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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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コミュニケーション


 グリ子さんがドラゴン達を受け止めるために駆け出したことにより、グリ子さんの上に立っていたフェーは投げ出される形となってしまう。


 投げ出され地面に着地し、尚も警戒心から毛を逆立たせて……そうやって周囲を見回していると、一匹のドラゴンが興味深げな様子でフェーの近くへと駆け寄ってくる。


 他のドラゴンと違って艷やかな白に近い薄紫の鱗、ゆるやかに曲がった角は片方が折れていて、首と尻尾にネックレスのようなアクセサリーを巻き付けている。


 そんなドラゴンに近付かれてフェーはより警戒心を強くして、毛を更に逆立たせるが……ドラゴンは気にせず近付いてきて、フェーのことが気になるのか、鼻を突き出して匂いをかいでくる。


 それを受けてフェーは更に毛を逆立たせ、逆立たせるだけでなく伸び上がって仰け反り、距離を取ろうとするがドラゴンはどんどんと近付いてきて……そうしてフェーは近くにいるハクトへと視線を送って助けを求める。


 だけどもハクトは何もしてくれない、そもそもここに来た目的はフェーが他の幻獣と触れ合うこと、しっかりとコミュニケーションが取れるようになるためであり……ここで余計な手出しをしてしまっては意味がなくなる。


 ユウカは近くにおらず、グリ子さんは他のドラゴン達と遊んでいて……タダシもまたハクトのような態度を見せていて、そうしてフェーは仕方なしに、他に道はないからと覚悟を決めて……毛を逆立たせながらも鼻を突き出し、白いドラゴンに応えようとする。


 そうしてお互い鼻を突き出し、匂いを確認しあい……威嚇も攻撃もされなかったからか、逆立っていたフェーの毛がだんだんと落ち着いてくる。


 すると白ドラゴンが会話を求めているのか「がぁ」との声を上げ……それに思いっきり怯んでしまったフェーは、それでも負けてたまるものかと「わふー!」との声を返す。


 そうしてくれたのが嬉しかったのか白ドラゴンはがぁがぁと声を上げながらフェーの側へと近寄り、フェーはそれに驚き距離を取ろうとし、白ドラゴンが追いかけ、フェーが逃げて……ただ逃げるのが悔しかったのかフェーは、白ドラゴンの背後を取ろうとし……お互いを追いかけ合ってぐるぐると円を描き始め……次第にそうするのが楽しくなってきたのか、フェーもドラゴンも楽しげに声を上げながら周囲を駆け回り始める。


「……やっぱり他の種族と交流させるなら幼いうちが一番ですねぇ」


 その光景を見てタダシがそう声を上げて……ハクトはフェー達のことを視線で追いかけながら言葉を返す。


「そういうものなのですか?」


「えぇ、人間の子供も幼いうちは、余計なことが気にならないというか、あれこれ考えずに近くにいる子と仲良くなったりするじゃないですか。

 幻獣もそういうもののようで……ただそれでも本能が邪魔をするのか、どうしても警戒感が先立ってしまい、ドラゴンと仲良くなれる幻獣はとても少ないのですが、フェー君は上手くいったようで何よりです。

 こうやってドラゴンに慣れていけば、ドラゴンと組む仕事や、ドラゴンとやり合う仕事なんかをやりやすくなることでしょう」


「……なるほど。

 フェーはグリ子さんの魔力を受け継いでいますから、それでドラゴン相手でも平気だったのかもしれませんね。

 まぁ、ドラゴン関連の仕事をするにはもう少し成長する必要がありそうですけど……」


 と、ハクトがそんなことを言った折、たくさんのドラゴン達を受け止めていたグリ子さんが、ミニグリ子さんを生み出し……ミニグリ子さんでもってドラゴン達を遊び始める。


 自分だけでは相手しきれないと思っての判断だったのか、カラフルなドラゴン達とカラフルなミニグリ子さん達が入り混じって、ふれあい広場が色鮮やかになっていく。


 そこをユウカとドラゴン達が駆け抜けていき、フェーと白ドラゴンも駆け抜けていき……いつもとは違う賑やかさに惹かれたのか、施設の中からドラゴン達がちょこちょこと顔を出し、ふれあい広場へとやってくる。


 そうして賑やかになっていき……そこであることが起きてハクトとタダシは目を丸くすることになる。


 最初に起きたのは白ドラゴンが空へと飛び上がったということだった。


 増していく賑やかさの中で気分が盛り上がったのか、背中の小さな翼を大きく広げて、パタパタと魔力を振りまきながら飛び上がり……そして次に起きたことがハクト達を大いに驚かせた。


 白ドラゴンと遊んでいたフェーが、白ドラゴンを追いかけるかのように空へと飛び上がったのだ。


 飛び上がったというのは正確ではなく、空中をその足で踏んで駆け上がったという感じなのだが……どうもフェー自身は自分が空を駆けていることに気付いていないらしい。


 空を駆けたとなれば……今までに出来なかったことが出来たとなれば、相応に驚いて良いはずが、全く驚いていない、白ドラゴンと遊ぶのに夢中で気付いていない。


 白ドラゴンしか目に入っていないとばかりに空を駆け続けて……疲れたのか白ドラゴンがゆっくり地面に降り立つと、それを追いかけて降り立って……そのまま普通に地面を駆け回っている。


「フェー君は一体どんな幻獣なんでしょうねぇ……」


「空を駆ける犬型の幻獣は……まぁ、いないでもないですが……それだけだとなんとも言えませんね。

 それこそ本当にフェンリルの可能性も……」


 目を丸くしたままのタダシがそう呟くと、ハクトがそう返し……タダシは更に目を丸くしてフェーのことを見やり、言葉を返す。


「仮に本当にフェンリルだったならかなりの騒ぎとなりますよ?

 ただでさえ金羊毛羊の件があるのに更にフェンリルとは……」


「……まぁ、フェンリルそのものというよりかは、類似種の何かだとは思いますが……。

 流石に伝説に名高いかの存在そのものではないはずです」


「……まぁ、たしかに、伝承では狼でしたし……フェー君は狼とは少し違いますからね。

 えぇっと……類似種となると、確か鉄の森の老婆だか女巨人がフェンリルの一族を生み出した……んでしたっけ。

 ……その一族か末裔か……それの類似種として生まれたか、再現したか……。

 グリフォンとは縁遠いのが気になるところですね」


 なんてことを言うタダシに対しハクトもまた、あれこれと自分の中に中にある知識を語り……そうして二人はユウカやフェー達が遊び飽きるまでの間、延々とフェーについての考察を語り続けるのだった。



お読みいただきありがとうございました。

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