その後のあれこれ
「どうします? やはり本家も攻撃しておきましょうか?」
依頼が片付いて、ある神社を構える森の中、スーツ姿のブキャナンがそう声を上げると、ショウが首を左右に振る。
「いや、今は宗教団体に集中すべきだろう。
本家の方は……今回の件で大恥かいたからなぁ、しばらくは動けないだろうし、連中は別に国家転覆とか、そんなだいそれたことを狙っている訳じゃねぇからな。
世界そのものを破壊しかねない連中の方が優先だろう……個人的には本家をきゃーん言わせたいけどな、まぁここで個人の感情優先するほど馬鹿じゃねぇよ」
「グゴゴゴゴゴ」
ショウの言葉を褒めているのか、体に巻き付いたグラコロスが嬉しそうに喉を鳴らすと、ショウは微笑みながらその鱗を撫でてやり……そんな様子を見てブキャナンはうんうんと頷き、大きく翼を広げる。
「では、例の団体の方に集中するということで……ハクトさんとユウカさんが気付かないうちに片付けてしまいやしょう。
たまには大人の責任というものを果たさねばなりやせんから」
「……ハクトはもう大人だと思うが……ま、甥っ子ではあるからな、踏ん張ってやらねぇとな」
と、そう言ってショウが歩きだすと、ブキャナンは翼を振るって高く跳び上がる。
それから2人は同じ方向へと向かっていって……依頼の疲れを癒やさぬまま、もう一つの仕事に取り掛かるのだった。
「いやぁ……何事もなく終わってしまったねぇ。
ただ美味しいものを食べただけだったか」
数日後、ソファに体を預けながらハクトがそう言うと……いざという時のための魔力を溜め込んで、一回り大きくなったグリ子さんが声を上げる。
「クッキューン?」
「……ああ、うん、溜め込んだ魔力は……どうしようね。
下手に発散するとまたフォスのような存在が生まれかねないし……いっそ、結界を張り直すか……それとも攻撃魔法として放ってみるかい?
風切君の回避や防御の良い練習になるかもしれないよ」
「キュゥーン……」
確かにそうかもしれないが、まさかそんな提案をしてくるなんてと、グリ子さんが引き気味の声を上げ……そんなグリ子さんの上に乗って潰れまんじゅうとなっていたフォスも、
「プッキューン……」
と、呆れたような声を上げる。
それからクッキュンクッキュン、プッキュンプッキュンと2人で相談を始めて……相談から弾かれる形となったハクトは仕方なしに鍛錬を始める。
依頼が終わるまでの待機中、グリ子さんに付き合って美味しいものばかり食べていたため、少しだけ太ってしまった……ような気がする。
このまま放置しているのは良くないだろうと庭に出て筋トレを始めて……10分程経った頃、いつものように元気いっぱいにユウカが、フェーを連れ立って庭へとやってくる。
「先輩、おはようございます!
なんかもう、一年くらい仕事しなくても良いんじゃないかなって感じの収入があったんですが、どうしたら良いでしょうか!」
「わふー!」
元気いっぱい声を上げ……その意味も分からず、フェーも真似して声を上げ、それを受けてハクトはスクワットを続行しながら言葉を返す。
「どうも何も……好きにしたら良いのではないかな?
更に仕事をしてもよし、鍛錬をしてもよし、残りの日々を余暇としても過ごして良い。
君はもう社会人なのだから、自分で判断すると良い」
「あーいや、そうじゃなくてですね、投資? とかそういうのってどうなのかなって―――」
「やめなさい、君には向いていない」
即答だった。
筋トレを中断させ、ユウカの言葉が終わるのを待つこと無く、力を込めた言葉が発せられる。
「……えっと……タダシさんとか、他の召喚者さんは結構そういうのしてるらしいんですけど……」
「絶対にやめなさい。
どうしてもなら保険や積立貯金、将来的にもらえる年金が増える私的年金にしておくように。
……ああ、それで思い出した、来年には確定申告をすることになるだろうから、今から税理士を探しておくように。
絶対に自分でやるんじゃないぞ、細かいところはご両親に相談しなさい」
「……えぇっと……先輩はどうする感じですか?」
「俺も税理士に頼むつもりだよ、俺の場合は兼業なこともあって少しややこしいからね。
とにかく投資話は全て断るように、どうしてもならご両親が勧めるものだけにしなさい」
にべもなく、とにかく力強く断じるハクト。
まさかそこまで強く否定されると思っていなかったユウカは少し怯むが……すぐに受け入れ頷き、言葉の通りにすると示す。
するとハクトは安堵して筋トレを再開させて……と、そこに大きな翼の音が響いてきたかと思ったら、ブキャナンがやってくる。
「やぁやぁどうもこんにちは。
こんな良い日和に鍛錬とは……ハクトさんは真面目ですねぇ」
やってくるなりそう挨拶したブキャナンは何か言いたげにしているユウカへと視線をやり……小首を傾げることで、ユウカの発言を促す。
するとユウカは少しだけ躊躇してから、もう一度あの言葉を口にする。
「ブキャナンさん、私今回の依頼で結構なお金が入って……そしたら銀行から投資したらどうかって電話が―――」
「おやめなさい、貴女には向いていませんよ。
お金が欲しいのであれば、日々真面目に労働し、貯金を積み上げるがよろしい。
それでこそお金の重要性が理解出来るというもので……いざ使う時にも、ただ漠然と浪費するのとは違った喜びがあることでしょう」
またも即答。
ブキャナンもまたユウカの言葉を最後まで聞くことなく声を上げる。
ハクトよりは優しい言い方で、その声色には本気で心配している様子が含まれていて……2人にそう言われたらと、ユウカは納得せざるを得なかった。
「どうしてもと言うのであれば、積立貯金でもしたらよろしい。
……ああ、お金と言えば今の時代には確定申告というものがありまして、あたくしは小僧天狗に任せているのですが―――」
そして続く言葉もまたハクトと同じ内容で、ユウカは二度同じことを聞かなくてもと会話を切り上げようとする―――が、ブキャナンは大事な話だからお聞きなさいと、それを許してはくれない。
それからブキャナンはこんこんと教え諭すように言葉を続けて……それを受けてユウカは、自分の軽率な考えを後悔しながら、とりあえず税理士とやらを探すかなと、そんなことを考えるのだった。
お読みいただきありがとうございました。




