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魔力の器

 翌朝。

 キーラを抱いて目が覚めた。

 昨夜はやることをやったので、すっきりとした目覚めだ。

 体調も悪くない。


〈森羅万象〉で魔力量を調べてみると、回復どころかまた増えていた。

 いまなら〈浄化〉の魔術くらいなら連続で数回は使えそうだ。

 しかし魔力量ってどこまで増えるんだろう。

 試しに隣で眠るキーラの魔力量を調べてみる。


 …………。


 僕の十倍以上はあるみたいだな。

 さすがにこの世界で生まれ育っただけはある。

 増え方についても解析してみると、肉体の成長とともに増大しているのがわかった。

 産まれたばかりの赤子よりも大人のほうが体が大きいので、その分より多くの魔力を保有できるのだろうか。

 それを裏付けるように肉体的に成熟したあとは伸びがだんだん悪くなっている。


 しかし。

 ここ最近に至って再び魔力が増大しているようだ。


 なにが原因だろう。

 最近――もっというならここ数日の間。

 つまり僕と出会ってから?

 魔術契約……が原因ではない。


〈森羅万象〉によれば、夜の営みの後に増えているようだ。


 僕自身の魔力量の増え方も調べてみると、そこから大きく上昇しているように思える。

 まあ僕がこの世界に来てからまだ、一ヶ月も経ってないので情報が少なすぎて断定はできないが。


 しかしキーラについては顕著に現れているので間違いではないだろう。

 でもなんで夜の営みの後なんだ?

 さらに重ねて調べてみる。


 魔力は流体的で、人体では血に多く宿る。

 より正確には体液全般。

 男の場合は特に精のつく液。


 …………。


 魔力は思念によって動かすことができるならば、キーラを思いながら放出すれば、キーラの体に魔力を流すことになる。


 つまりそういうことになのだろうか?


 しかし僕の魔力も増えているのは、どういうことだ?

 あと自分の魔力を自分以外のものに流し込むのは抵抗感があって難しいはずだが……。

 そういえば意識して他人に魔力を流したことはなかったな。


 ちょっと実験して見ようか。

 そのためにはキーラに協力してもらいたいのだが、まだ寝ているので、先に物で検証してみよう。


 まずは枕元に忍ばせている護身用短剣を手に取る。

 これでも夜間の襲撃に備えて警戒は続けているのだ、一応だけど。

 ともかく。

 これに魔力を通してみる。


〈森羅万象〉で体内魔力を知覚し、思念操作する。

 手から放出した魔力を、短剣へと流し込むと、予想通り抵抗感があった。


 例えるなら息を吹き込む行為に似ているかもしれない。

 なにも遮るものがない場所で息を吐くのは簡単で、水の中で息を吐くのも、まあたいして抵抗感はないだろう。

 しかし風船を膨らませるために息を吐くのは力が要る――そんな感じ。


 じわじわと染み入るように、ほんの少量ずつしか流し込めない。


 たしか魔力は気体、液体、固体の順に流しにくくなり、保持の面ではその逆になる。

 例えば〈魔纏〉なら物の表面――つまりは空気中なので、魔力は流しやすく、維持はしづらい。

 短剣に魔力を宿らせる場合は、金属――すなわち個体なので魔力を流すのは難しいが、いったん入ってしまえば内部に維持しやすいといった具合だろうか。


 ちなみにこのふたつは効果も全く異なる。


〈魔纏〉による攻撃は魔力的な効果を持つが、内部に魔力を宿らせただけでは物理的な効果しかない。

 つまり事前に魔力を込めた矢を撃っても〈魔纏〉の効果は得られないということだ。

 それじゃあなんの意味もないのか、というと必ずしもそういうわけではない。

 物に宿った魔力は、その物自体を強化したり性質を変化させたりするらしいのだ。

 同じ材質の短剣であれば、魔力を多く宿したものの方が丈夫だとか、錆びにくいとか。


 問題は魔力を流し込むのが、なかなか難しいということだろう。


「むむむ――」

「ご主人様?」


 お?

