新種
召喚が無事に完了し、魔法陣の外で見守っていた課長が脇に抱えていた本を開き……ショウが召喚した幻獣がどんな幻獣なのかを、その本……幻獣図鑑で調べ始める。
その図鑑には古今東西、全ての幻獣が写真入りで掲載されていて……ハクトがグリ子さんを召喚した際、ユウカがフェーと契約した際にも内容の更新が行われていて、課長が抱えているのは、そんな図鑑の最新版であるようだ。
ページをめくってめくって写真と目の前の幻獣とを見比べて……そうして課長は、
「あれぇ??」
なんて声を上げて首を傾げる。
「……四足歩行の幻獣は近いページにまとめられているはずだから、登録されてさえいればすぐに見つかるはず……。
見つからないということは未登録の新種ということになるのかな。
……アルマジロの幻獣か、改めて考えてみると覚えがないが……うぅん、アルマジロの生息地になら何か情報があるかもしれないな」
そんな課長の様子を見やりながらハクトがそんな声を上げると、ポンと手を打った課長が電話での確認をするためか召喚施設から駆け出ていく。
それと入れ違いになる形でユウカがアルマジロ幻獣と触れ合いたいからか、駆け寄ろうとするが……そんなユウカの腕を取って制止したハクトが言葉を投げかける。
「風切君、あの幻獣が安全という保障は無いのだから近寄らないように。
具体的には魔法陣の中には入ってはいけないよ……これから様々な調査や検査が行われ、予防接種などをし、問題なしとなったら始めて触れ合えるから……それまでは遠くから見るだけにしなさい。
ああやって触れ合えるのは召喚者だけの特権みたいなものだね」
ハクトのそんな言葉を受けて慌てて駆け戻ってきたユウカは、
「そう言えば学院でそんなこと習いましたね……」
と、苦笑しながら声を上げ、照れ隠しなのかフェーを抱き上げぎゅっと抱きしめる。
「よく知られている幻獣を召喚したとしても、この辺りの処置は変わらないからね。
恐らく2・3日で終わるとは思うし……すぐに担当の職員が駆けつけるはずだ。
とりあえず俺達は施設の外に出て―――」
そんなハクトの言葉の途中で、ショウに絡みつき怯えた様子を見せていたアルマジロ幻獣が、光を放ち始める。
青い光、眩しくはない柔らかな光……一体何事だとハクトとユウカが魔力を練って警戒する中、グリ子さんとフェーは、
「クッキュ~ン」
「わふー」
と、それぞれ呑気な声を上げて、何が起きるのかとワクワクとしながら光の方を見やる。
そんなグリ子さん達の様子を見てハクト達は、グリ子さん達がこういう様子であるのならば、危険はないのだろうと判断して警戒を解き……そして、召喚後の処置を担当している医療用メガネにマスクに、防護服姿の職員達が駆けつける中、青い光が収まり……ショウとアルマジロ幻獣と、その幻獣の背中に張り付いているというか、抱きついている半透明の何かが視界に入り込む。
その何かはアルマジロ幻獣そっくりの姿をしているが、半透明かつ薄っぺらい抜け殻のような存在で……それを見てハクトは一言、
「脱皮?」
と、そんな声を上げる。
その声にはユウカも職員達も同意だったのだろう、ただの脱皮であれば問題ないだろうと完全に警戒と緊張を解いて……そして職員達は処置のためにアルマジロ幻獣に近付いていく。
そうして「処置を始めますね」と、そう言ってから職員達が幻獣へと手を伸ばすと……突然抜け殻が輝き、職員の手を弾き飛ばす。
それに職員達が驚く中、ショウが、
「お、おいおい、この人達は敵じゃねぇから大丈夫だよ。
そんな風に邪険にするなって」
と、声を上げるが……アルマジロ幻獣は、
「ぐげっ!? ぐげげげげ、ぐげー!」
と、どこか困惑した様子で声を返す。
「はぁん? これは勝手に動く、のか? 自動で……弾く? 防御?
