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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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予言


 ユウカ達の演習というか稽古というかが終わり、それぞれ運動後のストレッチを始めて、日が傾き柔らかな風が吹き始めた折、なんとも言語化しにくい違和感を覚えたハクトがベンチから立ち上がる。


 魔力を練り糸を展開し、そうしながら周囲を警戒する……が、特に変わった様子はなく、運動場に張られた強固な結界は揺るぐことなく落ち着いた様子を見せていて……ハクトは今の違和感は一体何なのだろう? と、首を傾げる。


 フェーやユウカ、男達も違和感を覚えたらしく周囲を警戒していて、グリ子さんだけが魔力をたくさん食べられたからか満足げな顔をしていて……そこに大きな羽音が響いてくる。


「これは……」


 聞き慣れたその音が違和感の正体なのだろうか? なんてことを考えながらハクトがそんな声を上げていると、羽音に続いて男の悲鳴が聞こえてくる。


「うぉぉぉぉぉぉ!?」


 またも聞き慣れた声、その声の主の方を……青く広がる空の方を見やると、ブキャナンの両足に両肩を掴まれ、なんとも乱暴な空の旅を味わうことになっているらしいハクトの叔父であるショウが姿を見せる。


「大僧正、何事ですか?」


 そんなショウのことを無視したハクトがブキャナンに問いを投げかけると、ゆっくりと高度を下げ、結界を通り抜けて運動場へとやってきて、ぐったりとするショウをそこらに投げ捨てたブキャナンが声を返してくる。


「何が起きたか、それはあたくしにもよく分かりやせん。

 が、恐らくという予想をすることが出来まして、またぞろ例のやつらがこちらへと入り込もうとしたようでやすね。

 しかしてこちら側も連中をやすやすとこちらに通してしまっては赤っ恥、複数の幻獣による抵抗をし、見事防いだ……というところかもしれやせんねぇ。

 あたくしがこちらに参りましたのは、ハクトさんやグリ子さんなら、先程の違和感に何か思うところがなかったかと考えたからでして。

 何しろグリ子さんは、連中の魔力を捕食という形で奪った御方ですから、何か……ありやせんかね?」


 そう言ってブキャナンは腰を曲げ、揉み手をしての無駄に卑屈な態度を見せてきて、一体何をやっているんだとハクトが呆れる中、満足げな顔で両翼を振り上げたグリ子さんが、カカカッと歩いてからくるりとハクト達の方へと振り返り、なんとも言えないポーズを見せてくる。


「クッキュンキュンキュン、キュキュキュン、キュン!」


 それから軽快な声、まるで歌っているかのようなそれはハクトが今までに聞いたことのないもので……それに込められた内容にハクトは目を丸くする。


「ハクトさん? グリ子さんはなんと? あたくしには今ひとつ聞き取れなかったんですが……?」


 目を丸くしたまま硬直していたハクトに、ブキャナンがそう問いかけ……ユウカや男達が何事かと集まってくる中、ハクトは驚きを隠さずに口を開く。


「グリ子さんが言うには、連中はまたこちらにやってくるだろうと……大体4日後辺りに来るだろうということです。

 以前よりも強力な個体が何千か何万か……前回のように世界中で、ということになるのでしょう。

 ……それで、その、グリ子さんが言うには、相手はあの……敵性生物の騎士であると」


 敵性生物……以前現れミニグリ子さん達に捕食されたタコ達。


 その騎士がやってくるようだよと、グリ子さんは伝えてきていて……ブキャナンもユウカも、どうにか立ち直ったショウも目を丸くしてのなんとも言えない顔をする。


 タコの騎士とは一体どんな存在なのか……それは以前のタコと比べてどの程度の存在なのか、強さなのか……。


 そんな疑問をハクトを含めた一同が抱いているとグリ子さんが更に声を上げてくる。


「クキュクッキュン、クキュキュン、キュン」


「えぇっと……油断しなければ大丈夫だと、そんなに強い相手ではないけども、前回よりは強い相手だそうです。

 ……大僧正、前回結構な被害を出した所もあったんですよね?」


 ハクトが翻訳ついでに問いを投げかけると、ブキャナンは焦りを隠さずショウの下へと向かい、またもその肩を掴んでの飛行準備に入る。


「ハクトさん、あたくしは各方面へ今の予言についてを知らせてきます。

 あくまで予言、100%信じる訳じゃぁねぇですが、グリ子さんの言うことであれば知らせる価値はあるでしょう。

 信じて何事もなければ笑えば良し、信じて被害が少しでも防げるなら尚良し、予言についてはあたくしの名前で広めますんで、外れたとしてもそちらにご迷惑はおかけしやせん。

 ……この辺りの防衛に関しては皆々様にお任せいたしやすので……ご武運を」


 と、そう言ってブキャナンは飛び上がりショウが悲鳴を上げる。


 飛び上がったブキャナンは翼を振るって結構な速度で空の向こうへと去っていき……ショウの悲鳴もすぐに聞こえなくなる。


 それを見送ってからハクトは、課長にこのことを知らせるべく撤収準備を始め……ユウカもそれに続き、男達も手早く片付けや運動場の掃除などを始める。


 そんな中ユウカは、のんびりと夕日を見上げているグリ子さんに作業を進めながら声をかける。


「グリ子さん、タコの騎士って強いのかな? 私達でも勝てるのかな?」


「クキュクッキュン」


 笑顔で軽い声を返すグリ子さんを見てユウカは、その声に込められた意味をなんとなく察する。


「うん、私達なら余裕だよね! がんばろう!」


 実際にはグリ子さんは「きっと前のタコより美味しいに違いない」と、そんなことを言っていたのだが……グリ子さんも側で話を聞いていたハクトもあえて訂正はせず、作業を進め……着替えを済ませたなら役所へと向かう。


 そしてグリ子さんではなく、ブキャナンの予言という形で4日後の襲撃のことを伝える。


 それが終わったなら念のためにサクラ先生へ電話をするために帰宅し……電話を終えたハクトはもう一度受話器を取り、別のところに電話をする。


「クキュン?」


 ハクトの側でちょこんと座り、静かに様子を見守っていたグリ子さんは、どこに電話するの? と、そう問いかけ……ハクトは電話番号確認のために手にしていたチラシをグリ子さんに見せる。


 そのチラシには『出前承ります』『天丼、唐揚げ丼が大人気』などの文字が書かれていて……そして唐揚げ丼の側にはタコのイラストが掲載されている。


「ここの唐揚げ丼にはタコの唐揚げが入っているらしいよ。

 これを食べて英気を養って4日後に備えないとね」


 と、ハクトがそう言うとグリ子さんは、昼間に溜め込んだ魔力を放出させてしまう程に喜び、キラキラと金色の輝きを散りばめながら全身を使っての小躍りを披露するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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