表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

136/272


 数日後の祝日。


「クッキュ~ン」


 ハクトが車を買う宣言をしてからと言うもの、グリ子さんはテレビで車関連のCMが流れる度にそんな声を上げてうっとりとしていた。


 もしあの車に自分が乗ったらどうなるか、どんなドライブが出来るのか。


 どうやらそんなことを考えているようで……その目は番組よりもCMに釘付けだ。


 昔は人間専用の乗り物とされていた車も、今では幻獣と一緒に乗るのが当たり前になっていて、その形や大きさは多種多様だ。


 座席やシートベルト、エアバッグなども幻獣に合わせてのカスタムが可能で、種族によってはヘルメットや防具など、バイクかと思うような装備も用意されている。


 グリ子さんの体格の場合、後部座席部分全てを使った特殊座席を用意したらなんとかなりそうで……実際ハクトはそういったパンフレットを集めていた。


 乗用車かバンなんかなら十分いける、カスタム費用もそこまでではないようで……衝撃に強いふんわりボディのグリ子さんなら、特殊な防具も必要ない。


 十分過ぎる予算があることから、ちょっとした高級車を買うことすら可能で……そんな状況がグリ子さんの心をこれ以上無く弾ませていた。


「買えるとしてもいきなり高級車は買わないよ? 初心者のうちはどこかにこすったりするだろうからねぇ」


 リビングにやってくるなりハクトはそう釘を差してきて……グリ子さんは気にすることなく、CMを眺めて堪能する。


 なんとも残念なことにCMはすぐに終わってしまうのだが、それでも待っていればまたすぐに放送されて……そうしてまたもCMに熱中するグリ子さんにハクトは苦笑しながら声をかける。


「じゃぁ今度モーターショーとかあったら行ってみようか。

 免許を取れるのはまだまだ当分先のことで試乗とかは出来ないけど、見るだけなら免許がなくても出来るからね。

 それで気に入った車が見つかれば、それの購入を検討しようか」


 するとグリ子さんは目を大きく見開きながらコクコクと頷いて……それからハクトの方へと熱視線を送り始める。


 その熱視線はリビングの隅に置かれた棚にある、自動車学校の資料にも向けられていて……そうしてからグリ子さんは声を上げる。


「クキュンクッキュン」


「……早く免許を取った方が良いよ、か……。

 まぁ、うん、その通りだね」


「クッキューン」


「ちゃんと免許を取れるか? まぁ、問題ないと思うよ。

 頭はそれなりに良い方だし……運動神経とかもまぁ、悪くないほうだしね」


「キューン」


「……うん、大丈夫だから、そんなに心配しなくてもなんとかするから……。

 っていうか、グリ子さん、そんなに車を楽しみにしてくれるとは思ってもいなかったよ、車のこと好きだったのかい?」


「キュンクッキュン」


「自分の……マイ電車みたいなものだろって?

 ああ、そうか……グリ子さんは初めて乗った乗り物が電車だったからなぁ。

 電車ありきの思考になる訳か……。

 いや、うん、出来る限り安全運転するつもりだけど、電車程乗り心地がよくないというか、そこまで快適ではないから、期待しすぎないようにね?」


「キュ~ン」


 そんなことは分かっていると、そう言ってからグリ子さんはまたもテレビに夢中になり……ハクトはまたも苦笑してから家事を行っていく。


 そうやって時間が流れていって……日が沈み始めた頃、隣家から賑やかで騒がしい声が聞こえてくる。

 

 どうやらユウカ達が帰宅したらしく、まるで電源が入った機械かと思う程に音と熱気が隣家から伝わってきて……どうやら楽しかった旅行の思い出を存分に語っているらしい。


 アレが良かったコレが良かった、また行きたい、今度はどこそこにも行きたい。


 そんな風に盛り上がりに盛り上がったなら、音と熱気を引き連れたままこちらへと駆けてきて……玄関へと到達したならチャイムが鳴らされる。


 それを受けてハクトとグリ子さんが玄関へと向かうと、妙に日焼けした姿で満面の笑みを浮かべるユウカの姿があり、その両手にはいっぱいの土産ものが入っているらしい紙袋が抱えられていて、


「はい、お土産です!」


 と、そう言ってそれらをぐいと差し出してくる。


「気を使わせたようで悪かったね、ありがとう」


「クッキュン」


 と、そう言いながらハクトがそれを受け取り、一旦足元に置くと、グリ子さんは興味深げに袋の中を覗き込もうとし始め……直後、何かが聞こえてきたのかピンと耳を立てて羽毛を逆立たせ、物凄い勢いでリビングへと駆け戻っていく。


 その直後、車の名前を力強く呼び上げるTVCMの音が漏れ聞こえてきて……ハクトがそういうことかと苦笑していると、ユウカが大きく首を傾げる。


「なんですか? 車のCMがどうかしたんですか? あ、何か面白い番組やってるんですか? それが良い所でCMに入っちゃったとか?」


 首を傾げながらそんなことを言ってくるユウカに、ハクトは一瞬悩んでから、どうせ知ることになることだからと心に決めて、ゆっくりと口を開く。


「なに、今度車を買おうと思っていてね、それでグリ子さんはどんな車種にしようかとTVCMの虜になっているんだよ。

 まだ免許もないし、いつ買うかも決まっていないんだが……グリ子さんの中では、もう手に入ったも同然のようだよ」


 そんなハクトの言葉を受けてユウカは目を見開く。


 見開いたままリビングの方を見て、ハクトを見て、またリビングの方を見てハクトを見て……それから大きな声を張り上げる。


「先輩ってもう免許取れるんですね!?」


「……うん、そうだね、君の先輩だからね、どうしてもそうなるだろうね……」


 変にズレた驚きの声を上げるユウカにそう返したハクトは、まだまだ先のことだよと念押しをしてから改めての礼を言い、紙袋を抱き上げる。


 そうしてハクトはもう家事に戻ると、だから君も家に帰りなさいと態度で伝えようとした……のだが、ユウカにはそれが通じず、見開いた目をキラキラと輝かせ、興奮しているのかソワソワとし始め、そしてそのまま玄関へと上がり、リビングの方へと駆けていってしまう。


 ハクトがそれを追いかけるとユウカはグリ子さんに抱きつき頬ずりしながら一緒になってTVCMを見つめていて……、


「どの車が良いのかなー、これなんか可愛いよねー」


「クッキュン!」


 と、まるで自分たちの車を買うが如く真剣さと熱心さで、あれこれと語り合い続けるのだった。


お読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