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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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新マスコット



 皆で極上の……これ以上美味しいうな重は無いんじゃないかってくらいに美味しいうな重を食べ、そうしてハクト達は午後からの出勤のため、職場へと足を向けた。


 ハクトの隣にグリ子さん、グリ子さんの頭の上にフォスという状態で移動していると……すれ違う人々からの視線がフォスへと向けられる。


 既にグリ子さんのことは周知されていて……だからこそフォスを見た人々は、


『あれは何!?』


 や、


『ま、まさか子供!?』


 と、そんな驚きを抱くことになり、思わず視線を向けてしまっているようだ。


 そんな視線を一身に浴びたフォスは、自分の可愛さが視線を集めていると思ってか、なんとも自慢げに胸を張っていて……それを見たハクトは苦笑しながらも何も言わず足を進める。


 そうして工場へと向かうと、事務員の一人がグリ子さんの席の掃除をしてくれていて……ハクトが、


「おはようございます、それと掃除ありがとうございます、助かります」


 と、声をかけると「はい、おはよう」と返事をしながら顔を上げて……そしてグリ子さんとフォスを見るなり目を丸くする。


「あー……新しい幻獣と言いますか、グリ子さんの眷属と言いますか、そんな存在のフォスと言いまして、今日からグリ子さんと一緒に働かせてもらえればなぁと考えています。

 ……とりあえず細かい話は社長の許可をもらってからにしますので……」


 ハクトがそう言うと事務員は、


「そ、そうだね、社長の判断次第だね」


 と、そう言いながら視線をフォスに向けたまま掃除道具を片付け始め……グリ子さんは気にした様子もなくいつもの席に腰を下ろし寛ぎ始め、フォスはそんなグリ子さんの上で相変わらず胸を張り続ける。


 そんなグリ子さん達を置いてハクトだけで事務所に向かい……挨拶をしてから社長の下に向かい、フォスに関しての説明をする。


 事前に電話で知らされていたとはいえ、まさかの出来事に驚きを隠せない社長は、それでも快くフォスのことを歓迎してくれて……、


「グリ子さんのおかげでずっと景気良いからねぇ、これからもっと景気良くなっちゃうかなぁ~」


 なんてことまで言ってくれて、からからと笑う。


 そんな様子の社長にハクトは改めての礼を言ってから机につき、午前の遅れを取り返すために仕事に励み……そうして終業時間となって、事務所を後にすると……工場入口、グリ子さんの特等席の周囲にちょっとした人だかりが出来上がっている。


 いつもの子供達に通りすがりと思われる大人達、老人の姿もあって……かなりの人数がいるのに、いつもより静かで声を上げることなくただただグリ子さん達のことを見やっている。


「うん……?」


 グリ子さんと遊ぶでもなく、グリ子さんを愛でるでもなく、ただただ静かに見守っていて……何がどうしてそうなったと首を傾げながらハクトがグリ子さん達の側へと近寄ると……すぐにその理由が分かる。


 今日は良い日和、風もあって爽やかで心地いい。


 その上お昼には美味しいうな重を腹いっぱい食べていて……どうやらグリ子さんもフォスも眠気に負けてしまったらいし。


 潰れまんじゅうとなって眠るグリ子さんと、その上で瓜二つの潰れまんじゅうとなって眠るフォス。


 まさかの重ね潰れまんじゅうとなって寝息を立てているグリ子さん達の様子を見たくて……静かに見守りたくて人々はそこにいるらしく、そんな様子を見てハクトはどうしたものかと頭を悩ませる。


 帰るために声をかけるべきか、もう少しこのままにしておくべきか……。


 と、悩んでいるとフォスが寝返りを打ち……何故だか二度三度と打ち、本当に何故だか加速しゴロゴロと転がり、慌てて駆け寄ったハクトがグリ子さんの上から勢いよく飛び出したフォスをキャッチする。


「……えぇ……」


 思わずハクトがそんな声を上げると、ハクトの手の中のフォスが目覚め……それに合わせてグリ子さんも目覚め、同時に大きなあくびをし……それを受けて周囲から可愛い可愛いとそんな声が次々に上がる。


 するとグリ子さんもフォスも可愛いと言われたのが嬉しかったのか、ご機嫌でポーズを取ったり「クキュン!」「プキュン!」と声を上げたりとし……一段と場が盛り上がっていく。


 このまま盛り上がり続けると流石に迷惑になるかなという所まで盛り上がるが、その辺りのことをよく心得ているグリ子さんが、


「クッキュンキュン!」


 と、声を上げて一礼をするような仕草を見せて、今日はこれで終わりと態度で示すと、自然な形で受け入れてもらえて、集まっていた人々がぱらぱらと散って帰途につく。


 それに驚くやら感心するやら、なんとも言えずに苦笑したハクトは、静かに歩き始め……すぐにグリ子さんがそれに続き、そしてフォスは歩き出したグリ子さんの上に飛び乗る。


 乗り心地が良いのか……ただ単にグリ子さんの方が良いのか。


 どちらにせよそちらが良いのならとハクトは何も言わず、グリ子さんもまた何も言わず、いつも通りの……商店街を通っての帰途につく。


 商店街でもフォスは注目を集め……店に寄る度ハクトはフォスの説明をすることになり、ハクトの両手はお祝いということで押し付けられたオマケでいっぱいとなってしまう。


「可愛らしいお子さんだねぇ」


「グリ子さんもお母さんかぁ」


「ぬいぐるみにそっくりなんだねぇ」


「これまた元気そうな家族が増えたねぇ」


 商店街の人々は、オマケをくれる度にそんな言葉を口にしていて、その都度ハクトはフォスは眷属であるということを説明していたのだが、一般の人に眷属が何であるのか、どんな存在であるのかを理解してもらうことは中々難しかった。


 そもそもハクトもフォスが何者なのかよく分かっていないのだから説明が難しいのは当然で……最後の方では諦めもあって説明は適当となり、商店街の人々は結局眷属ではなく新しい家族であると、そんな理解をすることになる。


 ……まぁ、それで問題がある訳でもなし、特に訂正することもなくハクト達は商店街を通り抜け……そうして我が家へと到着する。


 そして手を洗ったり足を拭いたりといつもの作業をこなしたらリビングに向かい……そしてグリ子さんのベッドの側に、商店街で買ってきたばかりのフォス用の小さなクッションが設置される。


 ブラシなどなど、フォスのための道具もそこに置かれることになり……それらを見たフォスは、


「プッキュン!」


 と、とても嬉しそうな声を上げ、ふかふかのクッションへと跳躍してのダイブを決めるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「重ね潰れまんじゅう」かわいい! [一言] うなぎが食べたくなりました(^-^)
[一言] 寝相がアクティブなフォス。みんなハラハラしながら見守ってたのかな
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