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慰労会のシメは


 たこ焼きを皆で食べて、みりんせんべいで挟むたこせんという食べ方も堪能して……グリ子さんも思う存分、好物のタコを食べられたことに満足して。


 ジュースがあり駄菓子があり、天井近くに設置されたテレビのリモコンも自由に操作してよくて……天井や壁、畳の雰囲気からまるで自宅のように安らげて。


 ハクトの家もユウカの家も、最近の主流であるフローリングの家となっていて、このお店のような雰囲気では無いのだが、それでも畳と土壁と木目天井の光景はどこか懐かしく、異世界生まれのブキャナンやグリ子さんまでがゆったりと安らいでいる。


「んーーー、ジュースもお菓子もあって、料理も格安、なんだか逆に贅沢っていうか、満足出来るっていうか……それでいて妙に癒されるお店ですねぇ」


 程々に膨らんだ腹を叩きながらユウカがそう言うと、ハクトが無言で頷き同意し、グリ子さんは翼をパタパタと動かしながら笑みを浮かべて同意をする。


「あたくしのお気に入りのお店ですからねぇ、ここが出来たばかりの時は、目新しいってなもんで、大人も子供も近所中の人間が集まって騒いで、連日の大盛況。

 その頃からか駄菓子と呼ばれるお菓子の開発が盛んになって連日新作が届いて……残ったものあれば消えていったものもあり、いやはや懐かしい思い出ですねぇ。

 そして出てくる料理だけは昔のまま……この後出てくるシメも長年変わりないままで、ありがたいやら嬉しいやらでやすなぁ」


 そしてブキャナンがそう言って……なんとも良いタイミングで店主がシメとやらを持ってくる。


「焼きおにぎりだ!」

「クッキュン!」


 それを見るなり声を上げるユウカとグリ子さん、ほんのり色づいたおにぎりを店主は、鉄板の上において、醤油ダレや味噌ダレを塗りながら焼いていって……店中が先程のソースの香り以上に良い香りに包まれる中、店主は焼きおにぎりを食べるための食器……長皿と器を用意する。


「……器?」


 それを見て声を上げたのはハクトだった。


 長皿は分かる、そういった皿におにぎりを乗せて出す店はかなり多い。


 しかし器にやきおにぎりとは一体どういうことなんだとハクトが訝しがっていると店主は、漬物とだし汁を持ってきて……それをテーブルの上にことんと置く。


「こいつはこうするためのもんなんですよ。

 香ばしく焼き上がった焼きおにぎりを器の中に入れて、好みで漬物を入れて、それからだし汁を入れてお茶漬けに。

 焼き上がったばかりのもんをそんな風にするなんて勿体ないと思うかもしれやせんが、なぁにここはこういう店、好きなもんを好きなように食べることが許されている場なんですよ。

 そういう訳でアタクシは漬物たっぷりのお茶漬けをシメにいただきやすよ」


 そう言ってブキャナンは手際よく茶漬けを作り出し……ユウカは普通に漬物と焼きおにぎりを食べ始め、そしてハクトはグリ子さんの方を見やる。


 グリ子さんはどっちを食べてみたいのか、どっちの方が好みなのか、視線での問いかけの答えは……どうやらお茶漬けの方らしく、ブキャナンの手元をじぃっと見やるグリ子さん。


 それを受けてハクトは、グリ子さん用の大きな器でお茶漬けを作ってあげて、漬物もしっかり入れてからグリ子さんの前にそれをそっと置く。


 するとグリ子さんは器の中にクチバシを突っ込み……ズゴゴゴゴゴと凄まじい音を立てながらお茶漬けを吸い上げていく。


「クッキュン!」


 そして器を空にしたら「おかわり!」とそんな声を上げて……ハクトは驚き半分呆れ半分といった様子で店主におかわりの注文をする。


 たこ焼きを食べた、お好み焼きを食べた、駄菓子もたくさん食べてジュースもいっぱい飲んだ。


 だというのにまだまだ食欲が衰えていないようで……衰えるどころか増しているかのような印象さえ受ける。


 おかわりが出来上がるとグリ子さんは、またズゴゴゴゴゴと吸い上げて、そしておかわりと頼んで吸い上げて。


 そうしてどんどん、どんどんお茶漬けを食べていって……その異様な食欲に段々とハクトとユウカは違和感といったら良いのか、焦りと言ったら良いのか、一体何が起きているのだという恐れにも近い感情を抱き始め……それを見てかブキャナンが声を上げる。


「どうやらグリ子さんは、成長をしているようですねぇ。

 こちらに来て様々な経験をして、演習でその経験が頂点に達して……この食事会が、それを後押しをして……。

 幻獣の成長というのは何が起こるか分からない、予想も出来ないものですが、まぁ、グリ子さんであれば危ないことにはならねぇでしょう」


 それを受けてハクトとユウカが安堵のため息を吐き出す中、ズゴゴゴゴゴゴと食事をし続けていたグリ子さんの羽毛がぶわりと膨らむ。


 膨らみ魔力を溜め込み、魔力の光を纏ってキラキラと煌めき。

 鳥であり獣であり、その両方の特徴を持つ羽毛がほんの一瞬、金属のような、龍の鱗のような硬さを見せて……そして溜め込んだ魔力がグリ子さんの中、中心、お腹の辺りに集中する。


 直後、グリ子さんの足元に何かがコロンと落ちる。


 白くて丸い……楕円の何か。


「タマゴ!?」


 そう声を上げたのはユウカで、すかさずブキャナンが立ち上がって駆けより、それに手を伸ばし、何かを探る。


「あ、ああ……えぇ、これはその、俗に言う無精卵のようで。

 いやはや、一瞬新たな幻獣が生まれてしまったのかと驚きやしたが、これであれば安全でございやしょう。

 この世界で新たな幻獣が産まれるなど、下手をすれば違法召喚以上の大騒動になるところでしたねぇ」


 探り終えてそんな事を言って……グリ子さん当人は気にすることなく食事を続けていて、グリ子さんの隣に座っていたハクトが顎を撫でながら声を上げる。


「ずっと見ていた訳ではないから絶対にそうだとは言えないが、恐らくこのタマゴはグリ子さんの体が生み出したものではないと思う。

 出産とかそういった兆候はなかったし、乾いたタマゴの表面もそれを示している。

 肉体的出産ではなく魔力的出産、魔力の結晶とでも言うべきか……。

 ふぅむ……この結晶、各大学はもちろん、学院や政府までが欲しがる研究材料になりそうな―――」


 と、ハクトがそんなことを言った瞬間、ユウカがシュバッと立ち上がり飛び上がり、グリ子さんの真後ろに着地してタマゴを抱き上げ、声を張り上げる。


「駄目です! どんな生み方であれグリ子さんが生み出したものをそんな風に扱うなんて!

 これをどうするのかの判断は親であるグリ子さんが決めるべきです!!」


 あくまでハクトは仮の話、このことを公表したらそうなるだろうという、一つの予想を口にしていただけなのだが、それをユウカは勘違いした形で受け止めてしまったようで、いつになく険しい表情をしてしまう。


 険しい表情をし、警戒感を顕にし、いざという時のために魔力を身にまとい、戦う準備をし……それを受けてタマゴが、結晶がユウカの魔力を吸い上げる。


 魔力を吸い上げ、どこまでも吸い上げ、ユウカの無尽蔵の魔力がタマゴに魔力を与え続けて……そしてユウカに抱き上げられたタマゴが脈動してしまい、その表面にヒビまでが入ってしまうのだった。


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