ブキャナンの依頼
タケル達をサクラ先生に預けて数日後。
ハクトとユウカは諸々の報告などを行うため、ブキャナンの下へと足を運んでいた。
あの騒動以来、やれ対策だの結界構築だので忙しくしていたらしいブキャナンは、久しぶりに自分の家……というかお堂に戻っているそうで、ハクト達が背の高い木々に挟まれたかのような形の山道を進んでいくと……いくつもの段ボールの山に囲まれたお堂が視界に入り込む。
「え? なんですかね? あの段ボール……」
それを見るなりユウカがそう尋ねるとハクトは、
「あー……まぁ、大体想像はつくけどね、中に入れば分かることだよ」
と、そう言って足を進める。
足を進めてお堂に入ると、いつもの小僧天狗が出迎えてくれて、小僧天狗の案内でお堂の奥へと足を進めると、ブキャナンと思われる笑い声が聞こえてくる。
「カカカ、カカカカカ、カーッカッカッカ」
それはあまり聞くことのない笑い声だった、いや、ブキャナンの機嫌が良い時には聞くことが出来るのだが、そこまで機嫌が良くなることが稀だった。
以前ハクトとブキャナンが再会した時には聞けた声だったが、それ以来聞くことのなかった稀有なもので……その声のする部屋へと足を進めたハクトが障子戸を開くと、段ボールの山に囲まれたブキャナンが、仮面のクチバシを器用に動かしながら、大量のまんじゅうを次々に食べているという光景が視界に入り込む。
「ご機嫌ですね、大僧正」
そしてハクトがそう声をかけると、ブキャナンは両手いっぱいに持ったまんじゅうをクチバシの中に押し込み、仮面であるはずのクチバシをもっぐもっぐと動かし、口の中のものを飲み下してから言葉を返す。
「えぇ、えぇ、ご機嫌ですとも。
ここ最近は本当に大変でございやしたが、大変だった分だけのお礼をこうして頂けて……あたくし、久しぶりにこんなにも贅沢な遊興を堪能出来てそれはもうご機嫌ですとも」
と、そう言ってブキャナンは部屋の隅に積み重ねてあった座布団に手を伸ばし、それを手裏剣のように投げて設置し、ハクト達にそこに腰を下ろせと促してくる。
それを受けてハクトが腰を下ろし、グリ子さんとフォスが腰を下ろし、ユウカとフェーが腰を下ろし……そしてユウカが声を上げる。
「甘いもの、お好きなんですか?」
「美味しい食べ物ならなんでも好きでございますよ。
美味しい食事こそ文化の極み、長い歴史の中で研鑽されてきた技術の集大成とも言えて……その中でもお菓子は特に歴史が長く研鑽が深くていらっしゃるので、好みではありやすねぇ」
そう返してブキャナンは近くの段ボール箱へと手をやって、その中に入っているらしい次の菓子を探り始める。
「……お好きでこんなにたくさん買っちゃったんですか? お堂の外にもたくさんありましたけど……?」
「いえいえ、これらは全て仕事先で出会った方々からのお礼でやすよ。
皆様どういう訳か気を使ってくださって……それぞれ地元の銘菓を送ってくださるんで。
台所の冷蔵庫なんかもう大変で、上から下まで要冷蔵などなどのお菓子でいっぱいとなってございやす」
更にユウカが問いかけるとブキャナンがそう返し……呑気に「へぇ~」と返しているユウカに、ハクトが補足の説明を行う。
「大僧正は気楽に言っているが、現実はもう少しシビアでね……大僧正の力を目にした人々が大僧正を引き止めるために……この世界に残ってもらうために必死でこれらのお供え物を用意した、というのが正しい見方だろうね。
大僧正が生まれ育ったのはこちらの世界ではなく、異界で生まれ育った異界の住人だ。
その気になれば大僧正はいつでもその世界に戻れるだけの力があり……そうなったらどれだけの損失となるか、今更ながらに思い知ったのだろうね」
「あ~……なるほど、そう言えばブキャナンさんは異界の存在だったんでしたっけ。
なんか天狗って当たり前にそこらにいる妖怪ってイメージがあって忘れちゃってましたねぇ。
……えぇっと、ブキャナンさん、故郷に帰りたいとかって思うことあるんですか?」
「いえ、全然。
そもそも故郷のことなんてもうすっかりと忘れ去っておりますからねぇ……生まれ育った土地と言われてもピンと来ないもんでやすよ。
ただまぁ、こうして色々な食べ物をいただけることは嬉しいことなんで、そこら辺の事情はね、秘密にしておこうかなとあたくしの悪戯心が囁くものでして。
……という訳で、事情を知った皆様方には、口止め料としてこれらのお菓子をお譲りしやしょう」
ユウカの問いにそう返したブキャナンは、手近な段ボールからいくつかの和菓子や洋菓子を取り出し、ユウカ達の前に並べていく。
有名製菓会社の羊羹、フルーツがたっぷりと入ったゼリー、あんこだけでなく餅も入ったモナカ、大きなクリをたっぷり使った羊羹にまんじゅうに……カステラ、餅菓子、名前を見ただけでは中身が想像出来ないものもちらほらと。
それを受けてハクトは「ありがとうございます」と、何個かを受け取り開封し……包み紙を広げてグリ子さんやフォスが食べやすいようにしてから、そこに菓子を並べていく。
それを見てユウカも真似てフェーのために菓子を広げていき……そんな様子を見てか、仮面の奥で目を細めたブキャナンは、次々に菓子をハクト達に差し出していく。
ブキャナンが差し出しハクト達が開封し、グリ子さん達が食べる。
そんななんとも言えない構図が出来上がっていると、小僧天狗達が駆けてきて、お茶や食器をハクト達の前に並べていく。
ハクト達のための食器に、グリ子さん達のための大きな食器に。
そして小僧天狗達も開封作業を手伝い始め、ハクト達も食べる余裕が出来始め……ハクトとユウカが菓子と茶を楽しみ始めると、それを嬉しそうに眺めていたブキャナンが声を上げる。
「ちなみにでございやすが、これからあたくし少し忙しくなる予定でして……ハクトさん達には手伝ってもらえたらと。
どうも一部の愚か者たちが、不穏な昨今を不安に思ってか強力な幻獣を召喚しようとしているようでして……無許可でもって無謀な真似をしようとしている連中を止める必要があるのです。
ハクトさん、ユウカさん、お菓子のお礼という訳ではねぇですが、ご助力いただけたらと思います」
と、そう言われてハクトは特に動揺しない、ブキャナンならそう言うこともあるだろうと素直に受け入れ、ただ頷く。
ユウカは一瞬、お菓子食べた後で言う? と、そんなことを言いたげな顔をするが、ハクトが受け入れたのを見て何も言わず、こちらも頷く。
それからグリ子さんもそれに続いて……そうしてハクト達は新たな仕事に取り掛かることになるのだった。
お読みいただきありがとうございました。
今回はブキャナンイラスト公開!
まさかの格好良さにびっくりです!
前回に200階記念イラストを追加していますので、そちらをまだ見ていない方は前回もチェックしてみてくださいな!




