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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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黒幕達


 一連の事件を引き起こした黒幕達の狙いは、ハクトとグリ子さんでもなく、竜鐙町でもなく……風切ユウカであった。


 矢縫本家、それに連なる裏社会勢力、あの事件を起こした宗教団体の残滓に、それらに雇われた傭兵達。


 それらが合わさって出来上がった黒幕達は、これまでに何度も繰り返してきた竜鐙町へと侵入作戦の失敗でハクト達を狙っても無駄だと悟り……ユウカの身柄を確保し、人質とすることを考え出したのだった。


 そのためにわざわざ公的機関を通しての依頼をし……戦力を分散した上で、自分達の領分へと誘い込み……更には対ユウカ戦における必勝アイテムまでを用意していた。


 それは最近召喚された新種の幻獣、グラコロスの皮だった。


 あらゆる攻撃を弾くその皮を、金に物を言わせて集めに集めて11枚。


 これらがあればユウカの攻撃を完封出来るに違いなく……物理攻撃だけを得意としているユウカを捕らえることは容易なはず。


 更には作戦地域一帯にユウカの力を奪う結界を張り、何人かの呪術師を揃えて呪いをかけ……ついでに食事などに毒を混ぜる準備までし、彼らが考えうる全ての手管をこの作戦に投入してきていた。


 これならば全てが上手くいく、ユウカを人質にした上で、ハクトをあの町から……不可思議な結界に守られた町から引き剥がせばその身柄を確保出来るはず。


 確保さえしてしまえば、あの不可思議な結界もハクトの戦闘能力も、全てが自分達の思いのまま……と、彼らはそう考えほくそ笑んでいたが、そんな組織の中で一人だけ……一番若く、一番新参のとある人物だけが、その作戦に不安を覚えていた。


 そもそもあのグラコロスを召喚したのは最終目標のハクトに近い人物……。

 

 であるならばその力への対抗策を知っている可能性があり……呪術なども確かに上手くいけば勝率を上げてくれる妙手なのだろうが……上手くいくかどうかは未知数であり、普通に失敗することもある術法であること忘れてはいないだろうか?


 グラコロスの皮も呪術も結界も、毒も何もかもが失敗に終わった場合……あんな風に暴れている彼女を捕らえるなど、今の戦力ではまず不可能で……いや、仮に10倍近くの戦力があったとしても、成功率は低いままだろう。


 あちらはこちらの戦力をわざわざ相手にする必要はなく、ただこの場から逃げ出すだけで良い訳で……空中や水上を自由自在に駆け回る人間の逃亡を防ぐなんてことが、一体どうしたら可能なのか……?


 そんな不安と疑問を彼は周囲の人々に伝えたのだが……若い彼の発言は軽んじられ、誰も真剣に取り合ってくれない。


 これだけ手間をかけたのだから、これだけ金を注ぎ込んだのだから、これだけの人間を揃えたのだから、失敗するはずがない、失敗する訳にはいかない、だからもうやるしかない。


 組織の面々の言動の根底にはそんな考えがあったのだか、当人達はそれに気付くことなく、ただただ妄信的に突き動かされ、成功だけを信じ作戦を実行に移してしまう。


 まず結界に魔力が込められ効力がまし、次に呪術がかけられ……見事成功する。


 そろそろ手渡したスポーツドリンクに入れておいた毒も効いてくるはずで、全てが上手くいったと、グラコロスの皮を構えた組織の面々が動き出し作戦が開始される。



 

 ……が、そもそもユウカは受け取ったスポーツドリンクを飲んでいなかった。


 受け取り、礼を言いはしたが初対面の中年男性から受け取ったものを口にしようとは思えず、こっそりと捨てていた。


 そして結界は結界の専門家でもあるグリ子さんの眷属、ミニグリ子さんのフォスティーヌによって完全に防がれていて……呪術もフェーがその魔力を食べてしまうことでほぼ無力化していた。


 あくまで『ほぼ』でいくらか効果は発揮していたが……その効果は微々たるもので、ユウカが気付かない程度には微妙な効果しか与えていなかった。


 そしてグラコロスの皮に関しては……ハクトが少し前にその突破法を教えていて、突然現れた男達が構える皮を見たユウカは、すぐさま連撃を叩き込む。


 今回の依頼が怪しいことは分かっていた、何かが起こることは分かっていた。


 そういった覚悟を決めていたユウカは、突然現れた不審者達に何の躊躇もなく連撃を叩き込み……一定回数しか攻撃を防げないグラコロスの皮はあっという間に力を失って雲散霧消してしまう。


 それでもユウカが連撃の手を緩めることはなく……あっという間に男達は吹き飛ばされるか意識を奪われるか、行動不能になるまでのダメージを負って動けなくなり……倒れた所を様子を見守っていた役場の職員が確保していく。


「……いきなり海上の彼女に襲いかかるってことは、堅気じゃないですよね、こいつら。

 飛んだり浮かんだり……魔力を使っていたってことは、えぇっと、どんな犯罪になるんでしたっけ?」


 職員の一人がそう声をかけると、見学者に警察に通報してくれと声を上げていた同僚が言葉を返す。


「どんな犯罪かって言われれば色々だよ。

 公的な依頼を邪魔したってことで公務執行妨害、幻獣の皮みたいなのを使っていたから無免許幻獣使役にも当たるだろうし……襲いかかっていたんだから多分傷害罪もつくよな、未遂だったけど。

 んで魔力の不正使用と……こいつら、数が多いから幻獣関連組織法にも違反すんじゃねぇかな。

 ……ま、そこらは警察が来たら任せよう、とりあえず今はこいつらをとっ捕まえるぞ。

 これだけやらかしたんなら、多少痛めつけたって怒られないだろうさ」


 その発言の一部は役所の職員としては問題のあるものだったが……誰かが聞いている訳でもなく、問題にする人がいるでもなく……同僚である職員達も何も言わず、吹き飛ばされてくる男達を捉えていく。


 ユウカが気を利かせて海上ではなく陸に吹き飛ばしてくれるおかげで、それは順調に進み……あっという間に襲いかかった男達は捕縛されていく。


 そう時間もかからず警察が到着し、次々に逮捕されていく中……そんな状況下でも尚も怪しい男達はユウカに襲いかかり続け、その全てがあっさりと撃退されて警察官の足元へと吹き飛ばされていく。


「……あの女の子がもし暴れたら、署長クラスに出てもらわないとまず対処できないだろうなぁ」


「……いやぁ、署長じゃ無理じゃないか? 方面本部長でなんとかだろう?」


 と、警察官がそんな会話をする中、ほとんどの男達が叩きのめされ……そうこうするうちに現れていた不可思議な石の化け物も退治され……そうしてユウカの依頼は、なんともおかしな形で完了となるのだった。

 


お読みいただきありがとうございました。

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