 集中していて気づかなかったが、どうやらキーラが目を覚ましたようだ。


「おはよう、キーラ」

「おはようございます。それでなにをされていたのですか? まさか敵襲ですか?」


 キーラは周囲を警戒するように見回し、長剣に手を伸ばした。


「いや、大丈夫だよ。ちょっと実験をしてたんだ」

「実験?」

「物に魔力を宿らせる実験、かな」

「そうなのですか……。しかしなぜこんな朝から?」


 キーラが困惑の表情を浮かべた。

 まあそう思うよな。

 だけど、どう説明したものか。


「えっと……まずキーラは自分の魔力が上昇しているのに気が付いてる?」

「私の魔力がですか?」


 そういってキーラは体内魔力を確かめるように目を閉じた。


「そうですね、確かに増えているような気がします。すこし前から成長は止まったのかと思っていましたが……それにしてもどうしてご主人様はお分かりになられたのですか?」


 あ。

 いや、そうか。

 普通は他人の魔力量なんて計測できないよな。

 そもそも自分の魔力ですら把握するのが難しいんだから。

 余計なことを言ってしまった。

 まあいい。

 どのみちキーラにも実験に付き合ってもらう必要があったし、このくらいは教えてしまっても大丈夫だろう。


「このことはほかの誰にも秘密だが、僕は他人の魔力量を見抜くことができる」

「そんなことが!? さすがはご主人様です」


 キラキラとした尊敬の眼差しを受けると、なんともこそばゆい。 


「ん、まあそれでキーラの魔力が増えているのがわかったんだけど、その原因がすこし気になってね」

「それで実験ということですか……」

「うん。というわけだからキーラも手伝ってくれないかな?」

「もちろん、喜んでお手伝いいたします」


 相変わらずなにをするのか聞く前に了承するんだな……。

 ちょっと心配。

 まあともかくだ。

 他人の体に魔力を流す実験を始めよう。


「まずは手を握ってくれるか?」

「はい」


 すべすべとした女の子の手。

 指を絡めるように、しっかりと両手を握って僕とキーラで輪を作った。


「よし。それじゃあ魔力を流すけど、気分が悪くなったりしたらすぐに言ってくれ」

「わかりました」


 キーラのことだから我慢しそうな気もするが……そのあたりは僕が気をつけてやってみる。

 体内魔力を手のひらから放出し、キーラの手に流し込む。

 短剣のときよりも、ずっと抵抗感は少ないようだ。

 人体は約六割が水分だからだろうか。

 それともキーラがなにをするのか理解した上で受け入れてくれたからかもしれない。


「どんな感じがする?」

「なんだか体があたたかくなってきたような気がします」

「気分は悪くない?」

「はい。むしろ心地いいです。ご主人様と繋がっているときのような……」


 頬を赤らめたキーラが視線を下げた。

 それって……やっぱり夜のアレと魔力の上昇も関係がある証拠なのだろうか?


 ちなみにいまキーラも僕も寝起きで、全裸だ。


 そしていまの言葉で昨夜のことを思い出したせいで、健全な男の部分が反応してしまっている。

 朝の生理的な反応でもあるけれど……。

 うん。

 仕方ない。

 これも実験だ。

 昨夜の出来事を忠実に再現することでわかることもあるかもしれないし。

 というわけで、そのまま再現実験(・・・・)を行った。







 結果。

 魔力を交換するように、循環させると魔力の器が成長するようだ。


 具体的には、魔力は肉体と精神――いや思念体といったほうがいいだろうか――この二つの器に宿っているようなのだが、他者の魔力を取り込むと思念体の器が拡張するらしい。

 それと同時に肉体的な繋がりを持つことで、肉体も変容して、より高濃度の魔力を保有できるようになる……ということのようだ。


 ちなみに放出すると一時的に大きく消耗するが、その後は時間をかけて超回復した。


 他にもわかったことは多い。

 まず他人の魔力は意志の力で抵抗したり、受け入れたりすることができるということ。

 次に他人の魔力には思念が込められているので、相手の思いによって感じ方に差があるということ。

 そしてただ一方的に放出するのではなく、相手の魔力を受け入れ、循環させるように流動させることが大切なようだった。


 なんだっけ?

 たしか古代中国に房中術というものがあったと記憶しているが、もしかしたらそれと似た理論なのかもしれない。


 まあ、理論をより正確に実証するためにもこれからも実験は続けることにする。

 そう、あくまで実験だ。

 他意はないったらない。





 普段よりもずっと遅い朝食をとった後(アイリさんとエイラにはもうほぼ確実にバレてる気がする)、宿の中庭でキーラと魔術の訓練を行うことにした。

 売らずに持ち帰った一角兎の肉は、まだまだたくさんあるので、今日は狩りに行かなくてもいいし、調理はアイリさんたちに追加料金を支払う形でお任せしたから、迷宮へは行かなくてもいいだろう。

