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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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 それから数日が経って……ユウカは両親に紹介してもらった税理士を雇うことに成功していた。


 両親に紹介してもらい、全てを税理士に任せ……まだまだ若く、学生でもあった年齢から、そうする方が良いだろうと両親も税理士も理解を示してくれた。


 そうして面倒な事務処理から解放されることになったユウカがフェーを連れてハクトの元に報告に向かうと……ハクトの家のリビングでとんでもない光景を目にすることになる。


 それはグリ子さんの体が半分になってしまっているというとんでもない光景だった。


 尻尾や翼や足や、体の後ろ半分はあるが、前半分がない。


 そしてそんなグリ子さんの側でハクトは、狩衣姿となって魔法陣を展開し、とんでもない量の魔力を練り上げていて……それを見てユウカは何かとんでもないことがあったに違いないと戦闘態勢を取る。


 ……が、


「いらっしゃい……今は少し忙しいからソファで待っていてくれ」


 とのハクトの、なんでもなさそうな落ち着いた声を受けてユウカは、きょとんとしながら素直に言うことを聞いてソファに腰を下ろす。


 そして数分、素直に待ち続けたがその状況が変わることはなく、ハクトから何か説明がある訳でもなく……困惑したままのユウカとフェーは焦れに焦れて、ついには我慢ができなくなってハクトに問いを投げかける。


「あ、あの、何をしてるんですか? グリ子さんは一体どうなっちゃったんですか?」


「わふー!」


 するとハクトは魔力を練り上げながら視線をユウカ達に向けることなく、言葉だけを返してくる。


「グリ子さんは今、故郷の面々と会話をしているんだよ。

 あちらとの門……というか大きさからして窓か、それを開けて維持し……そこに顔を突っ込むことで顔と言葉をあちらに……グリ子さんが産まれた世界に送り込んでいるんだ。

 我々風に言うのなら、就職した都会から田舎に電話をして故郷の人々と会話をしている……という所かな」


「え? そんなのありなんですか? 許されるんですか?」


「……そりゃぁ許されるとも。

 幻獣が望めば帰還も会話もなんでもOKさ。

 ……異なる世界に呼び出しておいて元の世界に戻さず、連絡もさせないなんてそんな酷い話はないだろう?

 もちろん、それ相応の手続きはいるし……見ての通り、それ相応の魔力も必要になるけどね。

 窓を作る魔力、あちらから侵入してくるウィルスなどを遮断する魔力、グリ子さんの体調に変な影響が出ないよう調整する魔力など、普通に召喚した際の数倍の魔力が必要になるが……それも今のグリ子さんなら容易という訳だ」


「へぇー……なるほどー……。

 ……それで、グリ子さんは誰とどんな会話をしているんです? その確認って出来るんですか?」


「……そこの窓を覗き込めば出来るは出来るが……異世界を覗くというのは精神衛生上あまり推奨は出来ないかな。

 それと個人的な会話をしているかもしれないからグリ子さんの許可も必要だね」


 ハクトのそんな言葉を受けてユウカは立ち上がり、グリ子さんから許可をもらおうと近付いていく。


 するとグリ子さんは、話を聞いていたのか顔をすっと、見えない窓から引き抜いて、ユウカに向けて笑顔で「クッキュン!」と、覗いて良いよとの返事をする。


 それを受けてユウカはグリ子さんに身を寄せ……グリ子さんと一緒に窓に顔を突っ込み、その向こうにある異世界の様子を視界に入れる。


 その窓は水族館などにある、半球状ののぞき窓のようだった。


 そこに顔を突っ込み、まるで水中にいるような気分で水の中の……魚の世界を覗き込むような、そんな作りとなっていた。


 魔力で作られた分厚い結界が半球状に展開していて、その向こうに異世界があって……テーブルのような形の、不自然に頂点が広く平らな大きな岩山に、リンゴに良くにた不思議な木が何本も並んでいるという不可思議な光景の中央には、その木でもって編んだらしい大きな巣が……鳥の巣のようなものが置かれていた。


 その鳥の巣の大きさは学校のグラウンドかそれ以上か……とにかく大きく広く、そんな巣の中にはたくさんのグリフォンが規律正しく並んで立っていて……タダシが連れていたような、立派で雄々しく力強いグリフォン達の視線は、その全てがグリ子さんへと向けられている。


「クッキューン」

(この子は友達のユウカちゃんだよ)


 そんなグリフォン達に声をかけるグリ子さん、その声は周囲の魔力の影響なのか、吹き替えされたような形でユウカにも理解が出来て……そして当然のようにグリフォン達が上げる雄叫びの意味も理解が出来てしまう。


『グリュオォォォォォォォォン!!』

(讃えよ! 讃えよ! 讃えよ!!)


『グリュォォォォォン!』

(姫の美声を讃えよ!)


『グリュォォォオオオオオン!』

(グリフィーヌ・グリグリコ3世を讃えよ!)


 その声の凄まじさに、ユウカは結界で防がれているはずの熱気を感じ取ってしまう。

 

 熱い、というか暑苦しい。忠誠心というか何というか……グリフォン達の想いが結界を越えて流れ込んでくるようだ。


「クッキュン、キュン、キュゥーン」

(皆元気そうで何より、じゃぁさっき言った通り、余った魔力でそちらに眷属を送るから、大事に育ててあげて)


 え? 眷属? それってフォスちゃんのこと?


 なんてことをユウカが考えていると、グリ子さんはクチバシを大きく開けて……そこから魔力を放出し、窓の向こうへと送り込む。


 すると巣の中央……グリフォン達の中央に魔力が集まっていって、凄まじい発光の後に小さな卵がコロンと転がる。


『――――――!!!!』


 それを見てグリフォン達が上げた声は、ユウカの耳では処理しきれるものではなく、たまらず窓から顔を引き抜いたユウカは耳を抑えながらその場にへたりこむ。


「……鼓膜が破れているならすぐに医者に行くべきだが……平気かい?」


 そうハクトに問いかけられてユウカが頷くと、すぐ側で様子を見守っていたフェーが飛び込んできて……フェーの魔力でもってユウカの精神的疲労を癒やしてくれる。


「……私、初めて異世界を見たんですけど、あんな感じなんですね……凄いんですね……」


 するとハクトは、魔力を練り上げながら言葉を返してくる。


「いや、あれが異世界そのままの光景ではないよ。

 あの窓は様々なものを変換させている、こちらの世界に悪影響が出ないよう改変していると言っても良い。

 つまりユウカ君が見た光景は、あちらの世界をこちらの世界風に改変し、見てもまぁまぁ問題ないレベルに調整したものとなっているんだ。

 あちらの世界を良く知っているグリ子さんには、そのままの姿に見えているだろうが、あちらの世界を知らないユウカ君には改変した姿で見えている……といった感じだね。

 おかげで異世界の情報集めたりとか、研究したりとかには向かないんだけど……そうしておかないと、精神ダメージを受けた人から周囲に汚染のような形で常識外の知識が入り込んでしまうんだ」


 その言葉を受けてユウカは納得したという顔となり……同時にあれだけの数のグリフォンに讃えられているグリ子さんの凄さも痛感し、グリ子さんへの尊敬の念を改めて、強いものにするのだった。


 


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは王の一般参賀というより、人気アイドルのコンサートか?
[一言] そりゃあ、グリ子さんが半分だったら誰だってびっくりするよね。
[一言] 衝撃の事実!「グリフィーヌ・グリグリコ3世」 それなりに力ある存在だろうとは思っていましたが、まさか「姫」と称される立場だったとは。
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