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サクラ先生の……


 ブキャナンからの依頼を受け……その日が来るまでの数日間、ハクト達は日常を過ごしながらその時に備えることになった。


 ハクトはまた休みをもらうために仕事を前のめりに消化しつつ、合間合間で鍛錬をし……ユウカは久しぶりに道場に向かい、フェーと一緒に自らを鍛えた。


 そうして……依頼の日まであと数日となった週末、ハクトはユウカ達と共にある場所へと足を向けていた。


 都会の駅近くとは思えない程、木々に囲まれたその一帯は、とにかく広く、その広さを高い塀で覆っていて……塀の向こうには伝統的な屋敷の姿が見える。


 大きな幻獣も通れるようにした、屋根のない立派な門にはカメラやセンサーなど複数の警備装置があり……そのカメラに挨拶をすると電動なのか、勝手に門が左右に開かれ、門の向こうへと足を進めると、二方向へと続く石畳が現れる。

 

 真っ直ぐ進む先は本邸で、右に逸れている先には道場のような建物があり……道場の方へと足を進めたハクトは、後ろに続くグリ子さん達やユウカに簡単な説明を始める。


「さっき電車内でも説明したが、ここはサクラ先生の別荘というか私邸というか、まぁそんな感じの家で……この辺りで活動する際に寝泊まりする場所だ。

 他にも内弟子を泊まらせることもあり、内弟子達の稽古が活発に行われている場所でもある。

 この門を通っただけで力が増すなんて噂話があるくらいの場所でもあり……今小碓君達はここでしごかれているという訳だ」


 と、ハクトがタケルの名前を出すと、ユウカは首を傾げながら言葉を返す。


「それは分かりましたけど……私達はなぜここに?

 まさか私達もここで鍛えるんですか?」


「……いや、紹介してそれっきりというのは無責任にも程があるだろう。

 たまには顔を出し、元気にしているか確認し、何かあれば相談に乗るくらいのことはしないと……小碓君達はもちろんのこと、サクラ先生からも何を言われるか分かったものではないよ」


「あ、なるほど……。

 依頼で忙しくなる前に顔を出しにきたって感じなんですね」


「それもあるし、大僧正の依頼関係でこちらが騒がしくなる可能性もあるからね、その辺りのことを知らせにきたというのもある。

 彼らに何があって幻獣との縁を紡ぐことになったのかは未だに分からないままだが、このタイミングで何か起こるというのは……もしかしたらなんらかの関連性あってのことかもしれないからね。

 忠告くらいはすべきだろう」


 と、そう言ってハクトは道場へと足を進め……引き戸をノックした上で引き、頭を下げての挨拶をする。


 それに続いてグリ子さん、フォス、ユウカ、フェーの順に挨拶しながら引き戸の向こうへと進み……道場の中の光景を視界に入れる。


 壁際にずらりと並ぶスーツ姿の男女、それに囲まれる形でタケル達の姿があり……タケル達は片手で逆立ちという、とんでもない状態で並んでいて……幻獣達もまた似たような、アクロバティックな姿勢をフルフルと震えながら維持していた。


「えぇっと……これは一体……?」


「クッキュン……」

「ぷっきゅん……」


 そう声を上げるユウカ達にハクトは真顔でもって答えを返す。


「ただ逆立ちをしているという訳ではないようだ。

 支えとしている片腕に魔力を集中させ、長時間の逆立ちを維持出来るようにし……同時に魔力でもって血流を操作し、頭に血が上らないようにもしているらしい。

 同時に筋トレも兼ねていて……基礎力を上げる鍛錬というところかな。

 そして周囲のスーツ姿の方々は、恐らくだけどサクラ先生の直弟子の方々ではないかな……サクラ先生も毎日指導出来るほど時間はないのだろうし、ああやって直弟子の方々に任せているのだろう」


「え、えぇ……。

 あんな風にスーツ姿の人達に囲まれたら気が気じゃなくて、鍛錬に身が入らないと思うんですけど……」


「あえてそうしているのだろう、彼らも強制的に社会人になってしまった身だ、対人経験というか、プレッシャーに耐える訓練をしておくのも悪くないはずだよ」


 と、そんな会話をしているとスーツ姿の男性が一人、近寄ってきて……軽い挨拶をした上で名刺を差し出してきて、ハクトは名刺交換に応じる。


 ユウカもそれに続き……それからハクトはタケル達の様子を見に来たことを伝え、男性は笑顔で応じ、見学の許可をくれる。


「矢縫さんのお話は、吉龍先生からかねがね聞いておりました。

 とても優秀な生徒さんだそうで……ご活躍についても耳に届いています。

 風切さんについても同じくで……数十年に一度の逸材とか……。

 ……吉龍先生は一時間程で到着すると思いますので、それまで小碓君達と一緒に鍛錬をしてみてはどうですか?」


 その上で、そんなことを言ってきて……ハクトは静かに、ユウカはノリノリでそれに応じる。


 ハクトはいつものラフな格好のまま、ユウカは念の為持ってきておいた道着姿に着替えてから参加し……ハクトはただ静かに逆立ちをし、ユウカは魔力どうこう関係なく純粋な筋力でもって逆立ちを成立させる。


 筋力とバランス感覚と根性で、一時間を軽々耐えて、周囲のスーツ姿の大人達はそれに静かに慄き、タケル達はそれを刺激としてやる気を出し……そうやって道場の熱気が高まる中、金羊毛羊の背に腰掛けたサクラ先生が、静かに道場の中に入ってくる。


 するとスーツ姿の大人達が一斉に素早く深く頭を下げ……少しだけ鬱陶しそうに手を振ってそれに応えたサクラ先生は、タケル達の前へと進み声をかける。


「タケルちゃん、もう少し魔力の量を増やしてみてちょうだい。

 サクちゃんは魔力が少しだけ多いかしら。

 トモエちゃんは腕だけでなく血流にも魔力を流して……そう、そうやってしっかり体調も維持してちょうだいね」


 それからハクト達の前にも足を進め、同じように声をかけてくる。


「ハクトちゃんは相変わらず言うことないわねぇ……まぁ、基礎なのだから当然なのでしょうけど。

 ユウカちゃんは……戦闘時の魔力操作に関しては無意識というか本能でやっているみたいだし、あえて何も言いません。

 何も言いませんけども……どうして頭に血が上らないのかしら? そんな真似四聖獣でも不可能だと思うのだけど……」


 その言葉にハクトは静かに頷き、ユウカはにっこりと笑みを返す。


 それを受けて静かに笑ったサクラ先生はぽんと手を叩き、鍛錬終了の合図を出すのだった。




挿絵(By みてみん)

お読みいただきありがとうございました


今回はサクラ先生のイラスト公開!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 金羊毛羊の強キャラ感がサクラ先生を引き立ててるなぁ
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