 あといまから日帰りで行くには、すこし遅い時間だったから、仕方ない。


「今日はキーラも一緒に〈魔纏〉から練習しようか」

「畏まりました」


〈魔纏〉の練習ならここでも十分な広さなので、安心して練習できる。

 それに鎧なども装備しなくていいのが楽だ。

 キーラの表情もばっちり観察できる。

 いまはとてもやる気に満ちた表情をしている。


「準備運動がてらちょっと試してみたいことがあるんだけど、いいかな?」

「また実験ですか?」

「そう、今朝の続きみたいなものだよ」


 魔力は自分のものより他者のもののほうが知覚しやすいので、お互いに循環させれば魔力操作をより簡単に修得できると思う。


「今朝の続きって、ここでですか?」


 キーラが顔を赤らめて、もじもじとする。

 急にどうした――って、まさか。


「いや、アレの前にやっていた手を繋いで魔力を流すやつのことだよ?」

「そ、そうですよね。それならお任せください」


 びっくりした。

 さすがに外で行為に及ぶつもりはない。


「えっと……まあ、とにかくやってみようか」


 キーラと手を繋ぎ、輪を作って、魔力を循環させる。

 体の中を温かな血が巡るような感覚。

 自分の魔力とは異なる存在感。

 やはり知覚しやすいな。


 しばらく、そのままの状態で魔力循環を行う。

 キーラへ魔力を流すときに若干の漏出があるが、ほんのわずかだし問題はないだろう。


「次は〈魔纏〉だ」

「はい」


 体外へ放出した魔力を体の周囲で維持する。

 僕は〈森羅万象〉で理想的な〈魔纏〉のイメージ情報を取得しているので、その通りに行う。

 体の周囲で停滞することなく、常に流動し続ける魔力。

 うん。

 成功だ。

 あとはこの状態を維持したまま、戦闘できるかどうかだな。


 キーラは前に見たときより、魔力の制御が上手くなっているようだが、それでも魔力はまだまだ漏出している。

 こればっかりは練習するしかないか。

 キーラにイメージを伝えることができればいいんだけど、〈森羅万象〉のような魔法がなければ、魔力から思念を読み取るのは無理だしなぁ。


 いや、待てよ。

 やりようはあるかもしれない。


「キーラ、これから僕がキーラに〈魔纏〉を行うから、その魔力の流れを模倣してくれないか?」

「私に〈魔纏〉を? ――わかりました。やってみます」


 弩の太矢に〈魔纏〉ができたのだから、キーラにもできるだろう。

 魔力は自分の体から離れれば離れるほど、制御が困難になるが、手を繋いだ状態ならしばらく維持することも問題ない。


 キーラの体に魔力を纏わせる。


 するとキーラは目を瞑って、魔力の流れに意識を集中する。

 最初は流されるままに魔力を放出しているだけだったが――やがて流れが掴めてきたのか、キーラが自分のペースで魔力を制御し始めた。


 いい感じだ。

 キーラの意識を邪魔しないように、僕の魔力をすこしずつ減らしていき、最終的にキーラの魔力だけで流れを維持させるために、僕の〈魔纏〉を切り離した。

〈森羅万象〉で見る限り、魔力の漏出はほぼ抑えられている。


「できました!」


 キーラが興奮した様子で声をあげる。


「うん、完璧だね」

「まさかこんなに簡単にできるなんて……ご主人様のおかげです」


 興奮冷めやらぬキーラが、握ったままの手をぶんぶんと振る。


「っ、わかったから落ち着いてくれ」

「し、失礼しました!」


 キーラは頬を赤らめつつ、なんとか落ち着きを取り戻した。

 そんなに嬉しかったのか?

 まあなんにせよ上手くいってよかった。

 戦闘時にも維持できるかは未知数ではあるが、この調子なら大丈夫だろう。


 それにしても、こんな簡単なら誰かがやってそうなものだが。


「キーラはこういうやり方で魔技を教わったことはないんだよね?」

「はい」

「聞いたこともない?」

「はい。魔技や魔術は秘伝の扱いなので、秘匿されるのが普通かと思います」

「なるほど。じゃあこのことは一応、ほかの人には秘密にしておいたほうがいいか」

「それがよろしいかと」


 なんだかどんどん秘密が増えていく気がする……。

 とはいえ、身を守る術も手に入ったので、一歩前進かな。


 よし。この勢いでガンガンいこう!


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― 新着の感想 ―
[一言]  無人島から来させて頂きました(笑)← これだと違う意味になりそうですが、そちら共々楽しませて戴いて居ります。  暫し中断なされている「迷宮都市の歩...」ですが、こちらも大変面白いです。い…
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