え、何お前、そんな便利な道具作れんの? 脱皮する度に抜け殻が周囲の人や物を勝手に守ってくれんの? え? すごくねぇ? お前」
魔力的な繋がりでその声に込められた意味を理解したらしいショウがそんな声を上げると、職員達はざわつき……もしかしてこの幻獣は物凄い存在なのでは? と、色めき立つ。
そこに電話を終えた課長が戻ってきて……課長が大きな声で、
「どこにもアルマジロ型の幻獣の記録はありませんでした! 新発見の幻獣ですよ!」
と、そんなことを言うと、召喚施設は一気に騒がしくなっていくのだった。
それから5日が経って、大体の検査と予防接種と、能力に関する検証と実験が終わって、ショウとアルマジロ幻獣……グラコロスとショウが名付けた幻獣は自由の身となり、ハクトの家に挨拶にやってきた。
「いやぁ、グラコロスの力がとんでもないせいで検証に時間かかってよぉー、いや、ほんと参っちゃうよなぁ」
召喚された時と変わらずグラコロスを体に巻き付けながら、ソファにどかんと座ったショウが言葉を続けてくる。
「まずあれよ、脱皮! あの抜け殻はどんな攻撃でも……グラコロスが攻撃と判断したものなら5回まで弾けちまうんだよ。
物理的なもんでも、魔法的なもんでも、なんでも5回までな! 5回弾くとそれで終わり、綺麗さっぱり消えちまって何も残らねぇんだが……なんと脱皮は1日1回出来ちゃうときたもんだ!」
そんな言葉を聞きながらハクトはまずショウにお茶を出し……それから一応グラコロスの分もお茶も用意し、大きな器をショウの足元に置く。
「お? 1日で5回じゃ心もとないって思ったな? いやだねぇ先輩、グラコロス本体のことを忘れちゃいけねぇよ。
こいつの体はまさに鉄壁! 色んな検査器具で検査した結果、厚さ50cmの鉄板よりも硬い……かもしれない甲皮で囲われていてな、実際に試した訳じゃぁねぇが、人間が携帯出来るレベルの重火器じゃぁ傷一つつかない……かもしれないらしーんだよ。
いや、実際試してねぇよ? グラコロスが可哀想だから実際に試した訳じゃねぇが、お偉い先生方が計算とか検証した結果、そんな硬さになるんだそうさ。
ある先生なんか、でっけぇミサイルの直撃すら耐えるんじゃねぇかって言ってくださったんだぜ?」
お茶を受け取り、がぶりと飲んでそんな説明を続けるショウ。
ショウがあまりにも大きな声で騒ぐものだから、それを聞きつけたユウカ達がやってきて……人口密度が高くなっていくリビングで、更にショウの独演会は続く。
「しかも、し・か・もだ! グラコロス君はなんと! 再生能力持ってんだよぉ~、甲皮もそうじゃない部分も、どこでもあっという間に再生すると来たもんだ。
こいつほら、俺に抱きつくだろ? で、ちょっと爪が鋭いから切ろうとしたり削ろうとしたんだが、まぁーーー驚いたね! 先生方がどんなに硬いヤスリもってきてもダメなんだからよ!
幻獣産のヤスリでようやく削れたと思ったら、削った先から再生しやがって、いや、ほんと驚いたなんてもんじゃねぇよ? ミサイルの直撃にさえ耐えて、耐えながら再生しまくるってんだから手に負えねぇったらねぇ!
いやぁー……こんな凄い幻獣召喚しちゃってオレ、来ちゃったんじゃないの? 出世しちゃうんじゃないのー? これ?」
そう言ってショウがグラコロスの甲皮を優しく撫でると、グラコロスは嬉しそうに目を細め「ぐげげげげげ」と嬉しそうな声を上げ……そんな二人を見てハクトは一言、
「なんともお似合いの主従ですね」
と、そんな言葉を投げかけるのだった。
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