からあげ丼
「こっちがご飯で、こっちの深皿に唐揚げが入ってます、食べる前に乗せてください。
タレはこっちの容器に入ってますんで、こっちも食べる前にかけてください。
ご飯は炊きたてでまだ冷めてませんので、加熱の必要はないです、お早めにお召し上がりください……あ、それと漬物はこちらの小鉢です」
出前が到着し、いくつかの器の置かれたお盆を差し出しながら配達員がそう言ってくる。
それを受けてハクトは「分かりました」と返事をしながら受け取り、脇に置いてから支払いを済ませ……そんなハクトの隣でグリ子さんはハクトに身を寄せながら唐揚げと配達員を交互に、キラキラと輝く瞳で凝視する。
そんなグリ子さんに青年配達員は思わず頬が緩んだといった笑みを送り、グリ子さんを笑みを返し……そんなやり取りの後におつりを払い終えた配達員が去っていく。
玄関のドアを閉め鍵をかけ、それからおぼんを持ったハクトが台所へと向かい……以前作ってもらった爪カバーを装着したグリ子さんがそれを追いかけていって……ハクトが自分のご飯に唐揚げを乗せたりタレをかけたり……グリ子さん用の大きな深皿にご飯を広げたり唐揚げを乗せたりタレをかけたりの作業を、物凄い目で凝視する。
大きく見開き、先程とは全く違う輝きを宿らせ、らんらんと……今までに見たことのないような光を放つ。
そんな視線を軽く受け流したハクトは作業を終えて、お茶などの飲み物も自分の分とグリ子さんを用意し、それからリビングへと運んでいく。
するとグリ子さんはそんなハクトを追い抜く勢いで駆けていって……いつも自分が座っているクッションを定位置、リビングテーブルの側まで持っていってからそこに座り……ここに深皿を置けとばかりに鋭いクチバシでの素振りを行う。
シュッシュッと音を立てながら素振りをし、今すぐに食べたいとの欲をそうやって発散させて……それに苦笑しながらハクトは配膳を手早く終わらせて席につき、手を合わせてから声を上げる。
「いただきます」
「クッキュン!」
グリ子さんがそれに続き、直後クチバシが振り下ろされ唐揚げの一つを目にも止まらぬ早さでつまみ上げ……クチバシを動かし咀嚼してからごくんと飲み込む。
どうやらそれはタコの唐揚げではなかったようで、一瞬怪訝そうな表情をするグリ子さんだったが、すぐに美味しさが伝わったようで笑顔になり、それからハクトに声を投げかける。
「クッキュン、キュン?」
「え? 今のからあげは何かって?
んー……俺のと見比べてなくなっているのだから……ああ、普通の鶏の唐揚げだね」
するとグリ子さんは目を閉じて……今食べた唐揚げの味を思い出しているのかしばし瞑想をし、それから目を見開き「クッキュン!」と鳴いて……それから次の唐揚げをつまみ上げて食べる前にハクトに見せつけてくる。
「えっと……それは長芋だね、結構美味しいんだよ、長芋の唐揚げ」
そう返しながらハクトもグリ子さんが食べた順に唐揚げを食べていって……口の中のものを飲み下したタイミングで、グリ子さんの問いかけに答えていく。
「それはヒラタケ……それはイカ、それは……ん? なんだろ、待ってね、今食べて確認するから。
……ああ、モズクか、へぇ……モズクの唐揚げとは珍しいなぁ、ああ、うん、それがタコだよ、タコは多めにしてくれって注文の際に頼んだから他にも入っているはずだよ」
なんてことを言いながら食事を進めていき……そしてグリ子さんが最後の最後にとっておいたタコの唐揚げを食べたことで食事が終了となる。
唐揚げを食べて余程に美味しかったのかいつになく満足げな表情をし……それからコロンと転がり、膨らんだお腹を上にする形で寝転がるグリ子さん。
「……食べてすぐ寝ると牛になる……とは言うけど、グリ子さんがなることはなさそうだなぁ。
寝転んだ方が消化に良いのかもしれないし……まぁ、うん、程々にね」
なんてことを言いながらお茶を飲み干したハクトは片付けを始めて……丼や小鉢などを綺麗に洗ったなら、綺麗に水気を拭き上げた上で、それらを玄関の外に置いておく。
そうしておいてくれと配達員に言われていて……後々回収に来てくれるらしい。
その作業を終えてハクトがリビングに戻ると寝転がるグリ子さんの全身が……その羽毛や爪までがキラキラと輝いていてハクトはギョッとする。
グリ子さんの顔は変わらず満足げなもの、周囲におかしな気配も魔力の流れもなく……どうやらグリ子さん自身の魔力でその現象が起きているらしい。
ならば悪い現象ではないのだろうと理解し、あえて何の干渉もせず見守ることにしたハクトだったが……それでも不安は消しきれず、なんとも苦い顔をしながらそれを見守ることになる。
今食べた唐揚げ丼が原因なのか? それとも昼の鍛錬が? あるいはその両方?
なんてことを考えていると光が一点に収束していき……その一点、お腹の辺りから収束した光が移動し始め……段々とそれがグリ子さんの体を上っていき、クチバシへと到達し、
「ケキュンッ」
との声と共に吐き出される。
吐き出された光は丸い宝石のような……ビー玉のようにも見えるものへと変化していき、そしてそれがリビングの床にコロコロと転がる。
「これは……?」
そう言いながらハクトがビー玉を拾い上げるとグリ子さんが横目でビー玉を見やりながら声を上げる。
「クッキュン、キュン、クキュン」
「……今日食べたものと魔力を混ぜ合わせたもの? えぇっとそうなると風切君の師匠達の魔力と朝食と昼食と唐揚げ丼とグリ子さんの魔力がこれになったと?
……いや、魔力は良いとして朝食と昼食と唐揚げ丼って……。
えぇっと……それでこれはどう扱えば良いんだい? どこかに飾る? それとも捨てる?」
「キュンキュン、クッケキュン」
「……いざという時になったら砕けば良い? いや、砕いたら何が起きるんだい、何が……?」
ハクトがそう問いかけるもグリ子さんが答えを返すことはなく、それから大あくびをしたグリ子さんは目を閉じて……スピスピと寝息を立て始めてしまうのだった。
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