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6、領地開発

(きょう)(ろく)四年(1531年) 六月 京 平安(へいあん)(きょう)内裏(だいり) 明智彦太郎


細川(ほそかわ)(どう)(えい)は腹を切ったか」

「御意」


 俺は広橋(ひろはし)()大弁兼(だいべんかね)(ひで)の問いにそう答えた。ここは公家たちの朝議の場だ。他にも勧修寺尹(かじゅうじただ)(とよ)がいる。二人とも、若手の公家だ。三好対細川・浦上連合の決着が着いた。


 勝負を決めたのは播磨の赤松だ。赤松次郎晴政は浦上の援軍に来たが、既に三好元長に内通していた。赤松と三好に挟撃に細川・浦上連合は崩れた。浦上村宗は討ち死に。俺が山科東荘で言い合いになった松田元隆も当然討ち死に。逃げた細川高国だったが、尼崎(あまがさき)で高国は三好軍に捕縛された。民家に隠れていた高国を三好軍に買収された子供たちが見つけて通報したらしい。高国は自害。天下人は呆気なく死んだ。


 三好元長の一人勝ちだ。京に進撃した元長はそのまま京に滞在している。


 そして、帝への戦勝報告を終えたところだった。宮中は静まり返っている。勝ったのは管領・細川晴元であり、将軍の弟で堺公方である足利義維(あしかがよしつな)である。だが、細川晴元軍の中核は三好元長であることは明らかだ。


「真に三好の勢威は留まることを知らぬでおじゃる。恐ろしや」


 広橋兼秀が白湯に口につけた。湯気が立っている。暖かそうだ。


「三好は敵なしでございまするな」

「彦太郎は三好びいきでおじゃるのう。三好の天下も続くまい。管領殿は疑り深い」


 今度は勧修寺尹(かじゅうじただ)(とよ)が言った。俺は三好の肩を持っているわけじゃない。状況を冷静に観察しているだけだ。三好元長が俺の忠告を聞き入れたら、元長の運命は変わるだろう。当然、息子の長慶も。


 ただし、細川晴元は曲者(くせもの)だ。政治的センスがあるので、三好元長を排除しようと考えるだろう。浦上村宗と細川高国を始末したのだ。脅威に感じるのは当然だ。その時に三好派であると俺まで粛清の対象になりかねない。


「管領様が」


「人の良さそうな顔をしておじゃるが、目は全く笑っておらぬ。怖や怖や」


 勧修寺が笑い声を上げた。確かにな。遠目から見たが、甘く見ると痛い目にあいそうだ。


「ところで、義晴殿は近江の観音寺に戻ったそうでおじゃるな」


 広橋が言った。義晴は将軍だ。堺公方・義維(よしつな)の実の兄に当たる。


「観音寺幕府と揶揄(やゆ)しておる声もおじゃるのう。六角定頼殿になついているそうじゃ」


「このままでは骨肉の争いとなりましょうな。兄と弟で」


 俺が言うと、二人ともびくっとなる。


「もう戦乱は御免でおじゃる。荘園も荒らされおるし」


 勧修寺が言うと、広橋も同意するように頷く。


「麿の荘園も荒らされて、娘たちが攫われたでおじゃる。浦上の武士は真に傍若無人(ぼうじゃくぶじん)でおじゃる」


「それに比べて、山科の荘園は荒らされておらず、(うらや)ましい」


 勧修寺が言うと、広橋も俺を見た。


「散々主上のお名前で脅し上げたので。荘園を守れてよかったです」


「ふむ。武士にしてはおくには惜しい。どうじゃ、麿の養子に」


 広橋が言い終わる前に武士たちがやってきた。三好元長と側近が二人。元長が笑みを浮かべる。


「帝はことの他、お喜びでございました。京の守りを頼むと」


 元長が自慢気に言うと、広橋も勧修寺も笑みを浮かべた。愛想笑いだ。


「さて、お二人、そして彦太郎殿。主上には悪いのですが、私は阿波勝瑞城に帰ろうと思っております。管領様の取り巻き連中がうるさくて、(かな)いませぬ」


「いや、筑前守殿。もう少し京に滞在されても」

「そうじゃ、今度、飛鳥(あすか)()さんのところで蹴鞠(けまり)がある。参加されぬか」


「飛鳥井さんのところで、ですか。是非とも参加したいのですが、残念ながら」


 元長が首を振った。


「久秀、どうしたのだ?」


 元長が隣にいた若い侍に声をかけた。いや、分かっていたけどさ。尋常じゃないオーラを発している。二十をいくつか越えた若き日の松永久秀が俺を見ている。前世での俺の親父殿だ。元長の祐筆だったな。確か。


「い、いえ。彦太郎殿を見ていると懐かしくなりまして」


「懐かしいか! ハハハ。久秀は面白いことを申す!」


「珍妙な心持にございます。彦太郎殿とは初対面というのに」


 俺をじろじろ見てくる。これってアレか。前回の経験が二周目の世界でも影響してくるというゲームでありがちな奴だろうか。だとしたら、神は意地悪だ。


「彦太郎殿、山科様のところにいても、退屈であろう。俺の所に来い。養子に迎えるぞ」


御免(ごめん)(こうむ)りまする。私は山科東荘の娘たちを守ることに手一杯にございます。私が離れたら、また人攫(ひとさら)いが出ます」


「彦太郎は優しいな。荘園の建て直しなど、無理だと思うがな」


 元長が冷酷にそう言い放つ。俺は元長の目を見る。感情などない。闇だ。心が疲れ切っている。そう感じた。











(きょう)(ろく)四年(1531年) 八月 京 山科東荘 明智彦太郎


 俺は佐江に抱き上げられて、頭を撫でられていた。女たちの香料の匂いで頭がくらくらしてくる。


 女たちは畑仕事を男に任せて、染料の製造に励んでいた。俺の発案だ。これなら巨額の利を生み出される。

近江、京、大和辺りで売る。何なら若狭(わかさ)でも売っていい。朝倉と山科は仲がいい。通行の邪魔はされないだろう。それと土地が空いているので、新住民の勧誘も始めた。この地をベッドタウンにする。染料だけじゃない。酒の製造も始めている。酒の製造に必要な酒蔵の建設も始めていた。元手の金は元長から借りた。俺の才能を買ってくれたらしい。


 山科言継と沢路隼人祐はやりたいようにやらせてくれている。東荘の農民たちは佐江誘拐の事実を突き付けたら、黙った。年貢も供出した。よっぽど、俺が怖いらしい。悪評は無名に勝る。怖がられるのはいいことだ。


 三好元長はさっさと勝瑞城に帰っていった。京の権力闘争は馬鹿らしいと言わんばかりだ。これで元長は死なずに済んだ。しばらくは京は平和だ。


「彦太郎様のおかげで東荘は生まれ変わります。これで私たちも人買いに怯えなくて済みます。ありがとうございます」


 若い女が言った。名前は知らない。しかし、聡明な女だ。


「私の方こそ、礼を言わせてくれ。そなたたちのおかげでこの荘園は豊かになる。いや、私が豊かにして見せる」


 佐江が愛おしそうに私を自分の胸に抱き寄せてきた。やめろ。眠くなる。


「もう。幼い身で頑張り過ぎですよ。ねえ、佐江」


 女が笑いながら、そう言った。佐江は俺を自分の子のように抱いている。俺の視界が暗くなった。眠るのだと思った。また前世の鍋姫との夢を見るのだろう。鍋、愛している……。


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