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実験と


「せい!!」


 夕暮れ時、庭に置かれた殻……グラコロスが脱皮した殻にそんな声を上げたユウカが拳を叩き込む。


 するとポォンという、なんとも間の抜けた音が響き、ユウカの拳が弾かれて、目を丸くしたユウカが大きく体勢を崩す。


「……風切君の攻撃すらもあっさりと弾くか……。

 そして殻が動いた形跡もないし、置いた地面がえぐれたとか削れたとか、そんな様子もない……完全に衝撃を吸収しているというか、消し去っているのかな、これは」


 その様子を庭の隅で見ていたハクトがそんな声を上げると、近くにいたグリ子さんが「クキュンクキュン!」と声を上げ、自分もやってみたいと駆け出し……鋭く突き出したクチバシを殻に突き立てるが、それもあっさりと弾かれてしまう。


「鋭い一撃でもダメ……打撃だとか刺突だとか、攻撃の内容も問わない、と。

 見た目としては凄く地味なのだけど、やっていることは凄まじいな……衝撃の無効化? エネルギーの無効化? 攻撃以外のエネルギーも無効化出来るのなら、科学や工業の分野で重宝されそうだなぁ……」


 尚もハクトはそんなことを言い……リビングからその様子を眺めていたショウは「相変わらずズレてんなぁ」と、そんな言葉を口にする。


 それからテーブルに置いてあった茶菓子に手を出し、バリボリと食べ……そんなショウに巻き付いていたグラコロスも茶菓子を欲しがり、ショウから受け取りバリボリと食べる。


 そんな中、ユウカによる全力の攻撃が三度繰り返されるが、いずれも殻に弾かれてしまい……ユウカががっくりと項垂れる中、役目を終えた殻が光り輝き、消えていく。


「むー! 全然砕けなかったです!

 なんですか、あれー! あんなのあったら私みたいのは勝ち目ないじゃないですかー!」


 それを見送りながらユウカが悲鳴に近い声を上げ……それを受けてハクトは呆れ混じりの声を上げる。


「どんな攻撃も5回まで防ぐということは、とにかくどんな攻撃でも良いから、5回当てれば良いということ。

 風切君の身体能力なら1・2秒で達成出来るのではないかい?」


 そう言われてユウカは大口を開けてその発想はなかったという顔をし……それを見てか足音のフェーまでから、


「わふぅー……」


 と、そんな声が上がる。


「待って!? フェーちゃんにまでそんな声出されたら私泣いちゃう!?」


 そうして巻き起こるユウカがフェーを抱きしめ撫でまくるという騒動に背を向けたハクトは、何も言わずにリビングへと戻り……それから勝手に寛いでいるショウに声をかける。


「確かに凄まじい能力ですね。

 様々な分野に活用できそう……ですが、これだけで召喚者として食っていくのは難しいようにも思えます。

 何か宛てはあるんですか?」


「ご心配いただきありがたい限りだけどな、そりゃぁあるともさ。

 あの殻を要人警護の連中に売りつけるだけでどれだけの金になることか……。

 さっき先輩が言ってくれた分野にも売れそうだしなぁ、画期的素材が手に入ったって大騒ぎになるんじゃねぇの?

 こりゃぁ四聖獣間違いなしかなぁ?」


「四聖獣の仕事は国防ですから……多少の武力がないと話になりませんよ。

 実際、ショウさんもグラコロスも攻撃能力はないですよね?」


 と、ハクトがそう言うとショウは口を突き出して、露骨にふてくされる。


 そんな様子を見てハクトは、強い吐き気を感じて顔を青ざめさせる。


「え? そんなに? オレの茶目っ気そんなにダメ?

 え? マジで? あれ? お店じゃ結構好評なんだけどな??」


「……飲み屋とかですか? それは相手も仕事だから付き合ってくれているだけでしょう……。

 というか仮にも裏社会を覗き込んだいい歳の男が、そういったお店の営業トークを真に受けるのはやめてくださいよ」


 ハクトにそう返されたショウは項垂れ……項垂れたショウのことをグラコロスは、


「ぐげげげげ、ぐげーぐげ」


 と、鳴いて慰める。


「おお、よしよし、お前は可愛いやつだなぁ」


 なんてことを言いながらグラコロスを撫でて愛でたショウは……ふんっと鼻息を鳴らしてから、大股でどんどんと歩き、


「またな! 先輩!」


「ぐげげ!」


 と、グラコロスと一緒に声を上げて家から去っていく。


 一体何をしに来たやら、呆れるやら首を傾げるやらで何も言えなくなったハクトは、食器などを片付け……庭から戻ってきたユウカやフェー、グリ子さんを労うための新しいお茶を淹れる。


 そうこうしているとユウカ達がリビングに戻ってきて……ハクトがお茶を出していると、ユウカがグリ子さんの希望に従い、テレビをつけ……ニュース番組が流れ始める。


 それは各国で幻獣召喚が盛んになっているというものだった。


 この国は概ね被害を免れたが、他の国ではそうではなかった……だからその解決策を幻獣に求めた、ということなのだろう。


 実際そうやって求めてれば応じてくれるのが幻獣というもので、守護や精神的療養に影響のある幻獣が召喚されているようだ。


 その中には当然守護の幻獣グリフォンの姿もあり……その光景をグリ子さんは目を輝かせ、嬉しそうに……あるいは楽しそうに眺め、小さな尻尾を左右に振る。


「ふぅーむ……やっぱりグリフォンが増えるのは嬉しいことなのかい?」


 そんなグリ子さんに、お茶を持ってきたハクトがそう尋ねると、ベッドにフェーと一緒になって転がったグリ子さんは、


「クッキュン! キュン!」


 と、元気な声を上げる。


「そうだよねー、嬉しいよねー」


 そんな呑気な声を上げながらベッドへとよじ登りユウカがグリ子さんを撫で回す中……ハクトは一人、冷や汗を顔いっぱいに浮かべる。


 今グリ子さんはこう言った。


 世界中に手下がいれば、いざという時に役に立つ……と。


 それは召喚者であるハクトにだけ伝わってくる言葉で……ハクトはニュースを見やりながら更に冷や汗を増やしていく。


 以前、グリ子さんがグリフォンの女王ではないかと、そんなことを言われたことがあったが……仮に女王だとしたら世界中のグリフォンがグリ子さんの手下なのだろうか? 従うのだろうか?


 グリ子さんがそうせよと言った瞬間に世界中の……ポピュラーと言われる程の数、存在するグリフォン達が……。


「グリ子さん、お仲間に無茶を言うのはなしだよ」


 そのハクトの言葉はユウカやフェーにとって突然の……脈絡のないものだった。


「クッキュン!」


 だけどもグリ子さんはユウカ達のように首を傾げることなく元気に返事を返す。


「うん……本当にね、お願いだよ」


 更に繰り返すハクトにユウカ達は更に首を傾げるが……そのうち気にするのをやめて、お互い抱きしめあってお互いの柔らかさをたっぷりと堪能するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] そういえばグリフォンクイーンだった。 地上にグリ子帝国が顕現、しないか(^_^;
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