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慰労会


 それからしばらくの間、学院で学ぶべきことに関するハクトの講義が行われ……それが一段落した頃、ブキャナンが手を叩き声を上げる。


「反省会はここまでにいたしやしょう、いつまでも小難しいことを聞かせるのも可哀想ですし……そろそろお疲れ様会の会場へと移動しようじゃありやせんか。

 ……え? 聞いてない? いやいや、聞いて無いも何も学生さんをここまで巻き込んだのですから、社会人の当然の責務として慰労の一つや二つはしてあげませんと。

 えぇ……えぇ、予約は既に済ませておりやすので、ここはさぱっと諦めてついて来てくださるとありがてぇですな」


 途中で上がったハクトの疑問の声や抗議の声を一切受け付けず、言葉を止めることなく言い切ったブキャナンは恭しい態度で手をさっと胸に当てて……まるで高級レストランのウェイターがそうするかのように、ハクトとグリ子さんとユウカを下山道の方へと誘う。


 それを受けてハクトはため息混じりに、グリ子さんは瞳を煌めかせながら、ユウカはなんとも楽しそうにしながら下山をし……ブキャナンの案内に従って、山近くの木造民家へと足を進める。


 その民家は裏から見るとただの民家なのだが、表に回ってみるとビニール製の古ぼけた看板を掲げる駄菓子屋で……ハクトがなんだってこんな店に? と首を傾げる中、ブキャナン達はさっさと中へと入っていって……ハクトがそれを追いかける形で店内に入ると、小上がりの座敷となっている客席がハクト達を出迎える。


 店の半分が駄菓子屋でもう半分が小上がりで。


 二つの大きなテーブルがあり、周囲に座布団が並べられていて、テーブルの中央が鉄板になっていて……そんなテーブルのうちの一つには『鞍馬様予約席』なんて文字の書かれた手作り感あふれる紙筒が置かれていて、奥の席にブキャナンとユウカが座り、向かいの席に首を傾げたハクトと楽しげに周囲を見回すグリ子さんが座る。


 するとすぐに店の奥から、エプロン姿のおばあさんがニコニコ笑顔でスタスタと歩いてきて……ブキャナンに軽い挨拶をし、メニューの確認をした後、テーブルにセットされていた鉄板を起こして外して奥へとしまい、先程よりも小さい鉄板を持って戻ってくる。


 それをテーブルの中央にセットし……また店の奥へと向かい別の鉄板を持ってきてセットし……中央にただの鉄板、左にたこ焼き用の鉄板、右にたいやき用の鉄板という組み合わせを作り上げる。


 瞬間グリ子さんの目が見開かれ、ついでにクチバシも開かれ、羽毛が立ち上がって体全体がぶわっと膨らみ、なんとも嬉しそうに弾んだ鳴き声が上がる。


「クキュンクッキュン! キュキュキュン!」


 たこ焼きだ、たこ焼き用の鉄板だ! そんなことを言って喜んでいるらしいグリ子さんを見てブキャナンとユウカが微笑み……ハクトもまたグリ子さんが喜んでいるなら良いかと微笑み、そんな微笑む一同を見てニッコリと笑顔を深くした店主が、


「今から鉄板熱くしますからね、火傷しないようにしてくださいね」


 と、そう言ってからテーブル脇のつまみを操作し……鉄板が熱を持ち始める。


 それを確認してから店主はまた奥へと戻っていって……包丁とまな板によるリズミカルな音が奥から聞こえてきて、耳をピンと立ててその音に聞き入ったグリ子さんは、煌めく瞳でまだかまだかと、店主がいる方へと視線を送り続ける。


 そんなグリ子さんを見てハクトが和んでいると、店内をぐるりと見回したユウカが「へーへーへー」なんて声を上げてから、ハクト達に言葉を投げかける。


「こんなレトロなお店がこの辺りにまだ残ってたんですねぇ。

 ぱっと見はレトロなのにしっかり掃除が行き届いていて、鉄板とかもピカピカだし……でもテレビとかはとってもレトロで、素敵ですねぇ」


 そんな言葉に対しハクトが何かを言うよりも早く、こくりと頷いたブキャナンが言葉を返す。


「れとろ……れとろですかい。

 いやぁ、あたくしが初めてこの店に来た時は、なんともモダンで目新しいと思ったもんでやすが、時代が変わればという感じがしやすねぇ。

 ま、ま、ま、時代が変われど美味しいものは美味しいもんですから、ここは一つレトロな美味というやつを味わってみてくだせい。

 それと聞き及んだ所によるとグリ子さんはたこ焼きが好物だそうで……ここのは絶品ですから、期待してくださいな」


 するとグリ子さんは翼をパタパタと振るって嬉しそうにして、ユウカもグリ子さんに負けない笑みで喜びを表現して……ハクトも二人が楽しそうならと柔らかく微笑む。


 そうして和やかに時が過ぎて、調理が完了したのだろう、店主が奥からやってきて……いくつものボウルをテーブルの隅に置き、中の生地を鉄板に流し込み、それぞれの料理を作り上げていく。

 

 まずはたこ焼き、タコの切り身は大きく、具も多く……慣れた手付きできっちりと丸く整え、用意した皿に乗せたならハクト達へと配膳してくれる。


 ソースなどはお好みで自分でかけてと、ボトルが渡され……ハクトは自分の分と、グリ子さんの分にもソースやマヨネーズなどをかけていく。


 そうして食べ始めるとすぐにこれまた具だくさんのお好み焼きの調理が始まり……なんとも手際の良い、たまらない香りの調理が進められる中、すっと立ち上がったブキャナンが、店内の冷蔵庫の中にあったお茶のペットボトルを持ってきて、これまた店内の脇に置いてあった紙コップを持ってきて、勝手に注いでハクト達の前へと並べ始める。


 それを受けてハクトとユウカが、お店の品物を勝手に飲んでも良いのかと驚いていると、店主が、


「あとでしっかりお金をもらいますから、気にしないで飲み物もお菓子も好きに食べてくださいね。

 食べたらテーブルの脇にある注文紙に何を食べたか書いて、値段も書いておいてもらえると助かります。

 そこのみりんせんべい使ってたこ焼き挟んで、タコせんとか作ったら美味しいと思いますよ」


 なんてことを言ってくる。


 するとまずユウカが立ち上がり、グリ子さんもタコせんが食べたいと立ち上がり、二人で駄菓子コーナーの方へと駆けていく。


 そうしてワイワイと盛り上がる二人を見ながらハクトは、ブキャナンと共にお茶をゆっくりと飲み……それから出来上がったばかりのたこ焼きへと割り箸を伸ばすのだった。


お読みいただきありがとうございました。

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