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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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試練の時



 一週間後、改めて調整をし、グローブなどの追加で作った装備を身につけてユウカが運動場のグラウンドに立っている。


 スーツと同じ色の、指を含めた手全体を包み込むグローブと……鉢金は流石にあんまりだろうと、サクラ先生が特別に魔力を込めて作った髪留めと、イヤーカフというアクセサリーをつけて……靴下や靴もキックを考慮した作りとなっている。


 そんなユウカと相対しているのはハクト……ではなく数人の男達で、ハクトは隅のベンチでグリ子さんとフェーにブラッシングをしてやりながら、ユウカ達の様子を静かに見守っている。


「クキュン」


 そんな中グリ子さんが心配そうに声を上げ……、


「そうだね、怪我しないと良いね……どうやら風切君は本気を出すつもりみたいだしねぇ」


 ハクトが続く。


 グリ子さんの心配そうな瞳はユウカに向けられていたが、ハクトの瞳は男達の方へと向けられていて……それに気付いたグリ子さんが半目での視線をハクトにやるが、ハクトはやれやれと首を左右に振る。


 ユウカの前に立っている男達とは、ユウカが通っていた道場の師範や師範代、兄弟子達だった。


 半ば強制的に社会人となったユウカのことを心配していて……実力はあるものの、まだまだ未熟なところがあるユウカをなんとかしてやりたいと考えていて、そうして今日ユウカのために本気での手合わせでもって、ユウカにその辺りのことを教えてやろうと考えていたらしい。


 だが今の男達は、本気の……国宝級の装備を全身に身に着けたユウカを前にして完全に萎縮してしまい、震え上がっている。


 自分達の道着も幻獣の毛を編んだものではあるが、明らかに込められている魔力が別格で、価値も強度も別次元で……実力だけなら道場一であったユウカがそんな装備を手に入れてしまったということに、彼らはただただ震えることしかできない。


「押忍! よろしくお願いします!!」


 だがユウカはそのことに気付かない。


 師範が、師範代が、先輩達が……自分のことを心配して自分のために特別に特訓をつけようとしてくれている。


 そのことを喜び、感動し、目をうるませているだけで……目の前の男達の顔色が悪いことに全く気付こうともしない。


 そんなユウカを前にして男達は更に怯むが……ユウカをそう育てた当人達でもあるので、今更逃げることは許されず、覚悟を決めて構えを取り……そして陣を組む。


 10人程の男達が立ち位置で円を描き、円の内側や外側に立って陣を作り出し……それを見てハクトはポツリと声をもらす。


「これはまた珍しいことを……」


「キュン?」


 ハクト、知っているのか、とでも言いたげなグリ子さんの声にハクトは頷いて声を返す。


「実戦で使われることはほとんどないのだけど、ああやって陣を組むことで、お互いの精神と言ったら良いのか、魔力の流れと言ったら良いのか……とにかくそういったものを繋げることが出来るんだ。

 繋げてお互いの魔力を流し合えば魔力の流れが加速して、いつも以上の力を発揮出来る……という訳だね。

 何も陣を組む必要はなくて、手をつなぎ合うとか抱き合う、背負うなどの直接的な方法で繋がっても似たような効果が得られるんだ。

 ……人は一度、幻獣達との繋がりを聖櫃の力によって失ったことがある。

 また似たようなことが起きて幻獣を失って……それで何も出来ずに社会が崩壊したでは困るからね、ああいった技術の研究は国からも推奨されているんだよ」


「キュンキュン! クッキュン、ククキュン?」


 それは凄い! その力があればユウカちゃんとも戦えるの? とグリ子さんが言葉を返すと……ハクトは沈痛な面持ちで首を左右に振る。


 陣を使った魔力向上術、陣方は陣を組んでいる間は効果を発揮するが、陣が崩れたなら……陣から離れたなら、その効果が失われてしまう。


 ユウカの力があれば陣を崩すなどあっという間に出来るはずで……むしろユウカのような存在を相手にする場合には推奨されない戦法だ。


 一応陣が壊されたり、陣から離れてしまったりしても数秒は効果が持続するが……その数秒で出来ることは少ないだろう。


「……そんなことは彼らも承知の上だと思うのだけど、一体全体どうして陣方を使おうとしたのやら……」


 説明を終えたハクトがそう呟いた瞬間、嬉々とした表情のユウカが駆け出し飛び上がり、男達へと襲いかかる。


 すると男達は陣の中で魔力を高め……高めに高めてから地面を蹴って散開し、それからユウカと互角以上の戦闘を……地面を蹴り宙を蹴り、まるで自由自在に空を舞い飛んでいると誤解しそうになる見事な戦いを披露してみせる。


 その光景はハクトにとって全くの予想外のものだった。


 溜め込んだ魔力で数秒打ち合えるだけなら分かるが、既に一分以上の時間が経過していて……それでも男達は全く問題なくユウカと打ち合っている。


 拳を激しくぶつけ合い、その衝撃で周囲の空気を揺らし、そうしながら宙を蹴ってどんどんと浮き上がり……はるか上空で激しい衝突音をさせ。


 男達が腕も足も頭も使っての激しい攻撃を繰り出し、それを全て防ぎ受け止めたユウカが渾身の拳を突き出し、それを回避した一人の男は、回避しそこねたもう一人の男の手を取り引っ張ってやって……他の男達はお互いの足を蹴り合ったり、時にはお互いの腹を殴り合ったりすることで吹き飛び、攻撃を回避し移動をする。


 そんな光景を見てハクトは、まさかと思いながら目を細め……男達の魔力の流れをじぃっと見やり、それから「なるほど」とつぶやき小さなため息を吐き出す。


「クッキュン?」


「わふー?」


 するとグリ子さんとフェーがどういうこと? と訪ねてきて、ハクトは戦いの行方を見守りながら言葉を返す。


「つまり彼らは戦闘中のほんの一瞬の接触で、陣と同じ効果を得ているらしい。

 全くそんな一瞬でよくそんな器用な真似をと驚いてしまうが、魔力の流れを見るに対戦相手である風切君にも似たような行為を仕掛け……そして風切君の魔力を奪っているようだ。

 ……対人戦を得意としている道場だとは聞いていたが、なるほど、それも納得だ。

 暴徒鎮圧においてはこれ以上ない戦いとなるだろうなぁ……。

 問題があるとすれば同じ道場出身の風切君もその戦い方についてをよく知っていて、カウンターや逆利用される危険性があるということだが……」


 と、ハクトがそう言った瞬間、まるでそのことを思い出したかのようにユウカの動きが変わる。


 結果男達は追い詰められていき……それでも負けてたまるものかと男達は、何か奥の手でもあるのか、動きを変えて一箇所へと集まっていくのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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