デパ地下巡り?
午前中一生懸命に働いて……午後。
半休ということで一旦自宅に帰ったハクトとグリ子さんは、デパートに向かうための準備を始める。
ハクトは薄手のジャケットとスラックスに着替え、グリ子さんはかぎ爪カバーとクチバシカバー、それとマントを着用し……更にはスリッパのような外履きまで用意してもらう。
「デパートまではバス移動で……グリ子さんサイズの幻獣も乗れるバスは20分後くらいに来るはずだから、それまでにバス停に移動しとこうか」
着替え終わるなりハクトがそう言うと、目を大きく開きキラキラと輝かせたグリ子さんは、うんうんと体全体で頷き、鼻息荒く玄関へと向かう。
ハクトがそれを追いかけて玄関のドアを開けると、派手な柄のぶかぶかのパーカーのハーフズボンという、あまり見ない格好のユウカが笑顔で二人を待っていた。
街に出かける用のおしゃれ着なんだろうか? なんてことを考えたハクトは軽い挨拶をしてから歩き出し……三人でバス停へと向かう。
バス停で少し待ったならバスに乗り、どんな惣菜を買おうかとそんなことを話しながら到着までの時間を過ごし……到着したならバス停から数分歩く。
有名なデパートだけあってバス停がすぐ側に配置されていて、移動はあっという間で……デパートに到着するとグリ子さんは、唖然といった表情でデパートを見上げる。
上に高く横に広く、五階建ての立派なデパート。
玄関には幻獣の石像が飾られていて……その幻獣がグリフォンだったことでグリ子さんの唖然とした表情は喜び混じりの誇らしげなものとなる。
「あははは、まるでグリ子さんのお城みたいだね」
ユウカがそんなことを言うものだからグリ子さんはより誇らしげになり、パタパタとスリッパのような履物を鳴らして、デパートの中へと入っていく。
化粧品売り場を通り過ぎて幻獣用エレベーターへ。
中に入ったらボタンを押してみたいとせっつくグリ子さんのクチバシに操作を任せて地下へ。
エレベーターが地下に到着しドアが開くと……グリ子さんが今までに嗅いだことのないような様々な匂いがふんわりと漂ってくる。
その匂いに誘われるまま足を進めると、すぐにズラリと並ぶガラスケースが視界に入り込み……手近なガラスケースへと駆け寄ったグリ子さんは、その中を見やるなりその目をギラギラと輝かせる。
海老のマヨネーズ和えサラダ、ローストビーフのサラダ、多種多様な豆サラダに同じく多種多様なフルーツサラダに……タコと海鮮のカルパッチョサラダ。
「クッキュン!! キュン!」
商店街でも様々なサラダは見かけてきたけども、ここまで豪華で美味しそうなサラダは見たことがない! ハクト早速これ買おう!
と、そんな声をグリ子さんが上げていると、ガラスケースの向こうで笑みを浮かべていた店員が何かに気付いたような様子を見せてから、小皿を取り出し……グリ子さんが特に熱視線を向けていた、タコのサラダを盛り付けてからこちらへとやってくる。
「試食サービスをさせていただいていますが、どうでしょうか?」
そう言いながら店員がしゃがんでグリ子さんの前に小皿を差し出すと、グリ子さんはサラダを見てハクトを見て「え? 良いの?」という顔をし……苦笑したハクトが「良いよ」と言いながら、グリ子さんのクチバシカバーを外してあげる。
するとグリ子さんは何故だか恐る恐るといった様子で小皿にクチバシを近付け……鼻をスンスンと鳴らして匂いを確認してからそっとクチバシでもってサラダをはさみ、口の中に送り込む。
その味はグリ子さんが予想していたものとは全く別のものだった。
まずタコが美味しい、安物を使っていないからか、それ単体で美味しいと感じられるだろう確かな味と旨味がある。
野菜も当然美味しいし、他のグリ子さんには正体がよく分からない魚介も美味しいし……カルパッチョソースも、薄味ながら具材を上手く引き立てるこれ以上ない味となっている。
「キューン、クッキューン」
サラダでこれ? 一店目でこれ? 美味しすぎるでしょ。
と、そんな声をグリ子さんが上げていると……近場や少し離れた店からも店員がやってきて、グリ子さんに試食用の小皿を差し出してくる。
「……先輩これは?」
そんなグリ子さんと店員達の邪魔にならないよう距離を取ったユウカがそんな問いかけを投げかけてきて……それを受けてハクトは小声でその答えを返す。
「恐らく彼らはグリ子さんのことを知っているのだろう。
以前のタコ退治のこと、その後のグッズ展開……それとあちこちでグリ子さんがばらまいてきた羽根の効果も聞き知っているのかもね。
グリフォンを入り口に飾るデパートにグリフォンの加護というのは、宣伝にも利用出来るし……一石二鳥ということなのだろう」
「ははぁ……なるほど、抜け目ない人たちなんですねぇ……。
……ん? あれ? ここのデパートを選んだのって先輩でしたよね?
……もしかして先輩……狙ってました?」
「まさか……ここまでのことは狙っていないさ。
ただまぁ、多少のサービスをしてもらえたらって下心はあったかな。
ここまでという反応は……うん、嬉しい誤算かな」
「なるほどー……。
まぁグリ子さんは美味しくて嬉しい、お店は宣伝になって嬉しい……誰も損をしないのなら問題なしー、ですかね」
と、ハクト達がそんな会話をしている間にも試食用の小皿は集まってきていて、グリ子の食欲はどんどん満たされていく。
見たことのない豪華な中華料理に、ステーキやハムなどの肉料理各種、各地の名物や有名な弁当、デザートにドリンクなど、見境なしといった印象だ。
それらの料理をグリ子さんばかりが口に出来るものだから、グリ子さんはハクト達に申し訳ないなと、そんな表情をするようになり……店員達はそんな表情を汲み取ったのか、店員達はハクト達にも試食を勧めるようになる。
そうしてハクト達はまさかの歓待を受けることになり……一歩も店を巡ることなくデパ地下グルメの大体のチェックが終わってしまうのだった。
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