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世界のこと


 ハクトとユウカが真剣に、試験勉強に向き合う中、グリ子さんは少し離れた場所にちょこんと座り……静かに二人の様子を見守っていた。


 何も言わず何もせず、静かに微笑んで……暖かな目で見守って。


 そうやって二人のことを見守る中で、ふと参考書や教科書のことが気になったグリ子さんは、ユウカの側へとその丸い体をよじりながらにじり寄り……ユウカの隣に座り、そのふかふかな体をユウカに押し付けながらテーブルの上を覗き込む。


「あははは、グリ子さんもお勉強したいの?」


 グリ子さんに体を押し付けられ、同じくらいの力で押し返し、椅子をガタガタと揺らすユウカがそう言うと、グリ子さんは目を細めて「クキュン!」と声を上げてから、そのクチバシでこつこつと、テーブルの上で開かれている教科書のある箇所を突く。


 それを受けてハクトは、その箇所へと視線をやって……そこに何が書かれているのかを理解して、こくりと頷き声を上げる。


「ああ、その部分が気になるのか? 

 ……そこは幻獣の世界とこちらの世界がどうして似通っているのか……どうしてあちらにも酸素があり水があり、朝と夜があるのは何故かという論に関しての部分だな」


 こちらの世界と無数に存在する幻獣の世界。

 基本的にどの世界にも酸素があり水があり、生物がいて食物連鎖が存在して……朝があり夜があり……太陽と月が存在している。


 数え切れない程の、全く別の生命が住まい、生態が構築されている世界が存在しているというのであれば、酸素がない世界や水がない世界が存在しても良いはずなのに……どの幻獣を調べてみても、その生態を調べてみても、そういった形跡は見当たらない。


 都合が良すぎるとも言えるその事実に関しては様々な説が唱えられていて……神のような超越した存在が介在しているからだとする説だとか、どの世界もパラレルワールドであり幻獣召喚は別の地球から別の地球へと移動しているだけとする説だとか、そういった説をもとに議論が盛んに行われているが……結論は未だに出ていない。


 研究を前へと進めるために、どうにかして結論を出すために……幻獣を召喚するのではなく、幻獣の世界へと渡ろうとした研究者もいたが、そういった試みは全て失敗に終わっていて、何故召喚は出来るのにあちら側に渡る事はできないのかということにもまた、様々な説が唱えられている。


 ……と、ハクトがそんなことを説明していると、話を静かに聞いていたユウカが、手にしていたペンを口に当てながら声を上げる。


「……でも不思議ですよね。

 世界が違って生態が違って……そこからお客さんを召喚しているっていうのに、どうして疫病とかの問題は起きないんでしょうか?」


 ユウカがそう言ったのを聞いた瞬間、ハクトは苦い顔をし、その手で自らのこめかみをぐいと押して……ため息交じりの声を返す。


「……ユウカ君。その辺りに関しては以前、しっかりと教えたはずなんだがね?

 幻獣召喚はその幻獣だけを呼ぶ術式だ。

 菌やウィルス、寄生虫などといった『他の生物』は召喚されずに、あちらの世界に取り残されることになり……疫病といった問題が起きたことは古代から見ても一度も無いのだよ。

 その為、菌と共生がその生命維持に欠かせない幻獣は召喚を拒否するか、召喚され次第に食事などでそのための菌を懸命に摂取するものなんだ。

 実際にグリ子さんも、こちらに来てしばらくの間は、ヨーグルトや納豆といった、発酵食品ばかりを好んで食べていたよ」


 それを受けてユウカは、目を丸くしながらすっかり忘れていたという表情になり……隣のグリ子さんは、どういう訳か恥ずかしそうに目を伏せてもじもじと身をよじり始める。


「もしかしたら医学、化学が発展する前の時代に、菌やウィルスを発見する前の時代に、幻獣の世界から疫病が入ってきたことがあったのかもしれないが……それ以前から幻獣召喚は何度も何度も、数え切れない程繰り返されている。

 今となっては疫病も抗体もすっかりと定着していて、問題になったりはしないのだろう。

 それでも一時期、疫病のことを心配して術式に殺菌効果などを付与する動きもあったが……それについては幻獣からの不満の声が多く、撤回となったよ。

 ……ちなみにだがこの辺りもまた、以前にしっかりと試験勉強の一貫として教えてあるのだがね?」


 ハクトが更にそう言葉を続けると、目を丸くしていたユウカは頭をかきながら照れ笑いを浮かべて、どうにか誤魔化そうとする。


 それを受けてこと勉学の時に特別厳しい顔を見せるハクトは小言を言おうとする……が、ユウカが勉学を怠るような性格でないことを良く知っていたハクトは、忘れたくて忘れたのではないだろうと、何か他のことで忙しくて忘れてしまったのだろうと理解して、何も言わずに授業を再開させようとする。


 するとその様子を見ていたグリ子さんが、目を細めて微笑み……テーブルの上に山積みになっている教科書や参考書をちょいちょいとクチバシでつつき……本の山を崩し、崩した本を開き……開かれたページのあちらこちらをクチバシでしつこく、何度も繰り返してつつく。


 それは見方によっては勉強の邪魔をする悪質なイタズラのようにも見えたが……ハクトの目にはまるでグリ子さんが、ここを勉強しなさいと、この部分を忘れないようにしなさいと言っているかのように見えて……真剣な表情となってその箇所を見やり、そこに書かれている文章をしっかりと読んでいく。


「……ふむ。

 この組み合わせは……なるほど、確かに学院の教師陣であれば、こういうパターンで出題することはあるかもしれないが……」


 そう言って何度も何度も、繰り返しその部分へと目をやったハクトは……グリ子さんに従ってみるのも悪くないかと、グリ子さんが示した部分を中心にしての、ユウカへの授業を再開させるのだった。


お読み頂きありがとうございました。

続いた説明回はこれで終わりとなり、次回から色々とお話が展開していく予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 幻獣召喚、興味深いです! 無数の地球if説が好みです (o≧▽≦)ノ グリ子さんサイズでもりもり食べる納豆とヨーグルトは量が凄そうですね♪ 食べてる姿を見てみたくなりました (*´▽`*)…
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