召喚!?
数日経っての土曜日。
午前だけの仕事を終わらせてハクト達が帰宅すると、玄関に一人の男の姿がある。
その男の名前は定目ショウ、最近になってよく姿を見せるようになったハクトの叔父で……特殊な、様々なことを見抜く目を持っている。
「よっ、先輩方、明日からよろしくお願いしますよ」
ショウはハクトの叔父で年上で、年齢も立場も上の人物で先輩と呼ばれたり敬語を使われたりする理由は一つもなく、ハクトが言葉の内容よりもそのことを訝しがっていると、ショウはハクトの肩を叩き、それから組んで、
「細かい話は家の中でな」
なんてことを言ってくる。
そのことを鬱陶しく思いながらも、グリ子さんの力にも結界にも反応していない点から、悪意は無いのだろうと考えたハクトは何も言わずにショウを家の中へと招く。
「クッキュンキュン」
いらっしゃいとグリ子さんもそんな声をかけ、それを受けてご機嫌で足を進めたショウは、ハクト達の手洗い足洗い、そしてうがいにも付き合い……それからリビングのソファへとどっしりと腰を下ろす。
そこにハクトが淹れたてのコーヒーを持ってくると、ふーふー冷ましながら飲み……それから口を開く。
「いやね、ここ最近の活躍ってのが認められてね、今度オレも幻獣を召喚出来ることになったのよ。
生まれは立派、教育も受けている、それでいてこの目があって活躍もして……変に名前も売れてきたから、自衛のためにってことでね、特別に許可が出たって訳さ。
んでだ、サクラ先生が幻獣のことはお前に習えってなことを言っていてな……召喚してからしばらくの間は、ハクト先生の監督下に入ることになったんだよ。
手間だろうけど、報酬も出るからよ、よろしくな! 先輩!」
ショウのそんな言葉を受けてハクトは、頭を抱えて言いたいことを整理する。
言いたいことがありすぎてどれから言葉にして良いやら悩むやら困るやらでハクトが頭を痛めていると、ショウがその内容を読んでか言葉を続けてくる。
「おっと、愛弟子に責任ある立場を任せたいっていう先生の気持ちも察してやれよ?
お前は良い生まれで良い教育受けて、良い幻獣に恵まれた持ってる側なんだから、そりゃぁ多少の責任は負わねぇと駄目だろうさ。
そんな責任負いたくねぇから今の仕事やってんだって思うかもしれねぇが、世界がこんな時にお前それは我儘ってもんだよ。
親戚の気の良い叔父さん一人の面倒見るくらいがなんだって怒られちまうぞ……それだけの力をお前さんは持ってるのさ」
そう言われてハクトは黙り込み……今度は何も言えなくなったことで頭を痛める。
以前のタコ騒動で国内の被害は軽微で、周辺地域の被害はほぼ皆無で……特に生活への影響もなく今日までの日々も至って平和に過ぎていた。
……が、世界を見ると被害は大きく混乱が続いている地域もあり、そんな時なのだから少しは力を貸して欲しいと言われると断りにくい。
その上、ショウの面倒を見るだけ……性格は軽いが悪人ではなく邪気もなく、先日の騒動ではかなりの活躍をし、多くの人を救うことになった重要人物でもある。
ずっとではなくしばらくの間、その面倒を見るだけ……監督をするだけ。
幻獣と共に暮らすための手続きを手伝い、アドバイスしてやり……しっかりと準備をさせれば良いだけだ。
それは少し前にユウカを相手にしたことでもあり……大した手間でもない。
「……まぁ、分かりましたよ。
そうすると……召喚は明日で、場所は役場ですか?」
そう考えてハクトがそんな言葉を振り絞ると、ショウはいつになく良い笑顔となって手を叩いて喜ぶ。
「よ! さっすが先輩! お大尽!
んじゃ、そういう訳で明日の10時、役場に来てくれや!
担当職員は課長さんで、先輩のことも話してあっから、来てくれりゃぁそれで良いはずさ。
……う~ん、明日が楽しみだなぁ、どんな幻獣が来てくれるやら……ドラゴンが来てくれたら一発逆転! 四聖獣・定目の誕生なんてことになるかもしれねぇなぁ!」
なんて調子の良い事を言ってショウは残りのコーヒーをぐいっと飲み干し、ひらひらと手を振りながら去っていく。
それを見送ったハクトはなんとも面倒くさそうにため息を吐き出すが……静かに様子を見守っていたグリ子さんはなんとも嬉しそうに、
「クキュン! クッキュン!」
と、元気な声を上げる。
新しい幻獣の仲間、初めての幻獣の後輩。
フェーはグリ子さんが生み出した存在であり、後輩とは言えず……全く新しい出会いにワクワクが止まらないらしい。
そんな様子を受けてハクトはもう一度ため息を吐き出し……、
「仕方ないなぁ」
と、そんなことを言いながら足元へとやってきたグリ子さんのことを撫で回すのだった。
翌日。
役場にハクトとグリ子さんと、話を聞いて興味津々やってきたユウカとフェーが到着すると、作業着姿の課長さんが入り口で待ってくれていて……その案内でハクト達は役場にある召喚施設へと足を向ける。
学院のものよりは簡素な魔法陣があり、その周囲には事故防止の結界があり、建物それ自体もかなり大きく頑丈に作られている。
同じく結界が張られたプールが側にあったりと、特定の環境で生きる幻獣にも配慮した作りとなっている。
そんな施設の魔法陣中央にはパリッとした新品のスーツを着込み、これでもかと整髪料で髪を固めたショウの姿があり……ハクト達の姿を見つけると、なんとも元気な様子で手を振ってくる。
ハクトはそれを見て厳粛な儀式を前に何をと片手で顔を覆い……ユウカは元気に手を振り返す。
そうこうしているうちに準備が整い、魔法陣に魔力が注入され……課長がショウの前に進み出ていくらかの確認と宣誓を行わせる。
召喚した幻獣を守ること、愛すること、法律を遵守すること、幻獣の力に見合った貢献をすること。
そうした儀式を終わらせたなら課長は静かに魔法陣から出ていき、ショウによる詠唱が始まる。
かなり簡素ながらしっかりと魔力と願いを込めた、そんな詠唱が行われると魔法陣が光始め……そして、軽い振動の後に光が溢れ、見事に召喚が成功する。
「ぐげっげげげげげげ」
直後響く鳴き声、何らかの幻獣の声と思われるそれは低く重く響くものであり……まさか本当にドラゴンが!? と、ユウカが驚く中、光がゆっくりと消えていってそれが姿を見せる。
「クッキュン!」
「アルマジロ?」
「わふー!」
グリ子さんとユウカとフェーの声はそれが有名な被甲目そっくりの姿をしていることを示していた。
まごうことなきアルマジロ、特に変わった様子もなく特徴らしい特徴もなく……あえて言うのなら体が大きいことが特徴だろうか。
頭から尻尾まで2mかそれ以上か……そんなアルマジロそっくりの幻獣は召喚が終わるなりショウに抱きつき絡みつき、
「ぐげー!?」
と、声を上げてなんとも怯えた様子を見せるのだった。
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