楽しい休日
バス停にてバスが来るのを待ち……幻獣用の席のある入り口と車体が大きいバスに乗り込み……グリ子さんの真ん丸な体をぐいぐいと押し込んでどうにか乗り込み、そうして到着した先は鶴万代街……ハクト達が住まう市の中心地となる最大都市である。
大きなビルが立ち並び、いくつもの商業施設も立ち並び……映画館やアミューズメント施設、展望台といった観光施設も充実している。
大きな川が近くにあり、川べりが観光地として、休憩地として整備されていて……そちらの方に行けば街中の喧騒から離れて静かな一時を楽しむことも出来る。
それ程までに大きい街だけあって、竜鐙町とは違ってそこかしこに幻獣の姿を見ることが出来……人が使うには大きく、幅が広いベンチに座って休日を堪能している大きな犬のような幻獣や、ビルとビルの間を縫うようにして飛びながら懸命に働いている人の数倍はあろうかという巨大な鳥の幻獣の姿などが、バスを降りバスセンターから一歩踏み出した一行の視界に飛び込んでくる。
「クッキューン!」
人々が絶え間なく行き交う、賑やかな様子に驚いたのか、立ち並ぶビル郡に驚いたのか、はたまた自分以外の幻獣を見て驚いたのか、グリ子さんがそんな声を上げて……目を丸くしながらパタパタとその小さな翼を振るう。
「あはは、竜鐙じゃこんなに賑やかな様子も、でっかいビルも、幻獣のことも見かけないもんね。
有名なお店とかもたくさんあるし、CMとかで見るような食べ物店とかもたくさんあるし……映画館とかもたくさんあるから、いくらでも遊べちゃうんだよ」
興奮気味のグリ子さんにユウカがそう声をかけて、そっとその体を撫でるとグリ子さんは嬉しそうに身悶えしながら、キョロキョロと周囲を見回し「クキュン、クキュン」と声を上げる。
異なる世界からやってきたグリ子さんにとってその光景は、テレビなどを通して見たことはありながらも、その目で直に見るのは初めてのことで……まるで初めてこの地に遊びにきた子供かのようにはしゃぎ続ける。
クキュンクキュンと声を上げ、パタパタと翼を振るい、チャッカチャッカとかぎ爪を鳴らし……そうやってはしゃぐグリ子さんのことを煩く思ったのか、すぐ側のベンチで休憩していた犬のような幻獣が、いかにも凶暴そうなその顔をぐいと上げて睨みつけようとしてくる……が、その幻獣はグリ子さんのことを見るなり、その姿を認識するなり、その体毛全てを逆立たせて飛び上がり……飛び上がった勢いそのままにベンチの裏に隠れて小さく縮こまる。
「クッキュン!」
そんな幻獣に対してグリ子さんがそう声をかけて……それを受けてその幻獣は、恐る恐るといった様子でベンチの裏から出てきて……グリ子さんのことを見つける前のようにベンチの上にちょこんと座る。
まるでグリ子さんがそうする許可を与えたようであり……グリ子さんの許可を受けて渋々そうしたかのようでもあり……先程のグリ子さんの声にどんな意味が込められていたのかが分からなくとも、明らかなまでの序列が見て取れる。
グリ子さんが上で、犬のような幻獣が下で……その間には圧倒的なまでの差があるようだ。
周囲を改めて見てみれば、空を舞い飛ぶ鳥のような幻獣もグリ子さんの頭上を飛ぶことは意図的に避けているようで……通りを歩く幻獣たちもグリ子さんを視界に入れるなり露骨なまでの態度を……恐れを抱いているような、敬意を抱いているような態度を見せてくる。
とはいえ全ての幻獣がそうしている訳ではない。
長寿の幻獣や見るからに力を持っていそうな幻獣や……ドラゴンなどといった明らかな高位幻獣は、グリ子さんのことを一瞥はするものの、特に気にした様子もなく、それまでと変わらぬ態度を取り続けている。
「う……む……。
なるほど……幻獣にも格というか、上下関係が存在するのだな」
その光景を見てなんとなく事情を察したハクトがそう言うと、ユウカは「グリ子さんは凄いんだねー」と、そんな呑気なことを言いながらグリ子さんの丸い体を撫で回す。
「まぁ……グリ子さんも相手側も、直接何かをしようとは思っていないようだからな……挨拶みたいなものだと思って深くは気にしないでおくとしよう。
……風切君、これだけ色々なお店があると何処から行ったものか迷ってしまうのだが……まずはどの辺りから見て回るつもりなんだい?」
ハクトがそう言葉を続けると、グリ子さんのふかふかの体を撫で回すことに夢中になっていたユウカはハッとなってから、慌てたように声を上げてくる。
「そうでした、そうでした。
えーっと、まずはデパートの方にいきませんか?
家具とか家電とかも見れますし、あと食器が良いのがあるんですよ。
先輩達が使ってる食器って、実用性に偏りすぎているっていうか、飾り気がない気がするので、せっかくの新生活なんですし、良い食器も見ておきましょうよ。
今日買うまでいかなくても、実際に目で見て手にとってみて……買うかどうか検討してみるっていうのも悪くないと思いますよ」
その言葉を受けてハクトは、今日の買い物を言い出したのはユウカだからと素直に頷く。
するとユウカは満面の笑みとなって……グリ子さんの体に軽く寄りかかりながらデパートがある方へと足を進める。
するとグリ子さんもまたユウカの方へと寄りかかってきて……お互いに体を押し合いながら、お互いの温もりを感じながら足を進めることになる。
そんな二人のことを微笑ましく見守るハクトは、二人の少し後ろをゆっくりと歩いていく。
今日は休日、一日を何の気兼ねもなく自由に扱える日。
学生の頃とは違い家での予習復習をする必要はなく、休日明けからの仕事のための英気を養うための日。
そんな一日をこうやって過ごすというのは中々どうして悪くないことで……学生時代にそうすることの出来ていなかったハクトは、思っていた以上に自らの心が弾んでいることを感じながら、ユウカとの時間を過ごしていく。
デパートに入り、歓談しながら階段を登り……特に目的もなく、広いフロアを眺めていって。
そこに置いてある鞄や服を見ては自分が身に着けたら、グリ子さんが身につけたら、ユウカが身につけたらどうなるかという想像をして……また次のフロアへと足を進めて。
目的である家具家電エリアはあえて後回しにして、ゆっくりとじっくりとデパートの中を楽しんでいって……ハクトは小さな笑みを浮かべて、グリ子さんはその目を細めて、ユウカは満開の笑みを咲かせる。
そうして時が平和に楽しく流れていく中……そんなハクト達の後を追いかけるように一つの影が姿を見せる。
「……まさか自らあの訳の分からないおかしな町から出てきてくれるとは……。
今日こそ、今日こそあの方からの依頼を果たさせていただきますよ……!」
よせば良いのにその影はそんなことを言って……ハクト達との距離を詰めていくのだった。
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