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毛玉幻獣グリ子さん  作者: ふーろう/風楼
第三章

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主孝行


 翌朝。


 まだ日が明けたばかりの早い時間に、ユウカと同じベッドで寝ていたフェーはユウカより早く目覚め、首を傾げながらユウカのことを見つめていた。


 思わず敬意を抱いてしまう程の力を持っていながら、それを上手く制御出来ず、ちょっとしたことで周囲を壊してしまう不器用さも持っていて……ユウカほどの実力者が何故そんなことに? と、フェーは不思議で仕方ないようだ。


 パジャマ姿でスヤスヤと寝ているユウカのほっぺたにそっと触れてみて、魔力の流れを確かめてみて……寝ている時は特に問題ないし、外出時も問題ないのだが、この家の中だけでは……家族の前だけでは、どういう訳か油断が過ぎて制御を失ってしまうようだ。


 油断しているというか甘えているというか……この家の中だけでは素の状態でいられるというか。


 それ自体は悪くないことなのかもしれないが、それで家を……こんなに豪華で快適な巣を壊してしまうのは勿体ないと、そんなことを考えてフェーは、ユウカの肩に張り付く。


 そうやって張り付いたなら卵だった時のようにユウカの魔力を吸い上げ、程々の調整が出来る程度に弱らせ……それからすぐ肩から離れるが、ユウカの回復力と体力がそうさせるのか、すぐに魔力が元の量まで回復してしまう。


 それを受けてフェーは毛を逆立たせて戦慄する。


 我が主の器は一体全体どうなっているのか……喜ばしく思うと同時に恐ろしくもあり、毛を逆立たせたままフェーはユウカの肩に張り付き、魔力を吸い上げていく。


 吸い上げて吸い上げて、全く底が見えずに吸い続けて……そうしているうちに両親が目を覚ましたのか家の中が活気づき、様々な生活音が聞こえてきて、それを耳にしたユウカが目を覚ましてしまう。


 目を覚まして自分の上にかかっていたタオルケットを勢いよく蹴飛ばして、思いっきり上半身を伸ばしながら起き上がり、それから自分の肩に張り付くフェーの存在に気付く。


「フェーちゃん、おはよう!

 ……寝ている間に張り付くなんて、今日は甘えん坊さん?」


 ユウカのためにやっているのに! 


 幻獣の心主知らず……フェーは表情で抗議をするがユウカがそれを受け止めることはなく、いつも通りの態度で部屋を駆け出ていって、洗顔や着替えなどの身支度を済ませていく。


 その間フェーは邪魔にならないようにと肩から離れることもあったが、それでもできるだけ張り付くようにして、ユウカの魔力を少しでも多く吸い上げ、安定化させようとし続ける。


 それに気付くことなく身支度を終えたユウカは、両親と一緒に朝食まで済ませてしまって……そして両親はあっさりとそのことに気付いてくれる。


 ユウカが物を壊さない、フェーの保有魔力がどんどん増えている、心なしかフェーの体が膨らみ続けているような気もする。


 フェーがどんな存在なのか、どんな力を持っているのかが分からなくとも、それらが示しているのは明白な事実で、両親は内心で……決して顔には出さず安堵のため息を吐き出す。


 ひとまずこれで余計な心配をする必要はなくなった、これからフェーは常にユウカの側にいる訳だし、これからはフェーがなんとかしてくれるのだろう。


 幸いにしてフェーはユウカの魔力から生まれた幻獣、ユウカの魔力を吸い上げることを苦にせず、魔力の親和性が高く、これからの成長のために魔力を必要としてもいる。


 ユウカの魔力を吸い上げるのにこれ以上ない存在で……都合が良いにも程がある。


 そうして両親が深く安堵し、フェーもまた両親やユウカが自らの行いを受け入れてくれていることに安堵し、ユウカだけが何にも気付くことなく呑気に朝食を進めていて……朝食を終えたなら歯を磨き、もう一度の身支度をし、フェーを連れてハクトの家に向かうため家から駆け出ていく。


「行ってきます!」


「わふー!」


 そんな声を二人で上げて元気に駆けて……駆けるまでもなく一瞬で目的地に到着して。


 もうユウカに張り付く必要はなく、地面に降り立ったフェーとユウカが玄関に到着すると、ハクト達がすぐに出迎えてくれて……フェーはハクトの一瞬の視線の動きで、ハクトが大体の事情を察したことを理解する。


 ち、気付きやがった、なんか悔しい、なんか納得いかない。


 そんなことを考えながらフェーは顔をしかめるが……すぐにグリ子さんがやってきて、そのクチバシでそっと、シワの寄っていた鼻筋を撫でてきて、その顔をやめなさいと態度で示してくる。


 優しく諭すように、母のように。


 グリ子さんにそこまでされてしまっては、フェーとしても何も言えず何も出来ず、たじたじで……何も言えずに素直に甘えることにし、寄り添い合いながらリビングへと向かっていく。


 それからお茶が出され、おやつが出され、少しの休憩の時間を挟んでハクトのユウカとフェーのための授業が開始となる。


 保有魔力について、幻獣との魔力共有について、魔力の制限について、コントロールについて。


 フェーの意図や何が起こってそうなったのかを察したかのようなその内容に、フェーはまた顔をしかめそうになるが……同じクッションにちょこんと座るグリ子さんのためにぐっとこらえる。

 

 そんなフェーの様子に気付いているのかいないのかハクトは授業を進め……ユウカはなんとなしに、無意識的にしていたそれを少しずつだが確実に会得していく。


 学院の授業でユウカがそれを会得できなかったのは、学院の授業内容が、教師達が至って常識的な内容、人物であったからだろう。


 突然変異的な異能に対応出来ず、どう教えたら良いか分からず……本来の学院の役目を思えばそれでは困るのだが……学院と言えど限界があったようだ。


 ハクトは異例の家に生まれ、異例の師に教わり、たまたまそういった素養を備えていたおかげかしっかりと対応出来ていて……そうしてユウカは、フェーが複雑な心境になる中、どうにかこうにか家を破壊しなくて済むかもしれない程度に成長するのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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